スポーツ庁 東京五輪目指し実績示せ

朝日新聞 2015年05月17日

スポーツ庁 五輪庁で終わらせるな

身近なスポーツを取り巻く環境は、どう変わるのだろう。

スポーツ庁が10月に誕生する。文科省の外局に置かれ、各省庁に分散していたスポーツ行政を束ねる司令塔としての役割が期待される。

2020年東京五輪・パラリンピックの招致成功が追い風になった。日本オリンピック委員会(JOC)はじめ、競技団体は意気が上がる。

東京五輪では金メダル数で世界3位をめざせ、と国にハッパをかけられ、すでに五輪競技の選手強化費は今年度63億円と、前年から22億円も増えた。JOCは五輪までの6年間で800億~1千億円の強化費が欲しいと、国に要望もした。

ちょっと、待ってほしい。

メダルラッシュは喝采を呼ぶだろうが、創設されるのは五輪庁ではない。ピラミッドに例えるなら、頂点のトップアスリートだけでなく、障害者スポーツを含め、幅広い国民がスポーツに親しめる環境作りが理想の姿。バランスが大切だ。

予算が膨らむ頂上に比べ、裾野の環境はお寒い。国内の公共スポーツ施設は1996年の約6万5千カ所から12年間で約1万2千カ所も減った。毎年1千カ所が消えている計算になる。

市町村の合併、人口減の影響もあるが、地方財政が悪化し、老朽化したまま閉鎖するケースがある。そうした右肩下がりの流れは止まりそうにない。

五輪選手の躍動に感動し、自分もやりたいと少年少女が思い立っても、近所に施設がなければ願いはかなわない。膨大な五輪投資をする意義が薄れる。

これまで健康・体力作りは厚労省、運動公園整備は国交省などと所管が分かれていた。そうした事業を一元化する青写真も描かれたが、既得権を持つ省庁の抵抗で見送りになったのは残念だ。効率化できる分野については順次、移譲を促したい。

なかでも、健康増進はスポーツと身近な関係にある。

今や年間約40兆円に上る医療費のうち、運動で抑制できる部分は7・7%に上る。筑波大の調査では、健康運動教室に参加した高齢者は、非参加者より年間約10万円、医療費が少なく済んだという研究データもある。

スポーツは一人だけでなく、大勢で楽しめる。人と人の絆、連帯が生まれる。文科省はスポーツを通して人々が一体感を持てる地域活性化事業を始めた。

健康で活力に満ちた長寿社会。半世紀後には65歳以上が国民の約4割になるニッポンの未来を見据え、スポーツの効用を生かしたい。

読売新聞 2015年05月19日

スポーツ庁新設 五輪成功へ選手強化の先頭に

スポーツ政策の司令塔としての機能を果たすことが、2020年東京五輪・パラリンピックの成功につながる。

「スポーツ庁」の新設を盛り込んだ改正文部科学省設置法が成立した。10月に約120人体制で発足する。

11年8月に施行されたスポーツ基本法の付則に、スポーツ庁設置の検討が明記された。その後、東京五輪の開催が決まり、スポーツ庁を求める機運が盛り上がったのは、自然な流れと言える。

日本のスポーツ政策は、縦割りの弊害が指摘されてきた。

五輪は文科省、パラリンピックは厚生労働省の担当だったことがその象徴だ。昨春、厚労省の障害者スポーツ部門が文科省に移管され、五輪とパラリンピックの選手強化を一体的に推進する体制は、ようやく整った。

それでも、競技場整備は国土交通省、スポーツビジネス振興は経済産業省など、依然、各省に所管がまたがる。文科省の外局としてスポーツ庁が新設されても、この状況は基本的に変わらない。

スポーツ庁に期待されるのは、効率的にスポーツ政策を推進する調整機能である。五輪メダリストら、民間人からの起用が有力視される初代長官には、話題作りよりも実務能力が求められる。

当面の最大の課題は、東京五輪・パラリンピックに向けた選手強化だ。地元開催の大舞台で日本選手が活躍すれば、スポーツ熱は一層高まるだろう。

スポーツ庁は、各競技団体に強化費を配分する際の中心的役割を担う。今年度の「競技力向上事業費」は74億円だ。

限られた予算の中で、最大の成果を上げる必要がある。各競技団体に広く薄く行き渡らせる傾向が強かった日本オリンピック委員会(JOC)主導の従来の配分方法を変えるのは妥当である。

メダル獲得が有望な種目に思い切って重点配分するなど、メリハリを利かせることが重要だ。

柔道やフェンシングなどの競技団体で、助成金の不正受給といった不祥事が相次いでいる。公金である強化費を扱う各団体のガバナンス(統治能力)の欠如は深刻だ。規律向上へ、スポーツ庁が指導力を発揮してもらいたい。

東京五輪・パラリンピック特別措置法案が近く成立すれば、政府内の総合調整にあたる五輪相が誕生する。五輪準備を円滑に進めるには、大会組織委員会と五輪相、スポーツ庁の協力態勢を築き、役割を明確にすることが肝要だ。

産経新聞 2015年05月16日

スポーツ庁 東京五輪目指し実績示せ

日本スポーツ界の悲願だったスポーツ庁が、10月1日に開設される。

「司令塔」の誕生は、2020年東京五輪・パラリンピック成功への追い風となろう。

同庁の設置は、20年五輪招致の成功がもたらした「特需」との陰口も聞く。五輪を控えた今は、スポーツ関連予算の獲得にも理解を得やすい。まずは陰口を逆手に取って東京五輪までの5年間に全力をあげ、目に見える実績を残すことで自らの存在意義を高めてほしい。

文部科学省の外局として発足する同庁は、選手強化を担う競技力向上課、普及や子供の体力向上などに取り組むスポーツ健康推進課など5課からなる。教育行政の一つだったスポーツ行政が独立する意義は大きい。

ただし、国土交通省が担う運動施設整備など、他府省が所管するスポーツ関連事務の統合は見送られた。スポーツ庁は法に定められた「関係行政機関の事務の調整」にとどまらず、スポーツ施策全般の旗振り役を果たすことを目指してほしい。

同庁設置の目的は大きく分けて2つある。短期的には東京五輪に向けた選手強化、長期的にはスポーツの普及・振興だ。

国際大会での日本選手の活躍に刺激を受けた子供たちが、スポーツの楽しみを覚える。それが競技人口の増加につながり、新たなトップ選手を生む土壌が育つ。

選手強化と普及・振興は車の両輪である。20年五輪以降も活躍できる若手の育成という「先行投資」の観点も欠かせない。

文科省の平成25年度調査によると、中学女子の約3割は1週間の総運動時間が「60分未満」だった。こうした子供の「スポーツ離れ」への対処も、同庁の重要な役目となる。スポーツ庁は文科省のスポーツ・青少年局を主体に、8府省から職員約120人が配置される。「脱縦割り」の機動力ある組織として、柔軟な発想を施策に反映させてほしい。

平成23年に施行されたスポーツ基本法は、前文で「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利」とうたっている。

スポーツの価値をどう高め、スポーツを国民の生活にどう根付かせるか。これが同庁の根源的な役割である。このことを忘れてはならない。

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