高齢化や技術の進歩で伸び続ける医療費の抑制を、国民の負担増やサービスのカットだけで達成するのは難しい。
今国会に提出された医療保険制度改革関連法案は、負担増策と併せ、自治体や健保組合などの保険者、個人の双方に、健康増進や病気予防への取り組みを促した。
健康作りは動機付けがないと続けにくい。法整備がその一歩を進めることを期待したい。
今回の改革では、安価な後発医薬品にどれだけ置き換えたかの割合や特定健診の実施率などに応じて、保険者の後期高齢者支援金を加減算する仕組みを入れる。
国民健康保険には「保険者努力支援制度」を創設し、積極的に事業を行う自治体に対する財政支援を行う。
個人についても、ウオーキングの歩数や体重の管理などに自主的に取り組めば「ヘルスケアポイント」を付与する。たまったポイントをスポーツクラブの利用券に交換したり、保険料支援に充てたりするアイデアが浮かんでいる。
すでに一部の自治体や健保では、1年間保険診療を行わなかった世帯に奨励金を出す一方、健康診断を受診しなかった人はボーナスを減額するなどして、受診率向上を図ろうとしている。こうした取り組みを後押しする狙いだ。
このまま医療費の伸びを許せば、いずれ保険適用範囲の大幅見直しなど、厳しい削減策の受け入れが避けられなくなる。
何よりも、健康でいられるのは国民一人一人にとって幸せなことだ。改革を契機に運動や節制、休息の重要性を再認識したい。
医療に対する意識改革も大きな課題である。高齢化に伴って激増する患者に、医療機関の整備は追いついていない。深刻度や切迫度の高い患者のための医療をどう確保するか、知恵を絞らなければならない。もちろん、そのために患者全体に受診しづらい雰囲気が広がってしまうのも困る。
救急車をタクシー代わりに呼ぶ例はなくならない。医療現場からは「軽い症状の人が押し寄せ、救急患者への対応が遅れる」との懸念も聞かれる。自治体などが行っている医師や看護師による電話相談も有効に活用すべきだ。
健康作りも医療に対する意識改革も、必要なのはバランスのとれた冷静な行動だ。無理なく取り組めるところから始めたい。
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