九州電力川内原子力発電所1、2号機の再稼働を巡り、鹿児島地裁が、運転差し止めを求めた反対派住民側の仮処分の申し立てを却下した。
東京電力福島第一原発事故を教訓に、原子力規制委員会が策定した新規制基準を尊重する妥当な司法判断である。
決定は、新基準について、「最新の調査・研究を踏まえ、専門的知見を有する規制委が定めた。不合理な点はない」と認定した。
九電は、新基準が求める多重防護の考え方に基づき、耐震性の強化や火山対策などを講じているとも判断し、再稼働により、「住民の人格権が侵害される恐れはない」と結論付けた。
決定で重要なのは、詳細な技術論に踏み込まず、「裁判所の判断は、規制委の審査の過程に不合理な点があるか否かとの観点で行うべきだ」と指摘したことだ。
最高裁は、1992年の四国電力伊方原発訴訟で、行政の専門的判断を重視するとの判決を言い渡している。今回の決定は、司法の役割を抑制的に捉えた最高裁判例に沿ったものと言える。
規制委の指針に基づき、周辺市町が策定した事故時の避難計画に関し、決定は「現時点では合理性を持つ」との見解を示した。政府と自治体、九電に不断の安全対策を求めたものだろう。
川内原発は昨年9月、再稼働の前提となる安全審査の「合格第1号」となった。鹿児島県と立地自治体の薩摩川内市の同意を得て、7月の再稼働を目指している。
3月から始まった使用前検査では、原子力規制庁の検査官が立ち会って重要設備を点検している。再稼働に向けた詰めの作業だけに、万全を期してほしい。
今回の決定は、福井地裁による14日の仮処分の特異性を浮き彫りにした。新基準を「緩やかに過ぎ、安全性は確保されない」と断じ、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めたものだ。
ゼロリスクを求める非科学的な主張である。規制委の田中俊一委員長も、「(新基準は)世界で最も厳しいレベルにある。多くの事実誤認がある」と論評した。
関電は決定を不服として福井地裁に異議を申し立てた。異議審では現実的な判断を求めたい。
規制委に安全審査が申請された14原発20基については、未だ「合格」に至っていない。厳しい電力事情の中、全原発の停止をこれ以上、長引かせてはならない。
安全確保を最優先に、規制委は迅速に審査を進めるべきだ。
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