震災復興事業 やむを得ぬ自治体の一部負担

読売新聞 2015年05月13日

震災復興事業 やむを得ぬ自治体の一部負担

東日本大震災の復興事業について、来年度から被災自治体に費用の一部負担を求める――。政府が新方針を発表した。

被災地の再生のために何を優先すべきか。その見極めが従来にも増して重要になろう。

政府は、2011年度から今年度までの5年間を集中復興期間と位置づけ、復興事業の全額を国費で賄ってきた。

集中期間中の復興予算は26・3兆円に上る。所得税増税などでようやく捻出した財源だ。まとまった財源を引き続き確保するのが困難な中、政府による支援が縮小するのはやむを得まい。

政府は、復興事業のうち、「基幹的事業」については全額負担を継続するとの方針を掲げた。高台移転や復興住宅建設などを想定している。東京電力福島第一原発事故に伴う除染や風評被害対策も、政府が全額を負担する。

甚大な津波被害を受けた沿岸部の住宅再建は大きく遅れている。第一原発周辺では、住民の帰還のメドさえ立たない地域がある。厳しい状況にある被災者への手厚い支援は、今後も欠かせない。

地元に一部負担を求めるのは、地域振興や将来の災害への備えなど、被災地だけの課題とは必ずしも言えない事業だ。内陸部の道路整備や新規の防潮堤建設などが該当するという。

地元負担のないことが、過大な事業につながったとの指摘がある。一部負担により、コスト意識が芽生え、自治体が必要性の高い事業を主体的に選別する姿勢が強まるのではないか。

見直しについて、竹下復興相が「自立する意思を自治体に求めたい」と述べたのは理解できる。

国費による全額支援は極めて異例の措置だった。阪神大震災では、10年間の復興事業費約16兆円のうち、5兆円以上を兵庫県と神戸市などで負担した。

自治体側は集中期間の延長を求めてきた。過疎化が進む東北の市町村の財政基盤が、神戸市などに比べ、脆弱ぜいじゃくなのも事実だ。政府は、被災地以外で同じ事業を行った場合より、地元の負担割合を軽減する。妥当な対応である。

16~20年度の復興事業の規模や地元の負担割合について、政府は被災地の自治体との協議に入り、6月末に決定する。

住民の生活再建に向けた課題は、地域によって異なる。政府には、地元の要望をきめ細かくみ取る姿勢が求められる。

自治体側も、復興事業の再点検に取り組んでもらいたい。

産経新聞 2015年05月14日

震災復興事業 実情踏まえた地方負担を

政府が、平成28年度以降の5年間に行う東日本大震災の復興事業について、被災地にも一部予算の負担を求める基本方針をまとめた。

国は震災発生から5年間を「集中復興期間」と位置づけ、事業の全額を国費で賄う異例の対応を取った。その期間が終わるのを機に、負担のあり方を見直すものである。

復興に向けた効果を見極め、真に必要な予算を重点配分すべきだ。そこに被災地がより責任を持ってかかわるよう、一定の負担を求めるのはやむを得まい。

国には、負担に対する被災地の不安を重く受け止めてほしい。一方的に自治体に負担を押しつけるのではなく、復興の進捗(しんちょく)状況など被災地ごとの実情を踏まえて、きめ細かな対応を求めたい。

基本方針では、今後も国費で全額負担する事業と、被災地に負担を求める事業を分類した。このうち、高台移転などの基幹事業や原発事故からの復旧・復興事業を全額国費としたのは当然だ。未曽有の大災害からの復興に国が全力を挙げるべきは言うまでもない。

一方、復興につながるものでも地域振興や防災など全国共通の課題に対処する事業には被災地にも負担を求める。被災地以外の地域よりは負担を軽くするが、これらによる被災地の負担額は5年間で数百億円と見込まれている。

ここで指摘すべきは、被災地の復興状況や財政状況には、大きなばらつきがあることだ。同じ県内でも沿海部と内陸部では事情も異なろう。一律に負担を求めるあまり、復興計画に混乱が生じるような事態は避けたい。国と県、市町村の役割分担に工夫が必要だ。

その上で従来の事業を十分に検証し、確実に成果が挙がるような仕組みづくりをすべきである。

特に、現在の枠組みが、国民への増税ありきで財源を確保したことを忘れてはならない。巨額な復興予算を当てにした無駄はなかったか。復興と直接関係のない事業への流用や使い残しも指摘された。そうした点を踏まえた上での復興論議が求められよう。

政府は6月末までに、具体的な事業や被災地の負担率について自治体と調整した上で、新たな枠組みを最終決定する。

復興はいまだ道半ばだ。大切なのは、新たな5年間で、被災地が現実的で持続可能な復興を確実に果たしてゆくことである。

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