カジノ法案 根本的に見直せ

朝日新聞 2015年05月08日

カジノ法案 根本的に見直せ

統合型リゾート(IR)でカジノを解禁する法案を先月末、自民、維新、次世代の3党が国会に再提出した。

昨年の衆院解散でいったん廃案になったものだ。法案をつくった超党派議連は「20年東京五輪までに実現を」という。

ギャンブルは、犯罪を誘発したり、暴力団など反社会的勢力の資金源となったりする恐れがある。遊びとはいえ、金をかけて射幸心をあおるカジノの設置は、ギャンブル依存症や多重債務者を生む恐れもある。

提案した党の中にも慎重派がいる。推進派議員は何度も法案を出す前に、なぜ国民の間に反対論が根強いのか、根本的に考え直すべきだ。

再提出した法案には、依存症への懸念に配慮し、日本人の入場に何らかの制限を課すよう、制度設計を担う政府に求める条文を加えた。だが、これだけで不安はぬぐえるだろうか。

すでに日本にはパチンコのほか、競輪、競馬などの公営競技で、ギャンブル依存症の患者は相当数いる。昨年、「依存症が疑われる成人は536万人いる」とする厚生労働省研究班の推計が注目を浴びた。

カジノの収益の一部を依存症対策にあてればいい。超党派議連はそんな考えも打ち出す。

だが、依存症の人たちへの対策は今すぐにでも国の責任でやるべき課題だ。カジノ解禁とセットにする発想は、本末転倒と言わざるを得ない。

推進派が強調する経済効果にも疑問が消えない。

韓国、シンガポール、ベトナムなど各国が次々と大型カジノを誘致し、アジアのカジノ市場は競争が激しくなる一方だ。マカオでは昨年、カジノ収入が初めて減少に転じた。中国政府が反腐敗運動を強化し、「上客」の足が遠のいたという。

「日本人の需要を引き出せば勝機は十分ある」との見方もあるが、それでは入場制限を設ける方針と矛盾してこよう。

カジノ熱をあおるのは政財界だ。中国や東南アジアで富裕層が増え、観光ブームが続く。IRで日本に呼び込もうというわけだ。しかし海外の観光客にとって日本の最大の魅力は、各地に根付く歴史と伝統だろう。欧米発祥のカジノが、日本の魅力向上につながるだろうか。

昨年末に知事が交代した沖縄県は「好調な観光の将来に影響を及ぼしかねない」として、カジノ誘致競争から撤退した。

すでにギャンブル大国と言われるこの国で、カジノを新たに認める必要があるのか。現時点では、とてもそうは思えない。

読売新聞 2015年05月11日

カジノ法案提出 依存症対策も政府に丸投げか

カジノの負の側面を直視し、具体的な対策を示さなければ、とても国民の理解を得られまい。

自民、維新、次世代の3党が、カジノなど統合型リゾート(IR)の推進法案を衆院に再提出した。

法案は、超党派の議員連盟が作成した。刑法の賭博罪に問われるカジノを解禁したうえ、ホテル、商業施設などと一体化したIR整備を進める内容だ。詳細な制度設計はすべて政府に委ね、1年以内に実施法を制定するという。

法案は2013年12月に国会に提出されたが、昨年11月の衆院解散により廃案になった。

公明党に加え、自民党の一部にもカジノ解禁に慎重論があり、成立の見通しは立っていない。

しかし、議連関係者には、20年の東京五輪までにカジノを建設するため、とにかく今国会中に法案を成立させたいという、安易で前のめりな姿勢が目立つ。

疑問なのは、社会問題になりかねないギャンブル依存症の人の増加について、政府に対策を丸投げしていることである。

法案は、カジノ施設への日本人の入場制限について「必要な措置を取る」としているだけだ。

カジノは、競馬、競輪など既存のギャンブルと比べて、賭け金が高額になりがちで、依存症の人が急増する危険性がある。

カジノ客が多重債務に陥れば、犯罪に走ったり、家族崩壊を招いたりする恐れが指摘される。ギャンブル依存症の疑いがある日本人が536万人に上る、という厚生労働省研究班の推計もある。

これらに伴う社会的コストの拡大を軽視すべきではない。

シンガポールでは、自国民や永住者から高額な入場料を徴収したうえ、本人や家族の申告で入場を禁止できる制度を導入している。入場禁止者は年々増加しており、20万人を超したという。

カジノは、依存症以外にも、多くのリスクを抱えている。暴力団など犯罪組織の介入や、マネーロンダリング、周辺の治安悪化、青少年への悪影響などである。

議連は、カジノ解禁が外国人観光客の増加や地域活性化に効果がある、と主張している。

だが、そもそもカジノの収益は主に客の負け分で成り立つ。カジノの収益増は周辺地域の商業の売り上げ減を招くとの指摘もある。成長戦略として筋が良くない。

一連の問題を慎重に吟味し、説得力ある対策を講じることなく、法案成立を目指すのは、立法府として無責任ではないか。

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