飲料統合の破談 次なる戦略を期待する

朝日新聞 2010年02月10日

飲料統合破談 やってみなはれ再挑戦

残念なことだが、キリンとサントリーの間で1年余りにわたって進んできた経営統合の交渉が、決裂した。

国内飲料1位と2位の組み合わせ。合計すると米コカ・コーラを上回る世界屈指の規模の食品メーカーになる。昨夏、そんな大統合の構想が表面化すると、投資家や消費者から驚きと同時に歓迎の声も上がった。

「国内勝ち組」の現状に満足せず、拡大するアジア市場に、そして世界に手を携えて打って出ようとする両社の積極性が買われたのだ。

長引くデフレ経済のなかで停滞感が漂う日本全体を励ます効果もあったのではないか。その先駆モデルが幻と消えたのは、いかにも惜しい。

決裂の原因は統合比率で折り合えなかったことだ。両社の統治哲学の違いもあった。内外に多数の株主をもつ上場企業のキリン。創業以来1世紀にわたりオーナー経営を続けるサントリー。溝は埋められなかった。

両社に共通していたのは危機感だった。「世界市場で競争に勝つには、単独ではパワーが足りない」という認識である。それを克服するために取り組んだ大テーマが、同じ危機意識を持つ企業同士の統合だった。

1990年代なかば以降にブームを迎えた日本の企業合併・買収(M&A)は、国内市場志向や敵対的な買収に対する防衛の色彩が強かった。キリン・サントリーの構想はグローバル化時代の「攻め」の選択だった。

もちろん企業経営は拡大するばかりが選択肢ではない。小さくとも高品質のものをつくり続けたり、地場企業として地域の人々を支えたりするのも立派な行き方だ。キリンとサントリーもこの不況下でも業績堅調なのだから、現状のままでも当面は十分やっていけるはずだ。

だが、両社の経営者の目はその先へと向けられていた。超高齢化、人口減少が進む国内消費市場に成長の余地は乏しい。そこにしがみついていても、それぞれが抱える数万人の雇用を守りつつ、海外の巨大企業に負けない経営を続けられる保証はない。

一方、アジア諸国に目を向けると、高い成長が見込まれる市場がたくさんある。ここに人材と資金をつぎ込むには、単独では力が足りない。だから強い相手と組む必要があり、2社の組み合わせが浮かび上がったのだった。

破談で戦略の練り直しを迫られるが、両社の問題意識は変わっていない。加藤壹康(かずやす)キリン社長は「アジア・オセアニアのリーディングカンパニー」を引き続き目標に掲げ、佐治信忠サントリー社長は「海外の相手を探す」と気持ちを切り替える。

再挑戦への姿勢を尊重したい。サントリー創業者・鳥井信治郎氏が語ったように、「やってみなはれ」である。

毎日新聞 2010年02月09日

飲料統合の破談 次なる戦略を期待する

キリンとサントリーが進めていた経営統合交渉が決裂し、コカ・コーラ(米国)を抜いて世界5位の売上高となる飲料・食品メーカー誕生は幻となった。

企業風土や経営の思想がまったく違うことは、昨年7月に交渉が表面化した当初から言われてきた。三菱グループの一員として、組織を重視する手堅い経営を続けてきたキリン。「やってみなはれ」の言葉に象徴される自由な社風と、創業一族の強い個性で経営を率いるサントリー。株式を公開するキリンに対してサントリーは非上場だ。類似点はともに業績が好調で、海外企業のM&A(合併・買収)に積極的なことくらいだった。

相いれないような両社の統合交渉は、「勝ち組」とされる企業でも、大胆な戦略転換で経営を改革しなければいけないことを強く印象づけた。ビールも、清涼飲料も国内市場は縮小傾向で、このままではじり貧である。国内1、2位とはいえ世界の舞台ではキリン、サントリー共にトップクラスとはいえない。

隔たりのある両社が統合すれば、違いが大きい分だけ補う部分も大きく、全天候型の経営が可能になる。統合交渉を始めた段階で、両社首脳もそう考えたはずだ。株式市場も決断を評価した。

しかし、半年あまりの交渉をへて、違いを埋めきれなかったのは残念だ。加藤壹康(かずやす)・キリン社長は「どういう経営をするかの認識が一致しなかった」と語り、佐治信忠・サントリー社長は「理由は統合比率。われわれは対等を基本にしていた」と話した。キリンの医薬品事業の評価、サントリー創業家の経営への位置づけなどでも対立があったようだ。

国内市場の縮小は多くの企業が直面し、頭を痛めている問題である。海外に活路を求めるわけにもいかず、生き残るだけで必死な企業も多いだろう。しかし、勝ち組といえども、変わり続けることを追求したキリンやサントリーの姿勢に学ぶべき点は少なくない。

世界市場でネスレ(スイス)やペプシコ(米国)などと競わなくてはいけない両社には、新たな戦略を積極的に打ち出してほしい。両社が統合交渉を通じて、自社の強みや足らない部分を再認識したのはむだではなかったはずだ。

交渉と並行してサントリーは、フランスの飲料メーカーを3000億円で買収し、中国のワイン輸入販売会社も買収した。キリンはオーストラリアのビール会社を完全子会社化した。交渉を有利に運ぶため、買収によって企業価値を高めようとしたともみられているが、「攻め」の経営は今後も大切だ。

読売新聞 2010年02月10日

大型統合破談 大きかった企業文化の違い

キリンとサントリーが続けてきた経営統合交渉が決裂した。世界有数の飲料・食品会社をつくる大型再編は、泡と消えることになる。

だが、グローバル企業への脱皮という両社が統合で目指した方向は、誤りではなかった。それは日本企業共通の課題でもある。

破談を受け、両社は新たなM&A(企業の合併・買収)を検討する考えという。世界では国境を超えた食品・飲料メーカーの再編が相次いでいる。戦略の立て直しを急いでほしい。

両社は、統合に向けた交渉を昨年夏から始め、9月には、公正取引委員会に統合の事前審査を申請した。しかし、統合比率や、サントリー創業家の経営への関与をどの程度認めるかなどで、最後まで折り合いがつかなかった。

キリンは、組織力が自慢の三菱グループの一員として、手堅い経営で知られる。サントリーは、株式の約9割を握る創業一族による独特な経営が特徴だ。結局、企業文化の違いを互いに乗り越えられなかったということだろう。

水と油のようなライバル同士が交渉に入ったのは、国内市場に頼るだけでは将来はない、という危機感を共有していたためだ。

国内のビール消費量は90年代半ばをピークに減少を続け、清涼飲料水もここ数年、頭打ちになっている。その一方、アジアなどの新興国では、経済成長に伴う中間所得層の増加で、飲料や食品市場は急拡大している。

国内では「勝ち組」とされる両社だが、国内首位のキリンの売上高は2・3兆円で、世界首位のネスレ(スイス)の9・3兆円と比べると、4分の1しかない。

じり貧の国内市場に引きこもらず、世界市場に活路を求める。そのためには、国内市場で収益力を高め、国際的な大型M&Aもできるような、十分な体力をつけなければならない。

両社が経営統合を目指した目的は、アジアを中心とした世界の市場で、競争に勝ち抜く力をつけるためだった。

互いの弱点を補ったり買収攻勢をかわしたりする、「守り」ではない「攻め」の再編だったといえる。実現していれば、新会社は内需型企業が世界に打って出るモデルとなり得ただろう。

グローバル企業の代表であるトヨタ自動車が、品質問題で世界的に窮地に立つなど、国際展開にはリスクもつきまとう。だが、萎縮(いしゅく)は禁物だ。日本企業は「攻め」の姿勢を忘れてはなるまい。

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