世界第2の経済大国・中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に、約50か国が参加を表明した。
日米両国が慎重姿勢を示したにもかかわらず、先進7か国(G7)の英独仏伊4か国や、米国の同盟国である韓国、オーストラリアも名を連ねた。
AIIBに参加すれば、大規模な需要が見込まれるアジアのインフラ(社会資本)市場への参入機会が拡大する。日米に対する外交的な配慮より、経済的実利への期待を優先したのだろう。
背景には、米国の指導力の低下があるとの見方も強い。
参加国が増えたからといって、中国がAIIBの運営で圧倒的な支配力を握り、自国の国益に沿った事業に利用する懸念が消えたわけではない。
中国の習近平国家主席は、中国と欧州をつなぐ「海陸のシルクロード」沿いに、中国主導の大経済圏を作る考えを示している。その主要資金源として、AIIBの出融資が想定されている。
成長減速で過剰になった中国国内の物資と労働力を、アジアのインフラ投資に振り向ける狙いだろう。通貨・人民元の国際化につなげる思惑もうかがえる。
外交や安全保障上の不安も大きい。開発支援先への影響力を強める意図はないか。海洋進出を急ぐ中国海軍の寄港地を拡大するための港湾整備に、AIIBが融資する可能性も否定できない。
中国財務相は「西側のルールが最善とは限らない」と述べた。環境や人権を重視する世界銀行やアジア開発銀行(ADB)とは違う運営になるとすれば問題だ。
日米両国は、中国に対し、融資や審査の考え方を示すよう求めたが、明確な回答は得られておらず、不透明なガバナンス(統治)への不安は払拭できていない。
一部に「外交の失敗で日米が孤立した」といった批判も出ているが、国際金融秩序に責任を持つ日米が現時点で参加を見送ったのは、適切な判断である。
東シナ海などで中国が一方的な現状変更を図る中、日米同盟を強化する必要性は増している。米国との共同歩調を堅持したい。
AIIBは、6月中に運営体制を定め、年内の発足を目指す。
ルー米財務長官が訪中し、ADBなど既存の国際金融機関とAIIBの連携を呼びかけた。
日米両国が関係国と協調し、AIIBが透明性を保ち、国際ルールに沿った行動を取るよう促す努力を続けることが重要だ。
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