戦後70年談話 首相は「侵略」を避けたいのか

朝日新聞 2015年04月23日

70年談話へ 未来への土台を崩すな

「未来への土台は、過去と断絶したものではありえない」。安倍首相は、自らのこの言葉を忘れるべきではない。

アジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年首脳会議での安倍首相のきのうの演説は、肩すかしに終わった。

首相は、60年前に採択された「平和10原則」の一つである「侵略行為の抑制」を引用し、「この原則を、日本は先の大戦の深い反省とともに、いかなる時でも守り抜く国であろうと誓った」と述べるにとどめた。

10年前の会議では、小泉首相が戦後50年の村山談話を踏襲し、「わが国はかつて植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」と表明。この表現はそのまま戦後60年談話に生かされた。

きのうの首相演説は、歴史認識の表明に主眼があったわけではない。ただ、10年前の経緯もあり、安倍氏が日本のかつての過ちにどのように触れるのか、来週の米議会での演説とともに注目を集めていた。

首相は会議に発つ前夜のテレビで、村山談話について「引き継いでいくと言っている以上、もう一度書く必要はないだろう」と述べ、戦後70年の安倍談話には「植民地支配と侵略」「おわび」などは盛り込まないことを示唆した。きのうの演説はこれに沿った内容だ。

この考えには同意できない。

「侵略の定義は定まっていない」といった言動から、首相は村山談話の歴史観を本心では否定したいのではと、アジアや欧米で疑念を持たれている。

引き継いでいるからいいだろうとやり過ごせば、疑念は確信に変わるだろう。表立って批判されなくとも、国際社会における信頼や敬意は損なわれる。

それがいったいだれの利益になるというのか。

一部の政治家が侵略を否定するような発言を繰り返すなか、村山談話は国際的に高く評価されてきた。その後のすべての首相が引き継ぎ、日本外交の基礎となった。率直に過去に向き合う姿勢が、「未来への土台」となったのだ。それをわざわざ崩す愚を犯す必要はない。

首相はきのうの演説後、中国の習近平主席と5カ月ぶりに会談した。両国関係を発展させ、アジアや世界の安定と繁栄に貢献をしていくことで一致したという。歓迎すべき流れだ。

そうであればなおさら、首相はごまかしのない態度で過去に向き合う必要がある。「植民地支配と侵略」「おわび」を避けては通れない。

読売新聞 2015年04月23日

バンドン演説 首相70年談話にどうつなげる

「演説」を「談話」にどうつなげていくのか。安倍首相の戦略的な取り組みが求められよう。

新興独立国が第三世界の連帯をアピールしたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の60周年記念首脳会議がインドネシアで開かれた。

安倍首相は演説で、アジア・アフリカ諸国を「成長のパートナー」と呼び、5年間で35万人の人材育成を支援する方針を表明した。

相手国の自主性を重んじる戦後日本の援助外交は高く評価されている。成長が著しい各国への投資や輸出の拡大は、安倍政権の成長戦略にも資する。民間とも連携し、積極的に進めたい。

首相は地域の現状に関し、「強い者が弱い者を力で振り回すことは、断じてあってはならない」と語った。南シナ海で岩礁埋め立てを進める中国が念頭にある。

海洋秩序の維持に向け、「法の支配」を重視する共通認識を国際社会に広げることが重要だ。

物足りなかったのは、首相の歴史認識への言及である。約6分間の演説とはいえ、侵略の否定などバンドン会議の原則に触れたものの、先の大戦については「深い反省」を示すにとどめた。

前回の50周年首脳会議では、当時の小泉首相が過去の植民地支配と侵略を認め、「痛切なる反省と心からのおび」を明言した。この表現を、約4か月後の戦後60年談話にも反映させた。

安倍首相は今夏、戦後70年談話を発表する。日本が過去の反省を踏まえ、世界の平和と繁栄にどんな役割を担うのか。談話では「深い反省」の中身が問われよう。

首相は来週、米国を公式訪問し、6月に先進7か国首脳会議に出席する。7月には、70年談話に関する有識者懇談会の報告書がまとまる。関係国とも連携しつつ、適切な政治判断を下す必要がある。

演説後、首相は中国の習近平国家主席と会談し、戦略的互恵関係を推進する方針で一致した。

昨年11月に続き、両首脳が意見を交わした意義は小さくない。

習氏は、「歴史問題は中日関係の重大な原則問題だ。歴史を直視する前向きなシグナルを出してほしい」と注文したという。首相は、歴史認識に関する歴代内閣の立場を引き継ぐと説明した。

歴史認識を巡る日中間の溝は深い。中国主導のアジアインフラ投資銀行、尖閣諸島周辺での中国の領海侵入など、懸案も多い。

過去の問題を乗り越え、未来志向の関係を築くには、日中双方が歩み寄る努力が欠かせない。

産経新聞 2015年04月23日

首相バンドン演説 「未来志向」を評価したい

未来に軸足を置いた訴えを評価したい。

安倍晋三首相が、アジア・アフリカ(AA)会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議の演説で、戦後の日本のAA諸国との協力を振り返りつつ、今後も共に平和と繁栄を築いていく決意を表明した。

首相は演説で、先の大戦への深い反省を表明し、そのうえで、1955年のバンドン会議での「先人の知恵」に言及した。「他国の内政に干渉しない」「侵略や武力行使で他国の領土保全や政治的独立を侵さない」などの「平和10原則」を念頭に置いたものだ。

この日の演説は、今月末に予定されている米議会での演説、8月の戦後70年談話の前段と位置づけられる。

今後の一連の演説、談話を通じて、日本が一貫して平和国家の道を歩んできたことや、将来も積極的に貢献していく決意を全世界に発信してほしい。

「成長のパートナー」となるAA諸国との関係構築にいっそう努めることも求められよう。

首相演説でもうひとつ重要だったのは、「強い者が弱い者を力で振り回すことはあってはならない。法の支配が、大小に関係なく国家の尊厳を守るということだ」と強調したことだ。

経済、軍事両面で台頭する中国を想定した発言であろう。

この日行われた日中首脳会談で双方は関係改善に触れたが、中国の動向を見る限り、大きな前進は望めまい。

習近平国家主席は演説で平和10原則を守ることを表明した。しかし、説得力は乏しい。

周辺国と紛争が生じている南シナ海の南沙諸島では、軍事力を背景に複数の岩礁を埋め立てて、軍事基地の建設を急いでいる。力による現状変更そのものである。

10年前の記念会議で、当時の小泉純一郎首相は「植民地支配と侵略」への「痛切な反省と心からのおわび」を表明した。

安倍首相は今回、そうした表現を直接、踏襲しなかった。大戦への深い反省や、侵略や武力行使で他国の領土を侵さないことを明確にした。

文言の変化を、反省や謝罪姿勢の後退などと決めつけるのは、公正な態度とはいえまい。問われるのは関係諸国との絆を強められるかである。

読売新聞 2015年04月22日

戦後70年談話 首相は「侵略」を避けたいのか

安倍首相は戦後70年談話で、先の大戦での「侵略」に一切言及しないつもりなのだろうか。

首相がBS番組で、戦後50年の村山談話に含まれる「侵略」や「おび」といった文言を、今夏に発表する70年談話に盛り込むことについて、否定的な考えを示した。

「同じことを言うなら、談話を出す必要がない」と語った。「(歴代内閣の)歴史認識を引き継ぐと言っている以上、もう一度書く必要はない」とも明言した。

村山談話は、日本が「植民地支配と侵略」によってアジア諸国などに「多大の損害と苦痛」を与えたことに、「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表明した。

戦後60年の小泉談話も、こうした表現を踏襲している。

安倍首相には、10年ごとの節目を迎える度に侵略などへの謝罪を繰り返すパターンを、そろそろ脱却したい気持ちがあるのだろう。その問題意識は理解できる。

首相は70年談話について、先の大戦への反省を踏まえた日本の平和国家としての歩みや、今後の国際貢献などを強調する考えを示している。「未来志向」に力点を置くことに問題はなかろう。

しかし、戦後日本が侵略の非を認めたところから出発した、という歴史認識を抜きにして、この70年を総括することはできまい。

首相は一昨年4月、国会で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と発言した。

侵略の定義について国際法上、様々な議論があるのは事実だが、少なくとも1931年の満州事変以降の旧日本軍の行動が侵略だったことは否定できない。

例えば、広辞苑は、侵略を「他国に侵入してその領土や財物を奪いとること」と定義し、多くの国民にも一定の共通理解がある。

談話が「侵略」に言及しないことは、その事実を消したがっているとの誤解を招かないか。

政治は、自己満足の産物であってはならない。

首相は一昨年12月、靖国神社を参拝したことで、中韓両国の反発だけでなく、米国の「失望」を招いた。その後、日本外交の立て直しのため、多大なエネルギーを要したことを忘れてはなるまい。

70年談話はもはや、首相ひとりのものではない。日本全体の立場を代表するものとして、国内外で受け止められている。

首相は、談話内容について、多くの人の意見に謙虚に耳を傾け、大局的な見地から賢明な選択をすることが求められよう。

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