温室ガス削減 原発活用で高い目標に挑もう

朝日新聞 2015年05月04日

温室ガス目標 政府案は意欲に欠ける

地球温暖化に立ち向かう意欲に欠けているというほかない。政府が新たにまとめた温室効果ガスの削減目標案である。

2030年のガス排出量を13年に比べて26%減らすという。気候変動枠組み条約や京都議定書の基準年1990年に比べれば、40年かけてわずか18%ほど減らす目標に過ぎない。

すでに1人当たり排出量で日本より少ない欧州連合(EU)は、90年比で40%以上の削減を掲げている。それに比べて政府案のレベルは低すぎる。

実質的に国際水準に劣るのに、基準年を最近の年へずらしたため、そう遜色がないようにも見える。そんな姑息(こそく)なやり方で近年の無策をごまかしては、国際社会の信頼を失うだけだ。真剣に考え直すべきである。

最大の問題は、経済成長で当然のようにエネルギー消費が伸びるとしている点だ。原発回帰を進めようとするのも、つまりはエネルギー消費構造への切り込みが足りないからである。

日本はEUなどと異なり、京都議定書で13~20年のガス削減に参加しなかった。このため、国全体の取り組みがゆるみ、政府が基準年とした13年の排出量は90年より約11%も増えた。

それは原発事故の影響だけではない。この間、事務所など業務部門の排出量は2倍以上、家庭部門も1・5倍以上になった。政府案は両部門での省エネを特に強めるというが、それでも業務部門の30年の想定排出量は90年より多く、家庭部門もわずかに下回る程度だ。

全体の約3割を排出している産業部門の削減幅が、13年比で約7%というのは、あまりにも低すぎる目標である。

確かに産業部門は業界ごとに計画を立てて省エネを進め、90年比で約15%減らしてきた。だが、もっと余地があるはずだ。

経済産業省系の省エネルギーセンターによると、製造業では保温断熱材の劣化だけでエネルギーを10%も損しているという。複数の工程や事業所を結んでの省エネも遅れている。

欧米は経済成長とエネルギー消費の切り離しを積極的に進めている。例えば、電力会社などエネルギーの供給や小売りを担う事業者に一定の供給削減を義務づけることで、工場や事務所、家庭などの省エネ投資を促す政策が広がりつつある。

その結果、省エネ策を提案・提供する新産業が育ってきた。

省エネは世界の一大潮流である。国内で本気になって最新の経験を積まなければ、急速な成長が見込まれる途上国の省エネ需要も取り込めないだろう。

読売新聞 2015年05月02日

温室ガス削減 原発活用で高い目標に挑もう

温室効果ガスの排出量を、2030年度までに13年度比で26%削減する――。

政府が日本の新たな目標案をまとめた。

安倍首相が6月の先進7か国首脳会議で表明する。

原発の活用を前提とした30年時点の電源構成や、省エネルギー技術の普及予測を踏まえた目標だ。実現可能性を重視しつつ、可能な限り高い数値を設定した。

鳩山元首相は09年、「20年に1990年比25%削減」を唐突に打ち出したが、政策的な裏付けが乏しく、批判を浴びた。

温室効果ガスの削減には、社会全体の取り組みが欠かせない。過去の苦い経験を考えれば、今回の目標は妥当な内容と言えよう。

新目標は、産業部門の二酸化炭素(CO2)削減率を6・5%とした。各業界の自主行動計画に沿った数値だ。生産活動に悪影響を与えないよう考慮したのは、適切な判断である。

商業・サービスなどの業務部門と家庭部門は4割、運輸部門も3割減と、それぞれ高い目標を設定した。オフィスなどの排出削減が思うように進んでいないため、一層の省エネを促す狙いがある。

建物の断熱対策、照明のLED化、次世代自動車の普及などを加速させるため、政府には効果的な施策が求められる。

東日本大震災後、日本の温室ガス排出量は増え続けている。全原発が停止し、火力発電の比率が増えているためだ。

地球温暖化対策上、CO2を排出しない原発は、重要なエネルギーである。安全性が確認された原発を再稼働させ、将来的には新増設も進める必要がある。

温暖化対策の国際交渉は、今年が大きなヤマだ。年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、京都議定書に代わる新たな枠組みが決定される見通しだ。

協議では、自国に有利な枠組みにしようと各国の利害が絡む。

米国は25年までに05年比26~28%減、欧州連合は30年までに1990年比40%減とする目標を国連に提出している。

日本の削減目標は、これらと比べても遜色がない。政府は、温暖化対策に取り組む積極姿勢を世界に示すことができるだろう。

各国の削減目標も重要だが、忘れてはならないのは、世界全体の排出量をいかに減らすかという視点である。排出量が急増する中国など新興国・途上国での削減がカギとなる。省エネ技術による支援は、日本の有力な貢献策だ。

産経新聞 2015年05月04日

温室ガス26%減 高すぎる目標を危惧する

本当に実現可能な数字なのだろうか。

地球温暖化防止のために二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、日本は2030年までに26%削減するという政府の目標案が示された。

あまりにも高く、極めて疑問だ。京都議定書の下で、6%の削減を引き受けた日本は、その達成に苦しみ続けたではないか。

京都議定書の体制には、二酸化炭素の半分近くを排出する中国と米国が参加しておらず、効果は焼け石に水に等しくなっていた。

20年からは、途上国を含む全世界が参加して温室効果ガスの排出削減に取り組む新たな制度がスタートしようとしている。

数年来の討議を経て、今年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の場で、本決まりとなる見通しだ。

米国は25年までに26~28%、欧州連合(EU)は、30年までに少なくても40%という削減目標を日本に先んじて掲げている。

政府は26%を「国際的に遜色のない数字」と自賛しているが、排出削減の数値で肩を並べようとする発想が不適切なのだ。

日本は京都議定書の前から省エネに取り組んでいる。米国などに比べると削減余地が小さい。

二酸化炭素を排出しない原子力発電が健在だった時期においても6%の達成が困難を極めた主因は、そこにある。

26%削減の内訳は、再生可能エネルギーと省エネに頼む部分が大きい。そこに不安の種を宿す。

高コストの太陽光発電など、再生可能エネルギーが、原発の発電量をしのぐ電源構成では、中小企業や一般家庭に経済負担が長期に重くのしかかる。

政府は国際交渉の場で、日本のこれまでの真摯(しんし)な取り組みと原発の活用が思うに任せない現状をしっかり主張すべきである。

だが、二酸化炭素の削減に背を向けるのではない。気候変動や海洋酸性化の進行防止、化石燃料温存のためにも排出減は当然だ。

各国の削減量の単純比較を超えた実効ある施策を進めたい。日本が着手した途上国への削減技術支援策・二国間クレジット制度(JCM)の輪を広げるべきだ。

地球を守る理念は美しい。しかし、その裏面には各国の国益をめぐっての冷徹な計算が存在している。これを忘れると国が傾く。

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