政治体制や価値観の違いを抱えた中、関係改善が順調に進むのか。慎重に見守る必要がある。
オバマ米大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長がパナマ市で会談した。冷戦終結後も対立してきた両国の首脳会談は、1961年の断交以来、初めてだ。
オバマ氏は会談で、「新たな関係を築く」と強調した。「キューバは米国の脅威ではない」とも明言した。経済制裁で共産党政権を孤立化させ、体制転換を狙う従来路線を大きく転換するものだ。
カストロ氏は「あらゆることを進んで話し合う」と語り、長期の経済的苦境を脱するため、対米関係改善に期待をにじませた。
しかし、会談では、キューバに対する米国の「テロ支援国」指定の解除や、両国大使館の設置時期の合意には至らなかった。
国交正常化へのハードルの高さがうかがえる。正常化に不可欠な米国の対キューバ経済制裁の全面解除には、米議会の承認が必要だが、多数派の共和党を中心に、根強い慎重・反対論がある。
キューバの共産党独裁や、「表現の自由」への弾圧などの劣悪な人権状況を問題視している。
オバマ氏は会談で、「民主主義と人権に関する懸念を提起し続ける」と語った。
カストロ氏は「多くの相違があるのは事実。忍耐が必要だ」と応じた。経済改革は進めていても、政治体制の改革には時間を要するとの考えを示したものだ。
キューバでは、強いカリスマ性で長期独裁政権を率いたフィデル・カストロ前議長が退き、弟の現議長も83歳と高齢だ。「カストロ後」の体制の行方は見えない。
指導部には、国内の不安定化への警戒感が強い。だが、対米関係の正常化を目指すなら、政治改革を避けて通ることはできまい。
オバマ氏は首脳会談後、「米キューバ関係だけでなく、地域全体で協力が拡大する転換点になると楽観している」とも語った。
米国が伝統的に「裏庭」とみなす中南米やカリブ海で近年、中国の影響力が急速に拡大している現実を踏まえた発言だろう。
ニカラグアは中国との国交がないにもかかわらず、昨年末、約280キロの新運河の建設が中国主導で始まった。南米産の資源などを中国へより短時間で運ぶためという。建設費は約6兆円に上る。
米国にとって、キューバとの関係正常化は、この地域で健全な指導力を回復できるかどうかの重要な試金石と言えよう。
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