高浜原発差し止め 「負の影響」計り知れない

朝日新聞 2015年04月23日

川内の仮処分 専門知に委ねていいか

福島第一原発の事故後、新たに設けられた原子力規制委員会の規制基準について、まったく異なる二つの判断が司法から示された。

きのう、九州電力川内原発1、2号機の再稼働をめぐって、運転差し止めの仮処分を求めた住民の申し立てを鹿児島地裁は退けた。14日には、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決めた。

判断を分けたのは、規制基準を含む規制委の審査に対する見方である。

福井地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発で5回起きた事実を重く見たうえで、規制基準について「これに適合しても原発の安全性は確保されない」と判断した。

一方、鹿児島地裁は、地域的な特性を考慮して基準地震動を策定していることから「基準地震動超過地震の存在が規制基準の不合理性を直ちに基礎付けるものではない」とし、規制基準は「最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められない」と結論づけた。

鹿児島地裁の判断は、従来の最高裁判決を踏襲している。行政について、専門的な知識をもつ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り、司法はあえて踏み込まない、という考え方だ。

だが、福島での事故は、専門家に安全を委ねる中で起きた。ひとたび過酷事故が起きれば深刻な放射線漏れが起きて、周辺住民の生活を直撃し、収束のめどが立たない事態が続く。

原発の運転は、二度と過酷事故を起こさないことが原点である。過去、基準地震動を超える地震が5回起きた事実は重い。「想定外」に備えるためにも、厳しい規制基準を構えるべきである。特に、原発の運転には、国民の理解が不可欠であることを考えれば、規制基準についても、国民の納得がいる。これらの点を踏まえれば、福井地裁判断に説得力がある。

鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」「今後、原子炉施設について更に厳しい安全性を求めるという社会的合意が形成されたと認められる場合、そうした安全性のレベルを基に判断すべきことになる」とも述べている。

世論調査では依然として原発再稼働に厳しい視線が注がれている。政府も電力会社も鹿児島地裁の決定を受けて「これでお墨付きを得た」と受けとめるべきではない。

毎日新聞 2015年04月15日

高浜原発差し止め 司法が発した重い警告

関西電力高浜原発(福井県)3、4号機に対し、福井地裁は再稼働を認めない仮処分決定を出した。原子力規制委員会の安全審査に合格した原発の再稼働についての初の司法判断だったが、決定は審査の基準自体が甘いと厳しく指摘した。

読売新聞 2015年04月23日

川内原発仮処分 再稼働を後押しする地裁判断

九州電力川内原子力発電所1、2号機の再稼働を巡り、鹿児島地裁が、運転差し止めを求めた反対派住民側の仮処分の申し立てを却下した。

東京電力福島第一原発事故を教訓に、原子力規制委員会が策定した新規制基準を尊重する妥当な司法判断である。

決定は、新基準について、「最新の調査・研究を踏まえ、専門的知見を有する規制委が定めた。不合理な点はない」と認定した。

九電は、新基準が求める多重防護の考え方に基づき、耐震性の強化や火山対策などを講じているとも判断し、再稼働により、「住民の人格権が侵害される恐れはない」と結論付けた。

決定で重要なのは、詳細な技術論に踏み込まず、「裁判所の判断は、規制委の審査の過程に不合理な点があるか否かとの観点で行うべきだ」と指摘したことだ。

最高裁は、1992年の四国電力伊方原発訴訟で、行政の専門的判断を重視するとの判決を言い渡している。今回の決定は、司法の役割を抑制的に捉えた最高裁判例に沿ったものと言える。

規制委の指針に基づき、周辺市町が策定した事故時の避難計画に関し、決定は「現時点では合理性を持つ」との見解を示した。政府と自治体、九電に不断の安全対策を求めたものだろう。

川内原発は昨年9月、再稼働の前提となる安全審査の「合格第1号」となった。鹿児島県と立地自治体の薩摩川内市の同意を得て、7月の再稼働を目指している。

3月から始まった使用前検査では、原子力規制庁の検査官が立ち会って重要設備を点検している。再稼働に向けた詰めの作業だけに、万全を期してほしい。

今回の決定は、福井地裁による14日の仮処分の特異性を浮き彫りにした。新基準を「緩やかに過ぎ、安全性は確保されない」と断じ、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めたものだ。

ゼロリスクを求める非科学的な主張である。規制委の田中俊一委員長も、「(新基準は)世界で最も厳しいレベルにある。多くの事実誤認がある」と論評した。

関電は決定を不服として福井地裁に異議を申し立てた。異議審では現実的な判断を求めたい。

規制委に安全審査が申請された14原発20基については、いまだ「合格」に至っていない。厳しい電力事情の中、全原発の停止をこれ以上、長引かせてはならない。

安全確保を最優先に、規制委は迅速に審査を進めるべきだ。

産経新聞 2015年04月23日

川内差し止め却下 説得力ある理性的判断だ

鹿児島地方裁判所は、九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを求めて、周辺住民から出されていた仮処分の申請を却下した。

原子力規制委員会が定めた原発安全のための新規制基準にも、またそれに照らして適合性が認められた川内原発の安全対策にも不合理な点はないという理由に基づく決定だ。再稼働を大きく近づけた。

具体的な争点となっていた基準地震動や火山活動、避難計画のいずれについても鹿児島地裁は、住民らの主張を退けた。

その上で、運転差し止めを求めた住民らの「人格権が侵害され又はそのおそれがあると認めることはできない」と述べている。

極めて当然で理性的な決定である。現在、規制委による審査の最終段階に当たる使用前検査中の1号機は、順調に進めば、7月上旬の再稼働、8月の営業運転開始が可能になろう。

2号機も約1カ月遅れで1号機に続く途上にあり、平成25年9月以来の「原発ゼロ」状態に終止符が打たれる見通しだ。

立地地域の経済活性化にとどまらず、国のエネルギーの安定供給回復や、年間4兆円に迫る国富の流出抑制、地球温暖化防止への取り組み促進などの道筋が見えてきたことを評価したい。

これに対し、福井地裁は先週、仮処分で関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働差し止めを命じたが、その論拠として、新規制基準の合理性欠如を挙げていた。

鹿児島地裁の判断と正反対であるだけでなく、規制委や地震学者から事実関係の誤りを指摘する声が出ている。関電も仮処分の取り消しを求めて福井地裁に保全異議を申し立てている。

事実誤認に基づく仮処分であれば論外だ。福井地裁には速やかな対応を求めたい。

東京電力福島第1原発の大事故以来、国内には原子力発電に否定的な評価が根を張っている。しかし、原発に背を向け続けるだけでよいのだろうか。

日本がエネルギー資源の貧国である現実を忘れると問題の解決は遠ざかる。原発の適正活用は、日本に限らず、将来の世界のエネルギー安全保障に資する道でもある。鹿児島地裁の決定を確かな第一歩としたい。

産経新聞 2015年04月15日

高浜原発差し止め 「負の影響」計り知れない

電力安定供給や地球温暖化防止に重大な負の影響をもたらす決定だ。

関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)に対し、同県や大阪府などの住民9人が求めた運転差し止めの仮処分を福井地裁が認めた。

仮処分によって原発の運転が禁止されるのは、今回が初めてで、奇矯感の濃厚な判断である。

同地裁では昨年5月にも今回と同じ裁判長が大飯原発の運転差し止めを命じる判決を下しており、司法が関電の目指す原発再稼働に重ねて待ったをかけた形だ。

運転差し止めの影響が及ぶ範囲は極めて広くかつ深い。仮処分なので、決定と同時に効力が発生するためである。

高浜3、4号機は、原子力規制委員会による安全審査が進んでおり、今秋の再稼働への見通しが開けつつあったが、当面その可能性は遠のいた。

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