「背広組」と呼ばれる防衛官僚と「制服組」の自衛官が、「車の両輪」として防衛相を支えることが肝要である。
防衛省が省改革の一環として、官僚と自衛官が対等であることを明確にした防衛省設置法改正案を近く国会に提出する。
改正案は、官房長や局長が政策的見地、統合幕僚長と陸海空3幕僚長が軍事的見地から、それぞれ防衛相を補佐すると規定した。
現行法12条は、防衛相が各幕僚長に指示する際、官房長らが補佐すると定めている。これを根拠に、予算や装備調達、部隊運用などで官僚が主導権を握ってきた、との不満が長年、制服組にあった。
だが、自衛隊が国内外で活動する機会が増える中、制服組の発言権は徐々に拡大し、背広組が優位にあるとの実態は薄れている。
今回の改正については、「文民統制(シビリアンコントロール)が弱まり、制服組に対する抑制が利きにくくなる」といった批判があるが、的外れである。
文民統制とは、民主主義国家で軍事に対する政治の優先を確保し、文民が軍人への最終的な指揮権を有することをいう。軍部の暴走を許した戦前の反省を踏まえた考え方である。背広組による制服組の支配ではない。
憲法66条は、首相や閣僚は「文民でなければならない」と明記している。これに基づき、文民の首相や防衛相が自衛隊を指揮・監督する。国会も、法律制定や予算決定、出動時の承認などで自衛隊に対するチェック機能を果たす。
こうした二重三重の文民統制は改正後も全く変わらない。
改正案では、背広組の所掌事務に「総合調整」を加えた。部隊運用などの判断に背広組が引き続き関与することを担保したものだ。制服組の判断だけで部隊が運用されることはあり得ない。
気がかりなのは、内部部局の運用企画局を廃止し、統合幕僚監部に部隊運用を一元化する組織改編がうまく機能するかどうかだ。
局長を通さず、制服組の情報を防衛相に直接報告する体制を強化することは、迅速性や効率性が増す面はあるだろう。
だが、自衛隊の海外派遣や日本周辺の警戒監視活動などには、軍事的な合理性だけでなく、他省との調整や、政府としての総合的な政策判断が欠かせない。背広組の情報や知見は重要である。
背広組と制服組が、コップの中の権限争いをせず、それぞれの持ち味を生かして、緊密に協力する文化を確立することが大切だ。
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