アジア投資銀行 関与へ作戦立て直しを

朝日新聞 2015年04月01日

AIIB 関与は十分だったのか

中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の設立協議に、欧州を含む国々が参加を表明している。日本は、中国主導の新銀行は組織の透明性などに疑問が残るなどとして、参加には慎重なまま、中国が「創立メンバーになる締め切り」としていた3月末を迎えた。

AIIBの資本金は将来的には1千億ドル(約12兆円)。経済成長を続けるアジアの新興国は、インフラ整備のために膨大な資金を必要としている。大切なのは、AIIBが望ましい貸し手になるのかどうかだ。

AIIBの本部は北京に置かれ、初代総裁は中国が出す方向だ。意思決定の方法や融資の基準など具体的な仕組みは、参加を表明した国々の協議で決まる。世界銀行やアジア開発銀行(ADB)は、融資対象の事業が環境破壊や人権侵害を招かないかなどを審査している。AIIBもそんな配慮をするのか、注視しなければならない。

透明で公正な運営が担保されるなら、日本がAIIBに出資することも選択肢の一つになる。日本が最大出資国であり総裁も出しているADBが、協調融資などでAIIBと協力することも検討に値する。

従来、欧州諸国や有力新興国の多くも、AIIBへの参加に慎重だったが、ここにきて参加を表明する国が相次いだ。中国との関係を密にすることの経済的メリットを重視した国があるのは確かだろう。

だが、気になるのは、AIIBの運営方法などについての中国の考え方が改善してきたことを指摘する国がある点だ。

中国が一昨年にAIIBの設立を提唱してからこれまで、日本は中国とどのように意見交換し、どんな情報を得ているのか。麻生財務相はきのうも国会で、融資基準などについての質問に、中国から「返事は来ていない」と答弁した。このところの日中政府間関係の脆弱(ぜいじゃく)さが情報収集に影響してこなかっただろうか。

日本がAIIBに参加するにしても、見送るにしても、政府はその判断の根拠を、国民に説明する必要がある。そのためにも、中国への関与は、希薄であってはならない。

戦後の国際金融は米欧を中心に動いてきた。日本は長年、米国とともに歩むことで一定の地位を保ってきてはいる。しかし、中国の台頭で、その秩序は大きく変わろうとしている。今後、日本はどういう立ち位置をとるのか。AIIBはそんな問題を日本に投げかけている。

毎日新聞 2015年04月01日

アジア投資銀行 関与へ作戦立て直しを

アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を政府が見送った。創設時のメンバーとして設立協定づくりに加わるには、3月末までに参加意向の表明が必要とされたが、従来の慎重姿勢を崩さなかった。

読売新聞 2015年04月03日

アジア投資銀 「日米孤立」の批判は的外れだ

世界第2の経済大国・中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に、約50か国が参加を表明した。

日米両国が慎重姿勢を示したにもかかわらず、先進7か国(G7)の英独仏伊4か国や、米国の同盟国である韓国、オーストラリアも名を連ねた。

AIIBに参加すれば、大規模な需要が見込まれるアジアのインフラ(社会資本)市場への参入機会が拡大する。日米に対する外交的な配慮より、経済的実利への期待を優先したのだろう。

背景には、米国の指導力の低下があるとの見方も強い。

参加国が増えたからといって、中国がAIIBの運営で圧倒的な支配力を握り、自国の国益に沿った事業に利用する懸念が消えたわけではない。

中国の習近平国家主席は、中国と欧州をつなぐ「海陸のシルクロード」沿いに、中国主導の大経済圏を作る考えを示している。その主要資金源として、AIIBの出融資が想定されている。

成長減速で過剰になった中国国内の物資と労働力を、アジアのインフラ投資に振り向ける狙いだろう。通貨・人民元の国際化につなげる思惑もうかがえる。

外交や安全保障上の不安も大きい。開発支援先への影響力を強める意図はないか。海洋進出を急ぐ中国海軍の寄港地を拡大するための港湾整備に、AIIBが融資する可能性も否定できない。

中国財務相は「西側のルールが最善とは限らない」と述べた。環境や人権を重視する世界銀行やアジア開発銀行(ADB)とは違う運営になるとすれば問題だ。

日米両国は、中国に対し、融資や審査の考え方を示すよう求めたが、明確な回答は得られておらず、不透明なガバナンス(統治)への不安は払拭できていない。

一部に「外交の失敗で日米が孤立した」といった批判も出ているが、国際金融秩序に責任を持つ日米が現時点で参加を見送ったのは、適切な判断である。

東シナ海などで中国が一方的な現状変更を図る中、日米同盟を強化する必要性は増している。米国との共同歩調を堅持したい。

AIIBは、6月中に運営体制を定め、年内の発足を目指す。

ルー米財務長官が訪中し、ADBなど既存の国際金融機関とAIIBの連携を呼びかけた。

日米両国が関係国と協調し、AIIBが透明性を保ち、国際ルールに沿った行動を取るよう促す努力を続けることが重要だ。

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