与党安保協議 機動的な対処が可能な法制に

朝日新聞 2015年03月14日

与党安保協議 ああ、つじつま合わせ

それにしてもわかりにくい。国民ばかりか、活動にあたる自衛隊員が戸惑うかもしれない。

安全保障法制の与党協議で、自衛隊の海外での活動を定める法律の大枠が固まった。

周辺事態法改正、恒久法、国連平和維持活動(PKO)協力法改正――この三つの法律で、地域の平和と国際貢献に対応するのだという。それぞれ法律の目的で切り分けているが、その線引きは不明確で、つじつま合わせの感がぬぐえない。

問題の根源は、集団的自衛権の行使を認めた昨年7月の閣議決定にある。いまつくろうとしている法律はそれすら逸脱している。自衛隊の活動拡大、一辺倒である。

もともと自民党は、周辺事態法を廃止して恒久法を新しく定める腹づもりだった。これに対し公明党は周辺事態法は残す考えで、いつでも自衛隊を出せる恒久法には否定的だった。

すると政府は、周辺事態法を残す代わりに、地理的制約として機能してきた「周辺」という概念をなくすよう提案。曲折をへて、周辺事態法と恒久法が併存する方向になった。

日本の平和に関わるのが周辺事態法で、国際社会に寄与するのが恒久法というのが政府の説明だが、どちらも活動の中身は他国軍への後方支援で重なる。周辺事態法の根幹は「重要影響事態」にするというのだから、もはや新法と変わらない。

さらに人道復興支援については武器使用基準などの関係で恒久法とは切り分け、PKO協力法改正で対応する。これに伴いPKO5原則の変更まで検討されており、まだ話は収まっていない。今後、国会承認などの議論に入ると、いっそう混乱をきたす可能性も出てくる。

肝心なのは、自衛隊を海外派遣するだけの正当性が確保できるかどうかという点だ。国連決議もないような紛争の後方支援は、情勢によって日本の立場を不安定にさせる恐れがある。

政府は、国連決議がなくても「国際機関の要請」などで自衛隊を海外派遣できるよう検討している。だが、国連決議に基づく支援が基本だ。この軸をずらすべきではない。

日本には安全保障論議の積み重ねがある。集団的自衛権の行使を認めない憲法解釈はその典型だ。安倍政権はそれを無視するかのように解釈変更に踏み切ったが、このままでは安保政策の安定性まで失いかねない。

無理を重ねて合意を急ぐ理由はあるまい。原点に立ち返ってもう一度、あるべき姿を考え直すべきだ。

読売新聞 2015年03月14日

与党安保協議 機動的な対処が可能な法制に

様々な危機が発生した際、自衛隊が機動的かつ効果的に活動できる法制を整備しておくことが、肝要である。

政府が、新しい安全保障法制の全容を与党に示した。

国際協力では、自衛隊の海外派遣に関する恒久法は、他国軍への後方支援に対象を限定する。人道復興支援活動は、改正する国連平和維持活動(PKO)協力法に盛り込む。こうした内容が柱だ。

重要なのは、起こり得る多様な事態に、迅速・柔軟に対処できる包括的な制度にすることだ。

公明党などの注文を踏まえ、法案の組み合わせや内容は変化しているが、想定される自衛隊の活動をほぼ網羅する方向で議論が進んでいることは、評価できる。

内容が複雑で多岐にわたるにせよ、国民にも極力分かりやすい形で法案を整理してもらいたい。

周辺事態法の改正では、「周辺事態」を「重要影響事態」に改め、自衛隊の後方支援の地理的制約を外す。日本周辺の朝鮮半島有事などに限らず、中東の海上交通路(シーレーン)などの有事にも対応可能にするのは妥当である。

危機の発生場所は、日本の平和と安全に影響を与える大きな要素だが、遠くの有事でも重大な影響を受ける例はあり得る。

自衛隊の活動の「歯止め」として、恒久法は、公明党が提案した「国際法上の正当性」「民主的統制」「自衛隊員の安全確保」という3原則を採用する。

国連安全保障理事会の決議がない場合も、赤十字国際委員会といった国際機関の要請や支持などがあれば、派遣を可能にする方向で検討する。適切な対応である。

国連は万能ではない。拒否権を持つ国が反対すれば、安保理決議は採択できない。決議がなくても、地域の平和に貢献した有志連合の活動例は少なくない。

厳しい要件を定め、使えないような法律にしては本末転倒だ。

自衛隊と普通の軍隊には、大きな違いがある。軍隊は原則、禁止された活動以外は実施できるのに対し、自衛隊は法律に定められた活動にしか従事できない。

だからこそ、発生する蓋然性が高くない事態も含め、多くのシナリオを総点検し、様々な対処の余地を確保する必要がある。

自衛隊の海外派遣時の武器使用権限も拡大される。従来認められていた正当防衛だけでなく、任務遂行目的の警告射撃なども可能にする。長年の課題を克服し、より効果的な活動をしやすくするものであり、実現を期待したい。

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