官邸にドローン 規制と活用に工夫こらせ

朝日新聞 2015年04月24日

官邸に無人機 悪用の防止を急げ

首相官邸の屋上で、小型無人飛行機(ドローン)が見つかった。放射性物質だと表示した容器がついていて、中の液体から放射線が検出された。人体にただちに影響を与えるものではなかったとはいえ、不安を感じさせる事件である。

官邸の職員が新入職員を屋上に案内したおととい、見つかった。機体に水がたまっていたことから、発見前日には屋上にあったとみられている。

信じがたいのは、いつからあったか、一から解明する必要に迫られたことだ。過去1カ月、屋上に上がった人がいなかったことがその理由だ。

首相官邸は、日本の危機管理の司令塔である。また、安倍政権は危機管理を重視していたはずだ。しかし、その頭上は、あまりに無防備だった。

官邸に飛来したことで注目を集めるドローンだが、その普及は急速だ。

コンピューターやカメラを搭載し、GPS(全地球測位システム)の情報を得て自律制御しながら飛ぶ商品が登場し、店舗やネットで手軽に手に入るようになっている。

福島第一原発で調査に利用され、御嶽山噴火では降灰の確認に使われた実績があり、今後は災害救助や物流などさまざまな応用が期待されている。

一方で、事故や犯罪利用、私有地への無断侵入によるプライバシー侵害など、課題も生じている。普及に、対策や規制が追いついていないのが実情だ。

今回、官邸で見つかった機種「ファントム」を製造するDJI(本社・中国)は事件を受けて、GPSによる誘導装置に組み込まれている飛行禁止区域の情報に官邸と皇居周辺を加えた、と発表した。操縦者が意図しても、同域内での離陸や飛行はできなくなる。

不審なドローンを見つけた場合、近づいて回転翼にひもを絡ませて落下させるなど、排除するドローンの開発なども進む。

こうした技術や自主的な取り組みも悪用防止の柱となる。

規制については、今月6日に、国土交通省内の有識者会議で論点の洗い出しが始まったばかりだ。政府は、関係省庁による連絡会議を設けて、運用ルールの策定などに乗り出す考えを示した。一定の能力以上のドローンを登録制にすることも一案だろう。

海外では、航空関連法などを改正して高度の制限や飛行禁止区域を設けたり操縦条件をつけたりと、法規制を急いでいる。

各国や国際機関とも連携し、悪用の防止を急いでほしい。

読売新聞 2015年04月24日

ドローン侵入 官邸警備の盲点を突かれた

首相官邸の屋上に、小型無人ヘリコプター「ドローン」が落下しているのが見つかった。

いつ落ちたのか、判然としないという。政府の中枢に、誰にも気づかれず飛来していた。あまりに心もとない警備体制である。総点検が必要だ。

機体にはデジタルカメラと発煙筒らしきものが搭載されていた。放射能マークが貼られた液体入りの容器も取り付けられ、容器周辺からは、微量の放射性セシウム134と137が検出された。

思想的背景のある犯行との見方も出ている。警視庁は威力業務妨害などの疑いで捜査を始めた。遠隔操縦した犯人の特定を急がねばならない。

ドローンを巡っては、米国で今年1月、ホワイトハウスの敷地内に侵入する騒ぎがあった。テロに悪用されることへの警戒感も世界的に強まっている。

事件を受け、菅官房長官は記者会見で、関係省庁の連絡会議を設置し、早急に飛行規制のあり方を検討すると発表した。

航空法は、人が乗るものだけを「航空機」と規定している。ドローンは対象外で、模型飛行機などの玩具と同様の扱いだ。空港周辺などを除けば、高度250メートル未満、航空路内でも150メートル未満の飛行なら、全く制限がない。

墜落事故も相次いでいる現状を考えれば、安全確保と悪用防止のためのルール作りを進める必要があるだろう。

ただし、ドローンは使い方次第で、大きな可能性を秘めていることを忘れてはならない。

飛行ルートや目的地をプログラムに入力しておくことで、自動飛行が可能になる機種もある。測量や災害救助などへの活用が期待される。警視庁は2020年東京五輪を見据えて、警備用に導入し、訓練飛行を重ねている。

離島や山間部に物資を輸送する手段としても有用だろう。米国では、インターネット通販の宅配に利用する計画もある。

ドローンの開発競争は激しさを増している。低価格化が進み、個人でも購入しやすくなった。1万円を下回る機種もある。世界的な市場規模は、今後10年で倍増し、約1兆3900億円に達するとの予測さえある。

政府も1月にまとめたロボット新戦略で、無人機を普及させるための環境整備を打ち出している。操縦者の技量やマナーの向上、機体の性能確保など課題は多い。

一定のルールの下に、ドローンの有効活用を図っていきたい。

産経新聞 2015年04月26日

ドローン男逮捕 悪意の操縦に対抗措置を

首相官邸の屋上で小型無人飛行機「ドローン」が見つかった事件で、警視庁は威力業務妨害の疑いで福井県小浜市の40歳の男を逮捕した。

男は「反原発を訴えるため官邸にドローンを飛ばした」などと供述している。あまりに身勝手で、国民の不安をあおることを企図した悪意に満ちた犯行である。厳罰で対処するとともに、再発防止策を早期に講じなくてはならない。

ドローンを対象とする飛行制限区域の設定や、購入時の登録の義務づけ、操縦者に対する免許制度の導入などは、直ちに検討を開始すべきだ。

一方でこうした規制は、悪意による犯行の封じ込めに必ずしも有効とは言い難い。官邸や原発などの最重要施設の上空では、強制的に操縦の電波を遮断できるような対抗措置も必要となろう。

男が書き込んでいたとされるブログには、「(原発)再稼働を止める活動をしなくては」とあり、「(ドローン規制の)法整備前に飛ばしてしまおう」との記載もあった。九州電力川内原発への侵入を計画し、下見のため現場を訪れたとも書かれていた。

犯行は、エスカレートする恐れがあった。模倣犯の出現にも注意を払わなくてはならない。

安価で高性能なドローンは、被災地での被害確認や警備実施への応用、配達サービスへの活用などさまざまな現場で可能性を広げている。変わったところではラグビーやサッカーの練習を上空から撮影し、フォーメーションの確認にも役立てられている。

製品が優秀であればあるほど使い方次第で危険なのは、昨年、3D(3次元)プリンターで製造した拳銃を所持した男が逮捕された事件と同様である。男は銃の設計図を米国のサイトからダウンロードして製造し、自ら銃を撃つ動画をサイトに投稿していた。技術の進歩と犯罪利用の危険性は、常に背中合わせにある。

「いいも悪いもリモコン次第」と歌われたのは、昭和のアニメ「鉄人28号」の主題歌だった。製品自体に罪はなくとも、操縦者次第で「正義の味方」にも「悪魔の手先」にも変容するような状況を放置するわけにはいかない。

悪意の操縦をどう防ぐか。これは法による規制だけではなく、メーカーや技術者が総力を挙げて答えを出すべき問題である。

産経新聞 2015年04月24日

官邸にドローン 規制と活用に工夫こらせ

首相官邸の屋上ヘリポートで小型の無人飛行機「ドローン」が見つかり、政府は運用についての新たなルールや法規制の検討を始めた。

国家の中枢に、やすやすと達した「侵入者」からは放射性物質が検出され、それを示す文字があった。国民の不安をあおる、極めて悪質な意図もうかがえる。

日本は来年の主要国首脳会議(サミット)や2020年東京五輪を控えている。テロ対策の一環ととらえ、早急に防止策を講じるべきことは言うまでもない。

ただし、多くの可能性を持つドローン自体を悪者視してはなるまい。安全かつ有効に、その機能を活用できる枠組みを作ることも同じく重要だ。

菅義偉官房長官は今回の問題を「行政の中枢の官邸にかかる事案」と重く位置付け、検討を急ぐ考えを示した。妥当である。

警備が厳重とされる官邸も、上空からの「攻撃」には弱いことが今回、浮き彫りになった。まずは、官邸や原発など重要施設上空の飛行制限を行うべきだ。

航空法など現行法の下で、ドローンは「模型」扱いとされ、空港周辺などを除けば飛行制限はなく、地上250メートル未満なら自由に飛ばせるという。

だが、落下の危険に加え、やり方によっては攻撃能力を持たせられるドローンを、重要施設から遠ざける措置を設けておく必要はある。効果的な飛行制限区域の設定をよく考えてほしい。

規制を強化しても、それを知らない人、知っていても破る人がいればドローンは接近する。

機体の操縦に用いられる電波に妨害を加え、接近を阻止するなど、現実の危険回避に役立つシステムも研究し、取り入れるべきだろう。

政府は国土交通省や警察庁など関係省庁間の会議を開いて対応する。ドローンを実際に作っているメーカーや通信会社の協力も得て効果的な対策を講じてほしい。

気象観測や農地の監視、物資配達など期待が広がるドローンの活用に向け、産業界もルール作りに積極的に取り組む必要があるだろう。操縦者の資格、飛行範囲など安全確保のための課題は多い。

ドローンで私生活をのぞき見されかねないなど、かねて指摘されてきたプライバシー上の問題もある。置き去りにはできない。

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