保守党勝利 「強い英国」復活を目指せ

朝日新聞 2015年05月11日

英国政権続投 欧州大国の責任自覚を

英国の総選挙(下院定数650)で、与党の保守党が半数を超える331議席を獲得した。キャメロン首相は今後5年間、引き続き、政権を担う。

過半数を得る政党はないだろう、との大方の予想が覆った背景には、落ち込みかけた景気を回復させた現政権の手腕への評価があったといわれる。

それでも今回の選挙は、英国の世論がいかに多様かを示した。スコットランドの独立を掲げる地域政党が躍進し、第3党となったのが一例だ。

国民の意識や立場が細分化されたなかで、経済運営で強みを持つ保守党が、当面の中道層の支持を得て、相対的な優位に立ったといえそうだ。

だが、保守党の得票率は30%台後半に過ぎず、全権委任を意味するわけではない。政権は、そこを誤解してはなるまい。むしろ、異なる立場の対話や合意形成がこれまで以上に重要だ。

キャメロン氏は党首としてではなく、国民統合の推進役として、そして欧州の責任ある大国のリーダーとして、重い責務を果たすことが求められる。

スコットランド独立の是非を問うた昨年の住民投票をめぐっては、英国という国家の将来像の揺らぎがあらわになった。首相は、欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票を2017年末までに実施する公約を掲げており、欧州の中での英国のあり方が問われることになる。

多様化する英国内の意見をいかに広く、大きくまとめるか。政党政治の新たなモデルの構築を政権はめざしてほしい。

EUをめぐる国民投票は、英国だけでなく、欧州全体の行く末を左右する出来事となる。この公約は、EUに懐疑的な人々の支持を引きつける選挙向け戦略の側面も強かったが、今後、英国最大の政治課題として論戦が続くことになる。

投票結果がどうなるか、予想はつかない。仮に離脱となれば、欧州全体への影響が計り知れない。何より英国自身も大きく傷つくだろう。

反EU意識は、英国民の間に確かに根強いものの、国内の経済的不平等など不満のはけ口となっている面も拭えない。政治が問題の核心にきちんと向き合わず、国民感情を外に向けさせるようでは、ポピュリズムのそしりを免れまい。

実際には、英国抜きのEUも、EU抜きの英国もあり得ない。この現実を、キャメロン政権はしっかりと見つめるべきである。EUの将来像は、英国の未来図と大きく重なることを忘れてはならない。

読売新聞 2015年05月09日

英保守党勝利 経済安定への期待が示された

経済安定への国民の期待が、苦境にあった政権党を救ったのだろう。

英国の総選挙で、キャメロン首相率いる保守党が勝利を収め、首相続投が確実となった。

保守党は定数650の下院で、330台の議席を獲得し、過半数を確保した。最大野党・労働党は、20議席以上減らし、敗北した。事前には、両党の大接戦が予想されたが、有権者は保守党を明確に信任したと言える。

政党支持率で、保守党はここ数年、労働党の後塵こうじんを拝していた。住民サービスの縮小など財政立て直し策が不評だったためだ。

保守党が逆転できたのは、英国経済の復調による面が大きい。昨年の経済成長率は2・8%と、先進7か国で最高だった。法人税減税などによる経済活性化の実績を訴えたことも奏功した。

労働党のミリバンド党首は、格差拡大を批判し、最低賃金引き上げなどを公約したが、経済運営の実行力が疑問視された。

2010年の前回総選挙で、保守党は過半数を獲得できず、中道左派・自由民主党と協力し、戦後初の連立政権を樹立した。

今回も単独政権を担える党はないとの予測から「2大政党制の終焉しゅうえん」がささやかれていたが、土壇場で保守党が底力を示した。

注目すべきは、スコットランド民族党(SNP)の躍進である。地元の59議席のほとんどを占め、第3党の座を確保した。

スコットランドの独立の是非を問うた昨年9月の住民投票で、SNPは独立運動を主導し、賛成が反対の10ポイント差にまで迫った。その後も、党勢を拡大している。

今後、スコットランドへの権限移譲が加速しよう。SNPの動向次第では独立問題が再燃し、英国の不安定材料になりかねない。

キャメロン氏の難問は、欧州連合(EU)との関係見直しだ。

保守党は、EU加盟継続か脱退かを問う国民投票の17年末までの実施を公約に掲げた。移民の急増などで、反EU感情が国民に強まっているためだ。

だが、仮にEUを離脱すれば、英国経済が打撃を受け、欧州も混乱しかねない。経済再建を重視するキャメロン氏には、世論がEU残留に向かうよう、指導力を発揮することが求められる。

キャメロン氏は昨年来、内政にかかりきりで、ウクライナ情勢など外交面の存在感が薄れていた。アジアインフラ投資銀行への参加を巡り、すきま風が吹いた米国との関係修復なども課題である。

産経新聞 2015年05月09日

保守党勝利 「強い英国」復活を目指せ

英国総選挙で、キャメロン首相率いる与党・保守党が、単独過半数を獲得した。

英国は北大西洋条約機構(NATO)の中心メンバーであり、かつては世界、欧州の盟主でもあった。過去5年間キャメロン政権は、世界経済の後退を背景に内向きに終始した。続投が確実視される首相は、可能な限り強力な政権運営の態勢を整えてほしい。

事前の世論調査に反し、保守党は現有議席から大きく上乗せした。リーマン・ショック後の経済立て直しを最優先した現政権への有権者の一定の評価が、その最大の要因だろう。

英国は、米国にとって最大の同盟国だ。その英国が影の薄い存在であっては、ウクライナや中東情勢で米国への協力を十分に果たせず、米国が力を発揮できない結果につながろう。

政権基盤が強まったことを機会にこうした状態を脱すべきだ。

キャメロン氏の対中姿勢にも懸念がある。中国が恣意的運営への不透明さを残したまま設立を進めているアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を、いち早く表明し、各国が雪崩を打って参加を決めるきっかけを作った。

香港の「一国二制度」をめぐり学生らが民主化を求めた昨年のデモでも、旧宗主国でありながら、中国の国際公約違反に抗議することをあえて避けた。

アジアで強引な勢力拡張を続ける中国に対して、英国が日本や米国などと足並みをそろえていたら、事態は異なったものになっていたかもしれない。

欧州連合(EU)離脱の是非をめぐり、キャメロン政権が2017年末までに実施すると公約した国民投票も課題の一つだ。

ギリシャ経済危機などをめぐりEUの結束が揺らぐ中で、英国の離脱が現実になれば、欧州統合のプロセスには大打撃となろう。金融市場の混乱など世界経済への影響は計り知れない。離脱論のこれ以上の高まりを防ぐための賢明なかじ取りを期待したい。

スコットランド独立を唱える地域政党、スコットランド民族党(SNP)が、労働党の大票田を奪って第三党へと大躍進した。

だが、昨年の住民投票で分離独立は10ポイント余りの大差で否決された。英国の分裂を国際社会も望まない。SNPは、そのことを肝に銘じてもらいたい。

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