山手線事故 最悪想定し先手の対応を

朝日新聞 2015年04月16日

JR山手線 安全を一から見直せ

首都の大動脈で「まさか」と思うようなできごとだ。JR山手線の神田―秋葉原間で12日早朝、線路脇にあった高さ7メートルの支柱が基礎から倒壊し、一部が線路に触れる状態になった。

並行する京浜東北線の運転士が気づいて通報したが、山手線の電車が来ていれば、大惨事になる恐れもあった。

驚くのはJR東日本の判断の甘さだ。

支柱はもともと撤去予定で、先月下旬に上部のはりが取り払われた。この後、柱の安定性が失われたとみられる。

今月10日夜、現場の担当社員らは支柱が傾いていることに気づいた。だが「すぐには倒れない」と考え、週明けの13日夜に撤去することを決めた。

ところが11日夜、通りかかった電車の運転士が「傾いている」と通報した。工事担当者は翌12日朝、始発電車の中から目視したが、大丈夫だろうと判断し、工事を早めるなどの対策をとらなかった。

緊急に手を打つ機会は、少なくとも2回あったわけだ。

JR東は「地震以外で支柱が倒れた例はなかった」と釈明したが、それこそ地震が来たらどうするつもりだったのか。

鉄道の設備工事は通常、電車の運行が終わった深夜に、作業計画を立てて実施される。

ぎりぎりの時間と要員で進めるので、予想外の事態への即応が難しいのはわかる。しかし、鉄道の現場がいかなるときも最優先すべきは安全の確保だ。運行開始を遅らせてでもしっかり点検する発想があれば、今回の事態は防げたのではないか。

作業員や重機の手配に時間がかかるとしても、とりあえず見張り要員を配置する手も考えられたはずだ。

山手線はラッシュ時に2分間隔で電車が来る超過密路線だ。それを支えるのは、最新鋭の自動列車制御装置(ATC)といった安全システムと、設備を保守する人間の手作業である。

どれほど万全を期したつもりでも、人知のスキを突くように、事故は起きる。大惨事を防ぐには、「必ずスキはある」との観点から安全対策を不断に見直すしかない。

JR東日本は浮かび上がった課題を徹底検証すべきだ。

支柱の撤去工事を何日もかけて進める工程に問題はなかったか。支柱の危険度を判定する仕組みが今のままでよいか。連絡態勢や危険情報の共有の仕方に不備はなかったのか。

ほかのすべての鉄道事業者も「他山の石」と受け止め、自己点検してもらいたい。

毎日新聞 2015年04月16日

山手線支柱倒壊 利便性より安全優先で

倒れる時間が少しずれれば、列車に衝突する危険があった。

読売新聞 2015年04月17日

山手線支柱倒壊 危険の芽を摘む意識に欠ける

危険の芽を即座に摘むことが、いかに大切か。公共輸送機関に対する警告である。

東京のJR山手線で12日早朝、架線の鋼鉄製支柱が倒れた。高さ約7メートル、重さ約1・3トンの支柱の先端はレールにかかっていた。

並走する京浜東北線の運転士が倒壊に気づき、他の電車に異常を伝えて緊急停止させた。1分ほど前に山手線の車両が通過しており、その後のわずかな間に倒れたとみられる。約3分後にも電車が現場に差しかかる予定だった。

過密ダイヤで電車が運行する中、倒壊のタイミングが、わずかでもずれていたら、脱線などにつながった恐れがある。

山手線と京浜東北線は9時間以上も一部区間で運休し、約41万人に影響が及んだ。

問題なのは、支柱の傾きを把握した後のJR東日本の迅速性を欠いた対応である。

倒壊する2日前の10日深夜、別の支柱の撤去作業をしていた社員らが異常を発見したが、目視の結果、すぐに倒れる危険はないと判断した。その日は金曜日で、JR東日本は、週明けまで応急の工事を先延ばしした。

措置を要する状況だとの認識はあったことになる。

11日夜には山手線の運転士も異常に気づいた。運行を管理する指令室にも伝えられたが、12日の始発電車に社員が乗り、支柱の傾きを改めて確認しただけだった。

地震以外で支柱が倒れた前例はなく、傾き自体も大きなものではなかった――。JR東日本は、3度にわたって異常を確認していながら、措置を講じなかった理由をそう説明している。

常に最悪のケースを想定し、異変に即応するのが、安全輸送を第一の使命とする鉄道事業者の務めだろう。太田国土交通相が「対応に大きな問題があった」と批判したのは、もっともだ。

倒れた支柱は、別の2本の支柱と、それぞれはりとワイヤで結ばれていたが、支柱の交換作業に伴い、梁は既に撤去されていた。梁とワイヤにより引っ張られることで保たれていたバランスが、微妙に崩れた可能性がある。

JR東日本は約5万か所で同じタイプの支柱を使っている。同様の手順による交換作業を実施してきたが、今回のような事故は起きていないという。

運輸安全委員会は、重大インシデントとして調査に乗り出した。再発防止のため、原因究明を急いでもらいたい。

産経新聞 2015年04月14日

山手線事故 最悪想定し先手の対応を

想像するだけで恐ろしい。12日早朝、JR東日本の山手線線路内で架線の支柱が倒れた事故は、発生が前後に数分ずれていれば電車が衝突、脱線し、大惨事となる可能性もあった。

惨事を免れたのは、ただ間一髪の偶然による。なぜ10日に支柱の傾きを確認した時点で、事故への想像力が働かなかったのか。それが最大の反省点だ。

同社は、同様の支柱約5万カ所の緊急点検を始めた。事故原因の究明も、再発防止のための点検も、最悪の事態を想定した先手の対応を徹底してほしい。他社も同様である。

倒れた支柱は本来、線路をまたぐ形で反対側の支柱と梁(はり)で固定されていた。設備の更新のため、3月25日以降に反対側の支柱と梁が撤去され、事故2日前の10日の夜に支柱の傾きを確認していた。

いわば、両足で踏ん張っていた支柱が、片足で傾いていたような状態である。支柱には架線の重みや張力の負荷もかかっている。

支柱の傾斜を同社は「急を要しない」と判断し、13日に補修する予定を立てただけで、通常運行を続けていた。

同社の福田泰司常務は、この判断が「適切だったかどうかは今後検討する」と述べたが、重大な結果を招いたこと自体、判断が不適切だったことを物語っている。

倒壊の確認も、偶然に助けられた。午前6時10分ごろ、異常に気づいたのは山手線と並走する京浜東北線の運転士だった。これは山手線の車両が通過した1、2分後で、3分後には後続車両が通過する予定だったという。衝突を免れたことは、奇跡に近い。

山手線の運転士が目視で第1発見者となった場合はブレーキが間に合わず、衝突、脱線する危険性もあった。同日朝の安全確認を行ったのも、乗客を乗せた始発電車の運転士だった。

危険極まりない、綱渡りの運行を続けていたことになる。

死傷者がいなかったことは偶然による不幸中の幸いだが、山手、京浜東北の両線が9時間以上運転を見合わせ、715本が運休、約41万人の足に影響が出た大事故である。平日の朝であれば、混乱はさらに大きかったろう。

これは明らかに、防げたはずの事故である。JR東は猛省して、安全への信用、信頼を取り戻してほしい。

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