東日本大震災の復興事業について、来年度から被災自治体に費用の一部負担を求める――。政府が新方針を発表した。
被災地の再生のために何を優先すべきか。その見極めが従来にも増して重要になろう。
政府は、2011年度から今年度までの5年間を集中復興期間と位置づけ、復興事業の全額を国費で賄ってきた。
集中期間中の復興予算は26・3兆円に上る。所得税増税などでようやく捻出した財源だ。まとまった財源を引き続き確保するのが困難な中、政府による支援が縮小するのはやむを得まい。
政府は、復興事業のうち、「基幹的事業」については全額負担を継続するとの方針を掲げた。高台移転や復興住宅建設などを想定している。東京電力福島第一原発事故に伴う除染や風評被害対策も、政府が全額を負担する。
甚大な津波被害を受けた沿岸部の住宅再建は大きく遅れている。第一原発周辺では、住民の帰還のメドさえ立たない地域がある。厳しい状況にある被災者への手厚い支援は、今後も欠かせない。
地元に一部負担を求めるのは、地域振興や将来の災害への備えなど、被災地だけの課題とは必ずしも言えない事業だ。内陸部の道路整備や新規の防潮堤建設などが該当するという。
地元負担のないことが、過大な事業につながったとの指摘がある。一部負担により、コスト意識が芽生え、自治体が必要性の高い事業を主体的に選別する姿勢が強まるのではないか。
見直しについて、竹下復興相が「自立する意思を自治体に求めたい」と述べたのは理解できる。
国費による全額支援は極めて異例の措置だった。阪神大震災では、10年間の復興事業費約16兆円のうち、5兆円以上を兵庫県と神戸市などで負担した。
自治体側は集中期間の延長を求めてきた。過疎化が進む東北の市町村の財政基盤が、神戸市などに比べ、脆弱なのも事実だ。政府は、被災地以外で同じ事業を行った場合より、地元の負担割合を軽減する。妥当な対応である。
16~20年度の復興事業の規模や地元の負担割合について、政府は被災地の自治体との協議に入り、6月末に決定する。
住民の生活再建に向けた課題は、地域によって異なる。政府には、地元の要望をきめ細かく汲み取る姿勢が求められる。
自治体側も、復興事業の再点検に取り組んでもらいたい。
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