南海トラフ 地震の備え常時更新を

朝日新聞 2015年03月31日

南海トラフ 地震の備え常時更新を

太平洋沖の海底のくぼみ「南海トラフ」での巨大地震に備えて、国の中央防災会議がきのう応急対策活動計画をまとめた。

事前に大まかな計画をつくっておく。実際に発生したら、被災状況がわからなくても救援に動き出す。そんな内容には、東日本大震災の教訓を生かそうとする姿勢が感じられる。

この計画で、本物の災害時にどこまで有効に対処できるか。そこは不断の見直しによる更新を重ねてゆくしかあるまい。

さまざまな運用訓練を続けて計画の中身を常に検証し、定期的に改善することが重要だ。

静岡県沖の駿河湾から九州沖まで続く南海トラフでは、マグニチュード(M)7~8級の地震が繰り返し起きている。

東日本大震災では、最大でM8程度と考えられていた宮城県沖でM9が起きた。このため、国は南海トラフ地震の想定を最大M9・1まで上げた。この規模だと死者が約32万人、経済損失が東日本大震災の10倍を超える220兆円に達するとみる。

現代の地震学では、いつ、どれぐらいの地震が起きるかを予測することはできない。

今回の計画は、あしたかも知れない巨大地震が起きた際に、最善を尽くすためのものだ。

優先的に確保すべき道路をあらかじめ定め、災害時には通行情報を共有し、応急復旧や交通規制を一体的に進める▽海や空からの救助も事前に想定する。

全国で1300以上に増えた災害派遣医療チームをフルに活用する▽食料や毛布などは要請を待たずに調達・輸送に動く▽防災拠点に燃料を優先供給できる体制を石油業界と築く――。

東日本大震災での苦労や後悔が各所ににじんでいる。

内閣府の担当者は「計画を作り込み過ぎないよう心がけた」という。詳細すぎると、現実と違う場合に混乱するからだ。

当然、計画に寄りかからず、現実に対応して的確に判断できる人材がさまざまなレベルで求められよう。実践的な訓練を重ね、そうした人材を育てることが計画実行のカギになる。

国は昨年、「今後10年間で死者数を8割減らす」など南海トラフ地震の減災目標を定めた。

事後の計画だけでは目標は達成できない。建物の耐震化や津波避難場所の確保などが決定的に重要だ。医療機関など防災拠点の対策は、特に急がれる。

国は北海道から千葉県沖で発生が予想される日本海溝と千島海溝周辺の地震についても、被害想定を見直している。

警戒すべきは南海トラフだけではないと肝に銘じたい。

読売新聞 2015年04月01日

巨大地震対策 訓練と検証が実効性を高める

巨大地震に備え、被害を最小限に抑える体制を整えねばならない。

東海沖から九州沖にかけて発生するとされる南海トラフ巨大地震について、政府の中央防災会議が、救助や物資輸送の計画を決めた。

最悪の想定では、30万人以上が死亡し、住宅など230万棟以上が全焼・全壊する。道路も各地で分断される。国の総力を挙げた対応が求められる。

発生から72時間で、負傷者らの生存率は大幅に下がる。それまでに、自衛隊や警察、消防からなる最大約14万人の救助部隊を被災地に派遣するのが計画の柱だ。甚大な被害が予想される中部地方から九州の沿岸10県が対象となる。

計画は、輸送ルート、救助・消火、医療、物資、燃料の5分野ごとに、政府や関係機関、自治体の活動を時系列で示している。

道路や空港、港湾の状況を把握し、点検する。全国の災害派遣医療チーム(DMAT)も直ちに被災地に向かう。灯油などの燃料は企業間の連携で確保する。

食料や毛布など、生命維持に不可欠な支援物資を、被災地の要請を待たずに届ける「プッシュ型支援」を展開するのも特徴だ。

複雑で大規模な計画である。実効性を高めるため、平時から訓練と検証を重ねたい。

南海トラフの地震は、東海沖から九州沖までが一斉に揺れるケースだけではない。過去には、東南海や南海などの一部の海底で発生した。地震が、年単位の時間差で起きたこともある。

地震の多様なパターンに対処できるよう、計画に柔軟性を持たせることが欠かせない。

政府は、首都直下地震の減災目標も閣議決定した。

中央防災会議の想定では、死者2万3000人、全焼・全壊する建物は約61万棟に上る。様々な対策を講じることで、この被害想定を10年間で半減させる。

住宅やビルの耐震化と、地震を感知して電気を止める感震ブレーカーの普及などが中心となる。

木造密集地域で火災が発生すると、延焼により住民が逃げ場を失う恐れがある。著しく危険な木造密集地域を2020年度までに、ほぼ解消する目標も掲げた。

住宅の建て替えや移転には多額の費用がかかるだけに、目標達成は容易ではない。政府と東京都の大きな課題である。

首都圏では近年、小規模な地震が増え、直下地震発生の可能性が高まったとも指摘される。減災への取り組みを加速させたい。

産経新聞 2015年04月03日

南海トラフ地震 柔軟な対策で被害抑えよ

最悪で32万人もの死者が想定される南海トラフ巨大地震に備え、政府は救援部隊派遣や物資輸送などの方針を定めた「応急対策活動計画」をまとめた。

日本の大動脈である太平洋ベルト地帯を襲う南海トラフ地震は、国の存亡にかかわる巨大災害になりかねない。

応急活動計画では、被害の全容把握を待たずに人命救助や救援活動を開始することを重視した。

発生から72時間以内に、最大14万人の救援部隊を被災地に派遣する。被災自治体からの要請がなくても、毛布や食料などの必需品を届ける。

東日本大震災を教訓に、国の総力を挙げて人命救助、被害の最小化に取り組む姿勢を示したことを評価したい。

計画は、輸送ルート、救助・消火活動、医療、物資、燃料の5分野で政府や関係機関が取り組むべき行動を時系列で示した。各分野で拠点施設を定めるなど、応急活動の骨格となるものだ。

この計画を実際の災害時に生かすためには骨格に肉付けをし、実効性と柔軟性を持たせなければならない。

国、自治体と住民は、平時の訓練やシミュレーションを通して、応急活動の課題を具体的に検証する必要がある。広域で甚大な被害が想定されるので、国と自治体、救援部隊の緊密な連絡と情報共有は特に重要だ。

計画は「科学的に想定できる最大規模の地震・津波」と、それによる「最悪の被害」を想定している。実際に起こる地震・津波と被害は想定通りではないことを念頭に、活動計画を基本としながら、さまざまな状況に対応できる応用力を身につけることも大切だ。

南海トラフでは、東海・東南海地震が先行し、南海地震が遅れて発生したケースもある。時間差発生にどう対応するかを含め、南海トラフ地震への備えと応急活動計画を一元化して再構築したい。

同時に、歴史的に発生例のない東海地震(単独発生)だけを想定した大規模地震対策特別措置法は早急に撤廃すべきだ。

南海トラフで大規模地震が発生した場合、被災地と日本を支えるのは関東以北と日本海側の地域である。東北の復興と地方創生によって、「国難」を乗り切れるだけの体力を養っておかなければならない。

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