日本とドイツ 国際秩序強化へ協働を

朝日新聞 2015年03月10日

日本とドイツ 国際秩序強化へ協働を

ドイツという国に親しみを覚える人は少なくない。歴史、芸術や文化、あらゆる意味で、この国は日本にゆかりが深い。

メルケル首相が7年ぶりに来日した。朝日新聞本社での講演は、両国の結びつきの深さと、協力の大切さを再認識させた。

権力分立、人権、市場経済の浸透……。共通点を講演で列挙した首相は、いまの繁栄と平和を両国が得た理由として「輸出国として、グローバル経済に支えられている」点を挙げた。

確かに、日本とドイツ(旧西独)は、冷戦下の西側秩序の安定のなかで戦後の復興から世界有数の経済大国へ駆け上った。近年のグローバル化時代がもたらした世界市場の拡大の中でも大きな存在感を示している。

同時にこの70年間に日独は平和国家としての信頼を獲得し、豊かな市民社会を築き上げた。

だが、安定を支えてきた国際秩序が失われれば、繁栄も平和も即座に足場を失う。首相が共通の責務として、国際法を守る環境づくりの役割を挙げたことを重く受けとめたい。

ドイツはウクライナ問題の収拾に力を注いでいる。それが国際秩序の行方を握ると考えるからだ。日本にとっては、中国の海洋進出とどう向き合い、日中韓を含む東アジアの安定化をどう図るかが、喫緊の問題だ。

前世紀に無謀な戦争を起こし、敗戦国として再出発した両国が21世紀のいま、国際秩序を守る重い責任を担っている。その呼びかけは、これからの平和国家のあり方を考えさせる問いかけでもある。

もちろん、国際政治は正義と理念だけで動くわけではない。メルケル氏が長く訪日をしないまま中国との往来を重ねた背景には、中国という巨大市場の魅力があったことも確かだろう。

日独間で進路が逆にみえる問題もある。エネルギー問題で、ドイツは安全を最優先して原発全廃に踏み切った。経済では、ドイツは財政規律を重んじ、日本は景気浮揚に力点を置く。

この違いは何に由来するのか。互いに学びつつ国際秩序の強化に手を携えていきたい。

ロシアと中国という大国問題だけでなく、欧州にはイラン、アジアには北朝鮮の核問題が横たわっている。紛争防止や核不拡散といった地道な外交努力を要する分野にこそ、両国の平和貢献のかぎがあるはずだ。

「息の長さが重要です。イランに対しても、何年も何回も試みた。諦めてはいけません」。世界と真剣に向き合うメルケル氏の強靱(きょうじん)な姿は、日本の若者に強い印象を残したことだろう。

毎日新聞 2015年03月12日

日本とドイツ 戦略的な連携の強化を

第二次世界大戦に敗れ、その責任を負って再出発した日本とドイツはともに平和国家の道を歩み、経済成長を遂げた。戦後70年の今日、両国はその経済力に見合った地域大国として指導的役割が求められている。

産経新聞 2015年03月12日

メルケル首相発言 単純な比較は慎むべきだ

来日したドイツのメルケル首相の歴史問題に関する発言を捉え、国内外で、日本に「反省を促した」と牽制(けんせい)する動きがでている。

発言を都合良く解釈していないか。日本をおとしめる政治宣伝に乗るべきではない。

メルケル首相が9日の安倍晋三首相との共同会見で「過去の総括が和解の前提」と述べた。韓国紙は、安倍首相に歴史の反省を促した、と報じた。メルケル氏は首脳会談に先立つ都内での講演で、「和解は隣国の寛容な振る舞いがあったから可能になった」とも語った。

こうした発言を受け、韓国外務省報道官は「誠意ある反省が先になければ、寛容を示すことはできない」と述べた。

メルケル氏の発言は、戦後の自国とフランスなどとの関係改善の経験について語ったものだ。日本も近隣諸国との過去に向き合うよう求めたとの見方も出ている。しかし日本とドイツは同じ敗戦国だが、戦時の状況や戦後処理の進め方など、経緯が異なる。

民主党によると、メルケル氏は、10日の岡田克也代表との会談で、慰安婦問題の解決を促した。岡田氏が「中国や韓国との間で和解が成し遂げられたとはいえない状況だ」と述べたのに対し、メルケル氏は「常に過去と向き合っていかなければならない」と応じたという。

戦後補償の問題は、日韓では昭和40年の日韓請求権・経済協力協定に基づいて法的に解決済みである。慰安婦問題でも、アジア女性基金を通じた元慰安婦への償い金支払いや、歴代首相が慰安婦の境遇について深い同情を表明するなど、できる限りのことを行ってきた。岡田氏はこうした日本政府の取り組みについてきちんと説明できたのだろうか。

中国、韓国は安倍首相が8月に発表する戦後70年談話への警戒を強めており、メルケル首相の発言を持ち出し、安倍政権をさらに牽制する懸念もある。

メルケル氏の発言にからみ、岸田文雄外相は「多くの国々とりわけアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた認識は歴代内閣と同じだ」と述べるとともに「日独両国を単純比較するのは適当ではない」とした。その通りであり、戦後補償や戦後の一貫した平和貢献などの取り組みについて、適切な発信に努めてもらいたい。

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