首都の大動脈で「まさか」と思うようなできごとだ。JR山手線の神田―秋葉原間で12日早朝、線路脇にあった高さ7メートルの支柱が基礎から倒壊し、一部が線路に触れる状態になった。
並行する京浜東北線の運転士が気づいて通報したが、山手線の電車が来ていれば、大惨事になる恐れもあった。
驚くのはJR東日本の判断の甘さだ。
支柱はもともと撤去予定で、先月下旬に上部のはりが取り払われた。この後、柱の安定性が失われたとみられる。
今月10日夜、現場の担当社員らは支柱が傾いていることに気づいた。だが「すぐには倒れない」と考え、週明けの13日夜に撤去することを決めた。
ところが11日夜、通りかかった電車の運転士が「傾いている」と通報した。工事担当者は翌12日朝、始発電車の中から目視したが、大丈夫だろうと判断し、工事を早めるなどの対策をとらなかった。
緊急に手を打つ機会は、少なくとも2回あったわけだ。
JR東は「地震以外で支柱が倒れた例はなかった」と釈明したが、それこそ地震が来たらどうするつもりだったのか。
鉄道の設備工事は通常、電車の運行が終わった深夜に、作業計画を立てて実施される。
ぎりぎりの時間と要員で進めるので、予想外の事態への即応が難しいのはわかる。しかし、鉄道の現場がいかなるときも最優先すべきは安全の確保だ。運行開始を遅らせてでもしっかり点検する発想があれば、今回の事態は防げたのではないか。
作業員や重機の手配に時間がかかるとしても、とりあえず見張り要員を配置する手も考えられたはずだ。
山手線はラッシュ時に2分間隔で電車が来る超過密路線だ。それを支えるのは、最新鋭の自動列車制御装置(ATC)といった安全システムと、設備を保守する人間の手作業である。
どれほど万全を期したつもりでも、人知のスキを突くように、事故は起きる。大惨事を防ぐには、「必ずスキはある」との観点から安全対策を不断に見直すしかない。
JR東日本は浮かび上がった課題を徹底検証すべきだ。
支柱の撤去工事を何日もかけて進める工程に問題はなかったか。支柱の危険度を判定する仕組みが今のままでよいか。連絡態勢や危険情報の共有の仕方に不備はなかったのか。
ほかのすべての鉄道事業者も「他山の石」と受け止め、自己点検してもらいたい。
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