賃上げ要請 政権はのりを越えずに

朝日新聞 2015年04月05日

賃上げ要請 政権はのりを越えずに

春闘を終えた大企業に続き、これから交渉が本格化する中小企業の賃上げについて、安倍政権が新たな動きに出た。

政労使のトップが集う会合で、中小企業に賃上げを要請した。これは「デフレ脱却と経済の好循環」を掲げて大企業中心の経団連に賃上げを求めてきたのと同じだ。踏み込んだのは、中小賃上げへの環境整備として、大手と中小の取引慣行を取り上げたことだ。

中小企業は円安などで輸入原材料の値上がりに直面し、賃上げどころではないところが少なくない。そんな中小も賃上げ原資を確保できるよう、政権は経団連に対し、加盟企業が中小側とコスト増の負担の仕方についてあらかじめ合意しておくよう求め、経団連も受け入れた。

政府は、主な業界ごとにある下請け取引ガイドラインに「望ましいコスト転嫁の取引慣行」を明記し、これに沿って大手への取り締まりを強化する。

賃上げを中小や非正規の社員に広げることは、確かに日本経済の喫緊の課題である。大企業が立場に物を言わせてコスト増を取引先に押しつけることがあってはならないのも当然だ。

ただ、そうした問題には、独占禁止法や下請代金法に基づき、公正取引委員会などが目を光らせることが原則だ。今回の対応は「コスト増は大手が負担を」などと具体的に指示したわけではなく、独禁法上も問題ないというが、企業活動の基本である契約の世界に政府が口をはさむのは異例である。

その特異さと、それでもかかわろうとする政権の意思は、政労使会合後の甘利経済財政相の会見に表れている。

「政府としてそこまでやるかという指摘もあったが、総理が決断され、経団連も前例がないが協力する」「従来の枠組みを超えて取り組んできた」「公的な力が介入しないで自然発生的に動いていくのが本来の姿だが、最初に押すことは人為的にやらなければならない」

大企業が利益をためこむばかりでなかなか動こうとしなかったのは事実だろう。しかし、政権が税財政や規制改革を通じた誘導策にとどまらず、性急に成果を出そうとすれば、経済成長に最も大切な民間の自発性を損なって「指示待ち経済」を作ってしまわないか。

企業にとって取引先は株主や従業員、地域社会と並ぶ大切な関係者だ。それをないがしろにする企業は淘汰(とうた)されていく。そんな経済の原則を大切にしつつ、企業が切磋琢磨(せっさたくま)する土俵を整えることが政府の役割だ。

読売新聞 2015年04月08日

中小企業春闘 官民で賃上げの動き広げよう

大手企業の賃上げの動きが中小企業にも広がるよう、官民が連携して取り組む必要がある。

政府と経済界、労働組合による政労使会議が、中小企業に賃上げを促す環境整備を進めることで合意した。

大企業と中小企業が個別に話し合い、原材料価格の上昇によるコスト増を分担するルールを決めることなどを申し合わせた。政府は、適切な価格転嫁の事例を紹介する指針もまとめた。

円安で原材料の輸入価格は高騰しているが、立場の弱い中小企業の多くが大手との取引で価格に転嫁できないでいる。政労使合意によって、中小企業のコスト負担を軽減し、賃上げにつなげようとする狙いは妥当と言える。

大企業の業績は、円安が追い風となる輸出関連の業種を中心に改善し、上場企業全体で過去最高益が見込まれる。

政府からの呼び掛けもあって、多くの企業に持続的な景気回復には賃金上昇が欠かせないとの意識が広がり、春闘は2年連続の大幅な賃上げで妥結した。

一方、中小企業の業績は厳しく、これから本格化する賃上げ交渉の行方は予断を許さない。

日本商工会議所によると、今春闘で賃上げを予定する中小企業は4割にとどまり、その8割がベースアップを見送る方針という。

消費を活性化し、景気を力強く回復させるには、サラリーマンの7割が働く中小企業に賃上げが幅広く波及することが不可欠だ。

経団連の榊原定征会長は、会員の大企業に対し、下請け企業との取引条件の適正化を呼び掛ける考えを表明した。

個別の企業活動に踏み込んだ要請は異例だが、賃上げを起点とした「経済の好循環」の主役は、あくまで民間である。各企業は前向きに取り組んでもらいたい。

気がかりなのは、民間取引に政府が過剰に介入すれば、企業行動を萎縮させかねないことだ。

政府は、大企業による一方的な値引きなどを防ぐ狙いで、昨年10月から約500社に立ち入り検査を実施し、これまでに約400社に改善を指導した。

監視・取り締まりをさらに強化する方針を示しているが、行き過ぎは禁物だろう。

賃上げの実現のため最も大切なのは、中小企業がより良いサービスや製品を開発し、競争力を高めることである。政府は、不採算部門から成長分野への事業転換や、新たな販路拡大を後押しする規制緩和などを推進すべきだ。

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