郵政改革素案 何をどうしたいのか

朝日新聞 2010年02月11日

郵政改革素案 金融の肥大化を危ぶむ

「民から官へ」の逆流が憂慮される郵政改革の見直し。鳩山政権は何をどうするのか。その全体像を示す郵政改革法案の素案が公表された。

事業の公益性をたてに見直しを正当化しているが、そこから浮かんでくるのは、巨大な郵貯をさらに肥大化させても国民が認めてくれるだろうという、甘い認識だ。

素案は、これまで郵便事業に限られていた全国一律サービスを貯金や保険など金融業務にも広げるとしている。郵貯と簡保の限度額を引き上げないし撤廃することも検討課題としている。利用者の利便性が増すが、それで済む話ではない。

大きすぎると批判されてきた郵貯や簡保の金融部門をさらに大きくして、収益を上乗せしようという戦略そのものに危惧(きぐ)を抱かざるをえないからだ。

そもそも郵政改革で求めたいのは、郵便事業を立て直し、将来の国民負担を回避するための経営再建策だ。同時に、巨大な公的金融を縮小する方向で日本の金融システムのゆがみを是正し、公正な競争環境をつくり出すことが欠かせない。

貯金などを集める力は強いが、企業への融資など運用力が極端に弱い郵政の金融2社を肥大させることは、民間の金融機関をいま以上に圧迫し、金融全体としての機能を低下させる。

国債に偏っている運用がさらに偏重の度を増せば、目先の財政赤字を賄いたい政府には好都合かも知れない。だが、国債市場をいびつで暴落しやすい構造にしかねない。

素案では、持ち株会社と4子会社の体制を、郵便と郵便局の2子会社を持ち株会社が吸収する形で3社体制にするという。それが収益性の強化につながるかどうか、不安もある。

郵便局が提供する公共サービスや全国一律サービスの不採算部分などの費用は、政府が免税などで手当てするとしているが、これは一歩間違えれば政府頼みに陥る危うさがある。

インターネットの普及で郵便の将来は厳しいが、そこを物流事業の拡大や、場合によってはコンビニのような小売りビジネスなども導入する覚悟で多角化を図りつつ、収益を確保していくべきではないだろうか。

政治との癒着も警戒しなくてはならない。郵便局の公共性が高まるというのなら、社員には政治的な中立性が求められるべきではないか。

現状のように政治活動が放任されるなら、融資をはじめさまざまな業務で情実が絡んだり、政治利用と結びついたりしかねない。それでは公共性に背いてしまう。

物品調達や資金運用で地域を重視するとすればなおさら、国営時代のような選挙運動や政治家の口利きを禁じるための万全の手だてが必要だ。

毎日新聞 2010年02月10日

郵政改革素案 何をどうしたいのか

郵政改革の素案が示された。日本郵政の下に郵便局会社、郵便事業会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命がぶら下がるというのが現在の形だ。素案によると、日本郵政が郵便事業会社、郵便局会社を統合して親会社となり、その下にゆうちょ銀行、かんぽ生命をおくというふうに変わる。

ゆうちょ銀行、かんぽ生命は、一般の銀行などと同様に銀行法、保険業法を適用し、原則自由な業務運営を認めるという。

会社の形態や法的な位置づけは、そのようになるのだとしても、日本郵政グループの将来の具体的な姿は、素案からは見えてこない。

最も重要な政府出資比率について素案は、100%、3分の2超、2分の1超を例示し、敵対的買収への対抗や、政府の意思を経営に反映させるうえで有効だと指摘する。

その一方、経営に重要な影響を及ぼす決議を否定できるとして、現在と同様に、3分の1超をめどとすることも一案と述べている。貯金限度額の引き上げも判断を見送った。

郵便、銀行、保険の一体運営を維持するには一定の収益が必要となる。それを確保するため、民間金融機関との協調融資への参加、医療保険の原則解禁などを盛り込んだ。

また、民業圧迫とならないように、保有国債を企業に貸し出し、それを担保に企業が民間金融機関から融資を受けられるようにするというアイデアも示されている。

企業へは資金、民間金融機関は融資拡大、ゆうちょ銀行には国債の貸借料というメリットがあり、三方一両得というわけだが、資金集めが専門で運用についての基本能力が劣る金融機関が、簡単に業容を拡大できるほど金融ビジネスは甘くない。

郵便と基礎的金融サービスを全国一律に提供するほか、年金記録の提供やパスポートの取得事務といった行政サービスに対するコストの負担について、政府が直接負担するより租税減免の方が国民の理解を得やすいと述べている。しかし、国民の負担で郵政3事業を支え続けるというのでは、郵政改革は振り出しに戻ることにならないだろうか。

役割を終えた郵貯、簡保は縮小し、郵便は別途、公的支援でサービスを維持するというのが郵政改革の原点となる考え方だろう。しかし、連立与党の中には、集票組織として機能してきた旧来の姿に郵政3事業を戻すべきだという意見もある。そうした状況下で示されたため、何をどうしたいのかよくわからないというのが、素案に対する率直な感想だ。

来月には法案を国会に提出するという。すんなり作業が進むとはとても思えないが、郵政改革の原点を踏まえた改革案であってほしい。

読売新聞 2010年02月10日

郵政改革素案 官製金融の再膨張は避けよ

郵政民営化で生じたゆがみを正すのは大歓迎だが、官業の再膨張は願い下げにしたい。

政府がまとめた郵政改革法の素案は、持ち株会社など5社体制の郵政グループを3社に再編することが柱だ。

持ち株会社の日本郵政と郵便事業会社、郵便局会社を統合し、郵便局の管理・運営を集約する。その下にゆうちょ銀行とかんぽ生命の2社がぶら下がる形になる。

重要なのは郵政3事業を、より便利で無駄の少ない、国民共有のネットワークに改革することにある。法案の策定に向けて、論議を尽くしてほしい。

現在の分社体制は、業務の縦割りや連携の悪さが目立ち、評判が悪い。新会社の社員は、郵便、貯金、保険のサービスを、すべて扱えるようにするという。

「配達の人に『貯金をおろしてきて』と頼めなくなった」など、過疎地の高齢者を嘆かせた不便は解消すると期待される。

郵便はもちろん、年金の受け取りや公共料金の支払いなど最低限の金融業務を郵便局が担うことになれば、「金融難民」を作らないで済むだろう。

郵便局で年金記録確認や、パスポート申請など、一部の行政サービスも受けられるようにする。

こうした「利便性向上」は追求すべきだが、注文もある。

新会社には郵便、貯金、保険について、全国一律でサービスを提供するよう義務づける。利用者が少ない地方などで出た赤字は、国が補填(ほてん)することになる。

その場合、金額の妥当性などをチェックできる、透明性の高い仕組みにしなくてはならない。

政府は郵政グループへの出資を続けながら、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の新規業務を自由化するという。貯金残高はピークからは減少したが、約180兆円と民間のメガバンクを上回る。

政府の出資比率は法案策定までに詰めるというが、いずれにせよ政府が後ろ盾につき、全国に拠点を張り巡らした巨大金融会社が自由に業務を拡大すれば、民間の仕事を奪うのは間違いあるまい。

与党には、貯金の預入限度額を1000万円から3000万円に引き上げる案もある。

改革が、無駄の多い官業メガ銀行、メガ生保を復活させてしまっては、それこそ本末転倒だ。

業務を自由化するのなら、完全民営化するのが筋だ。

逆に政府出資を残すなら、業務を少額決済などに絞り、規模縮小を目指すべきである。

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