JR事故10年 教訓を安全の礎に

朝日新聞 2015年04月24日

JR事故10年 教訓を安全の礎に

「生」と「命」。現場近くの畑に地元住民が花で描いた文字が、惨事の記憶を呼び起こす。

死者107人、負傷者562人を出したJR宝塚線脱線事故から25日で10年。この半世紀で最悪の鉄道事故はなぜ防げなかったのか。遺族や負傷者の問いかけは今も続く。

強制起訴されたJR西日本の元社長3人には2度の無罪判決が出た。遺族らの強い意向を受け、検察官役の指定弁護士は今月、最高裁に上告した。

組織としての責任の取り方の一つは、事故を起こさない会社へ生まれ変わることだ。

この10年で、JR西はどこまで変わっただろうか。

事故当時は、ミスをした運転士を業務から外し、懲罰的な教育を課していた。それが運転士を萎縮させ、よりミスを重ねる危険を生んだと指摘された。

私鉄との競争に勝つため、ダイヤ上のゆとりを削って電車を速くした。こうした効率優先の経営姿勢も強い非難を浴びた。

事故後、JR西はさまざまな改革を進めた。

08年には、リスクを現場ごとに洗い出し、優先順位を決めて解決していく制度を他社に先駆けて整えた。電車のダイヤにはゆとりを加えた。軽微なミスは処分対象にしないことにした。

それでも、安全性が飛躍的に高まったとはいいがたい。

今年2月には岡山県の踏切で電車がトラックと衝突し、乗客ら18人が負傷した。車の立ち往生を知らせる警告が作動していたのに、運転士がブレーキをかけるのが遅れた。労組が昨秋実施したアンケートでは4割近い運転士が、「責任追及の風潮もある」「原因究明より責任追及が重視されている」と答えた。

改革はなお道半ばといえよう。今やJR西社員の3分の1が事故後の入社だ。全員が事故の教訓を胸に刻み、安全意識を引き継ぐのは容易ではない。

JR西は今年度から、安全への取り組みを第三者機関が客観的に評価する仕組みを導入する。原因究明に携わった遺族らの提言を取り入れた。身内では気づかない指摘を、さらなる安全向上につなげてほしい。

「安全に完成はない」

JR西の真鍋精志社長はそう繰り返す。有言実行を願う。

ほかの交通事業者も、教訓を改めて肝に銘じてほしい。

どの事業者も、より便利に、より効率良く、を追求する。だが多くの人を一度に運ぶ交通は、常に惨事と隣り合わせだ。

気づかぬうちに危険性が高まっていないか。時に立ち止まり、確かめるべきである。

読売新聞 2015年04月26日

JR西脱線10年 教訓を胸に安全最優先で臨め

兵庫県尼崎市のJR福知山線で発生した脱線事故から、25日で10年が経過した。

106人の乗客が犠牲となった大惨事は、鉄道への信頼を大きく揺るがした。JR西日本は、事故の教訓を忘れることなく、安全対策をさらに充実させねばならない。

死亡した運転士は、現場のカーブに列車を減速しないまま進入させた。前駅で起こしたオーバーランのミスが頭から離れず、ブレーキ操作が遅れたためとされる。

運転士には、反省文を書くよう強要される「日勤教育」を受けたくない思いがあったとみられる。ミスをした社員に厳しいペナルティーを科すJR西の企業体質が、事故の一因だったと言えよう。

JR西は事故後、懲罰的な日勤教育を改めた。労務管理を見直し、細かいミスやトラブルも社員に報告させ、全社的な事故防止策に生かす「リスクアセスメント」を実践している。

今年度からは、安全管理の内部監査に専門機関が関与する第三者評価制度をスタートさせる。

鉄道や船舶の安全評価に実績を持つ外資系企業の担当者が立ち会い、法令順守や災害訓練などの監査が適切に行われているかどうかをチェックする。

事故の遺族とJR西、有識者で構成する「安全フォローアップ会議」の提言が、制度導入のきっかけとなった。JR西が遺族の意見を採り入れ、安全対策に取り組む姿勢は評価できる。

管内全域に自動列車停止装置(ATS)も整備した。

一連の対策を機能させ、事故の芽を未然に摘むことが重要だ。

しかし、不安は残る。JR山陽線で2月、踏切で立ち往生したトラックに普通電車が衝突し、乗客17人が負傷した。発光により危険を知らせる装置が線路脇に設置されていたにもかかわらず、運転士は気付くのが遅れたとされる。

国土交通省は、発光機に加え、運転席で警報音が鳴るシステムの導入を促していたが、対応できていなかった。

すべての社員に安全最優先の意識を徹底させ、事故防止策を不断に見直すことが求められる。

福知山線事故で業務上過失致死傷罪に問われた元社長は、無罪が確定した。強制起訴された歴代の3社長は、1、2審で無罪となり、上告審が続いている。

個人の刑事責任とは別に、JR西は、安全運行を担う公共輸送機関としての社会的責任を改めて肝に銘じる必要がある。

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