東京大空襲70年 犠牲者を悼み語り継ごう

朝日新聞 2015年03月10日

東京大空襲 被害と責任見つめ直す

米軍の無差別爆撃で推定10万人が犠牲になった東京大空襲から、きょうで70年になる。

約300機のB29爆撃機が首都の夜空に飛来し、33万発の焼夷(しょうい)弾を投下した。

当時、下町一帯が炎に包まれても、市民には消火活動をする義務が課せられていた。子どもや女性、老人が逃げ場を失い、命を落とした。

東京大空襲は、都市そのものの徹底破壊をねらった米軍の絨毯(じゅうたん)爆撃の始まりとなった。この後、名古屋、大阪、神戸が大規模な空襲を受け、終戦までに主要都市は焦土となった。

沖縄の地上戦や広島、長崎への原爆投下、艦砲射撃を合わせれば、市民の犠牲者は国内だけで50万人を優に超すともいう。

国民の8割を占める戦後生まれの世代には、国中が「戦場」となった歴史を実感することは難しい。だが、現代を理解するためにも、私たちは絶えず先の大戦の被害の実相を見つめ直していかねばならない。

無謀な戦争に突入したことへの反省が、戦後日本の歩みの出発点であるからだ。

空襲被害を過去のものにしてはいけない。そんな思いから闘い続ける人たちがいる。

07年に東京で、翌年には大阪で、空襲の被災者や遺族が国に損害賠償と謝罪を求める訴訟を起こした。ともに最高裁で原告敗訴が確定したが、被災者らは今、すべての一般戦災者を対象とした援護法の制定をめざす。遺族や孤児、障害者への補償のほか、実態調査や追悼施設の建設が要求の柱だ。

日本政府は軍人・軍属らを援護対象としているが、国と雇用関係がなかった一般市民は原則対象外だ。サンフランシスコ講和条約で、日本人が米国に賠償を求める道は閉ざされている。

そんな中で高齢の被災者が訴えることをやめないのは、被害を知る自分たちが生きているうちに国の責任を明確にし、戦争を二度と繰り返さないための礎にしたいとの思いからだ。

空襲被害だけみても、国による実態調査は十分ではない。どれほどの人がけがをし、家族や財産を失ったのか。少なくともこうした実情を調べることが、過ちを起こさないとの将来へのメッセージになろう。

名古屋空襲で左目を失った杉山千佐子さん(99)は6日にあった集会で「お金がほしいんじゃない。再び何か事が起きた時、国民が捨て置かれる。それでいいのか」と訴えた。

重い言葉といえよう。老いた被害者たちの叫びを、国民全体でしっかり受け止めたい。

産経新聞 2015年03月10日

東京大空襲70年 犠牲者を悼み語り継ごう

東京大空襲から70年を迎えた。

3月10日未明、下町一帯を中心に米軍のB29の無差別爆撃を受け、推計10万人超が犠牲になったこの日を忘れてはならない。改めて犠牲者の冥福を祈りたい。

無差別爆撃でこれほど多くの民間人が犠牲になった惨禍を直接知らない世代が増えている。日本は戦後、焦土と化した各地で人々が苦難を乗り越え、復興を遂げた。犠牲者を心から悼むとき、何が起きたのか、歴史に刻まれた事実をしっかりと知っておく必要がある。

日本の本土への空襲は、昭和17年春ごろから始まった。19年末ごろからはB29による爆撃が激化していった。当初、米軍は軍事施設を狙った精密爆撃を中心にしていたが、20年初めに日本空爆の司令官にカーチス・ルメイ少将が就任すると、住宅密集地などを標的にした無差別爆撃が行われるようになった。

3月10日は、投下された焼夷(しょうい)弾によって当時の東京区部の3分の1以上が焼失するという壊滅的被害を受けた。被災者は100万人を超えた。その後も無差別爆撃は名古屋、大阪など大都市のほか、地方都市にも続けられた。

日本の敗色が濃厚な大戦末期に、これほど非人道的な無差別爆撃が本当に必要だったのかについて疑問は大きく、引き続き日米で検証も必要だ。「戦争終結を早めるため」というだけで正当化できるものではないだろう。戦争をめぐって勝者の視点から語られがちな歴史を多面的に見ることが欠かせない。

過去には、東京大空襲について「軍事都市東京」という造語を使うなどした施設の展示計画に批判がでる問題も起きている。日本をことさら悪者に描き、「空襲を受けてもやむを得ない」などといった考え方は看過できない。

8月の広島、長崎の原爆の日をめぐっても平和宣言に、慰霊の日にふさわしくない政治的主張が盛り込まれる例が過去にあった。

戦後70年の節目に、先の大戦について改めて証言がなされ、勝者の戦争犯罪などについても語られる機会があってよい。

直接戦災を知る人々が高齢化するなかで、謙虚に事実と向き合い記憶に刻むことの重みが増している。現在の物差しで過去の歴史を断罪するような一方的な歴史観は改め、事実を語り継ぎたい。

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