イエメン危機 国家崩壊防ぐ協力を

朝日新聞 2015年03月27日

イエメン危機 国家崩壊防ぐ協力を

シリアやリビアに続き、中東でまた一つの国が紛争の影に覆われている。アラビア半島南部のイエメンである。

旧約聖書に登場する「シバの女王」が治めた王国はこのあたりらしい。豊かな歴史と文化に彩られた地域。しかし、近年は内紛の絶えることがない。

北部を拠点とした少数派のイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」が、首都を掌握し、2月に暫定政府樹立を宣言した。同じシーア派の国イランの支援を受け、さらに南部に侵攻している。南部に逃れたハディ暫定大統領を支えるスンニ派のサウジアラビアなどは、フーシ派への空爆に踏み切った。

過激派組織「アラビア半島のアルカイダ」なども活動を広げ、対立構造は複雑だ。

シリアやリビア、さらにイエメンと海を隔てるソマリアでは、国家の統一が保てず、過激派が勢力を広げている。テロの温床ともなっている。

イエメンまでそうなると、周辺への影響が計り知れない。安定に導くため、欧米や周辺諸国は協力態勢を築く必要がある。

イエメン沖はスエズ運河に直結する航路で、航行に支障が生じると日本への影響も甚大だ。イエメンの安定化に向けて日本に何ができるか、模索したい。

イエメンは冷戦時代に南北で別の国に分かれていたが、1990年に統一された。しかし、国内では様々な勢力が対立を続け、10年あまり前からフーシ派が次第に勢力を拡大した。

背後でてこ入れするイランは自国の核開発をめぐり、米国などとの間で枠組み合意に向けた大詰めの協議の最中だ。もし合意を望み、国際的な孤立から抜け出したいなら、イエメンで争いをあおる場合ではあるまい。紛争の種を振りまくのでなく、停戦や和平を助ける姿勢を持たないことには、国際社会にも受け入れられない。

サウジも、軍事行動に慎重であるべきだ。スンニ派とシーア派の代理戦争を繰り広げると、周辺に飛び火する恐れがある。両派の対立を元々抱える湾岸諸国も動揺すれば、日本の原油供給にも支障が生じかねない。

さらに、混乱に乗じようとする過激派にも警戒が必要だ。「アラビア半島のアルカイダ」は、フランスやデンマークのテロへのかかわりも取りざたされる組織である。

混乱の長期化は、イエメン国民の暮らしを破壊するとともに、国際テロの危険もいっそう高めかねない。日本を含む国際社会には、イエメンの国家崩壊を傍観する余裕はないはずだ。

毎日新聞 2015年03月28日

イエメン情勢 軍事介入で解決するか

アラビア半島南端にあるイエメンは、アジアと欧州の交易の中継地として栄え、古代ギリシャやローマの時代は「幸福のアラビア」と呼ばれた。旧約聖書に登場するシバの女王の王国も、イエメンかエチオピアの周辺だったとされる。決して豊かではないが、イエメンは「アラブの源流」とも言われてきた国である。

産経新聞 2015年03月29日

イエメン 国の崩壊はテロ跳梁招く

国家崩壊の危機にあるイエメンに対し、サウジアラビア主導のアラブ連合軍が空爆を開始した。イスラム教シーア派の一派、ザイド派の武装集団鎮圧が目的だ。

イエメンが国の統一を失えば、イスラム過激派の跳梁(ちょうりょう)を許す。紅海の出口にあたり、アジアと欧州を結ぶ物流の要衝に位置するイエメン沖の海上輸送路に支障が出れば、世界経済にも影響を与えかねない。

各国は、イエメン危機打開に向けて対応を急ぐ必要がある。

ザイド派は昨年9月、首都サヌアを制圧し、今年2月には、「アラブの春」でサレハ政権が倒れた後の権力移行プロセスを担ってきたハディ暫定大統領を排除して独自の暫定政府を樹立した。背後で、同じシーア派のイランが支援していたと指摘されている。

人口の30%強を占めるザイド派はスンニ派主導の政権移行に不満を募らせていたが、国際的に承認された政権を武力で転覆させる行為は到底、許されない。

同じスンニ派のハディ氏を支持し、自らの裏庭にあたるイエメンの安定化を図ろうとしてきたサウジが、イランの急激な影響力拡大を警戒するのも当然だ。

軍事作戦にはペルシャ湾岸産油国やヨルダンなどスンニ派中心の計10カ国が参加し、サウジは地上部隊も待機させているという。

重要なのは、戦闘による混乱から漁夫の利を得るのはイスラム過激派だということだ。シリアやイラクの例をみれば、それは明らかだ。イエメンでは、パリの週刊紙襲撃テロなどへの関与を主張するアルカーイダ系組織が勢力を伸長させている。

スンニ派のサウジとシーア派のイランによる「代理戦争」に発展し、その混乱が国際テロの危険を拡大させないよう、双方には十分な自制を求めたい。

イランはザイド派に影響力を行使し、イエメンでの停戦実現などに協力すべきだ。

イエメンでは複雑な部族関係や宗派の対立が社会の不安定要因となってきた。ハディ氏側と有力宗派のザイド派双方が受け入れられる解決策が何としても必要だ。

イエメンの混迷長期化は中東をいっそう不安定にし、原油市場が動揺すれば回復途上の日本経済へのリスクにもなろう。日本もアラブ友好国やイランに働きかけ、事態収拾への道筋を探るべきだ。

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