プリウス不具合 技術への過信がなかったか

朝日新聞 2010年02月06日

プリウス問題 遅すぎる全車修理の判断

トヨタ自動車の安全と品質に対する信頼が、ますます揺らぐ事態となった。欧米市場向け主力車種のアクセルペダル改修に続き、こんどは次世代エコカーの看板車種「新型プリウス」のブレーキが原因だ。

昨年5月から売り出したハイブリッド車で、国内では車種別販売のトップを走る。世界市場向け輸出も好調だっただけに、まさにトヨタのシンボルの手痛い失速である。

問題はブレーキのシステムだ。「低速で走行中にペダルを踏んでもブレーキが利かない」というユーザーの苦情が日米の運輸当局や販売店に寄せられている事実が判明した。中にはけが人が出た事故も起きている。

実はトヨタは昨秋に問題をつかんでいた。滑りやすい路面でのスリップを防ぐアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)に原因があると特定。システムを制御するコンピューターソフトを内々に手直しし、今年1月の生産分から改修していた。

ところが、それまでに生産した約30万台の新型プリウスは、苦情があれば改修すると決めていただけだった。

苦情が予想外の規模で噴出し、世論の批判も強まったため、日本と米国で新型プリウスを全車無償で修理する方針に転じた。

まったく遅すぎる対応だ。本来ならソフトの手直しをする前に、すでに売ったすべての新型プリウスの改修を徹底するのが筋ではないか。

アクセルペダル問題に続くトヨタの鈍感すぎる対応ぶりの背景には、顧客の身になって考えるという感度の衰えがあるようにすら見える。

トヨタは、プリウスのブレーキも「コンマ何秒かの利きの遅れであり、ドライバーの感覚の問題」と認識しているらしいが、コンマ何秒がいかに長く感じられるか、ハンドルを握ったことがある人なら誰でも知っている。噴出する苦情の多さが、顧客の不安を何より雄弁に物語っている。

そもそも、ドライバーの感覚を含めた人間の機能を代替して、安全と性能を高めることがコンピューター制御の核心ではないか。

最初から完璧(かんぺき)な新型車を開発することは不可能であり、顧客の苦情をもとに改良して完成度を上げるのはごく普通の取り組みだ。だが、ブレーキのような人命にかかわる問題で苦情があれば、迅速な対応は不可欠だ。

自動車に限らず、部品は複雑化し調達はグローバル化する一方で、品質管理が難しい時代だ。だからこそ、消費者は安全を最も重視する「ものづくり」を企業に求めている。その期待に応えなくては生き残れない。

一連の蹉跌(さてつ)を安全な車づくりの糧とする謙虚さをトヨタがどこまで示せるか、世界中が見ている。

毎日新聞 2010年02月07日

プリウス問題 安心と信頼の回復を

アクセルペダルの大規模リコール(回収・無償修理)を欧米で始めたトヨタ自動車に、新たな問題が浮上した。ハイブリッド車の新型「プリウス」でブレーキ操作への苦情が国内外で相次ぎ、品質に対する疑いの広がりと深さは「危機的な状況」(豊田章男社長)になっている。

トヨタによると、ブレーキの瞬間的な作動・解除を電子制御しているシステムが「運転手にブレーキが利かなくなったと違和感を持たせる」ような設定だったという。あくまでも感覚の問題で、設定を変えれば違和感も消え、「構造的、設計上の欠陥はない」と主張している。

メーカーにすれば、「欠陥」と呼ぶほどの重大性はないのかもしれない。しかし、安全のカギを握るブレーキに違和感のある車は不安で仕方ない。凍結路面などで起きやすいのなら、なおさらである。だからこそ、トヨタも昨秋に苦情を受け、先月以降は製造段階での設定変更に乗り出したのだろう。

こうした措置を「品質改善活動の一環」として公表しなかったのも釈然としない。

新型プリウスは、イメージの面でも販売面でもトヨタの顔だ。欧米では先進的な車として、環境意識の高い層らに人気が高い。国内新車販売では、先月まで8カ月連続で首位を走り、現在も納車まで5カ月待ちという。世界的な人気と注目度が高い車だけに、問題を大きくせずに済ませたい思いがなかっただろうか。リコールを含めた透明性の高い対応策を早急に実施してほしい。

米国の報道などには、感情的な反応がにじむとの指摘もある。失業率が高止まりする米国は内向きになり、秋の中間選挙を控えて自国の雇用とメーカーの保護に傾くのは自然な成り行きだろう。ましてトヨタは昨年のゼネラル・モーターズ(GM)破綻(はたん)で、世界一の自動車メーカーになった。自動車産業の国で、その業界の頂点に立つ企業の言動は厳しい目にさらされる。

トヨタの品質担当役員は「お客様の期待値に対して判断が甘かった」と語った。トヨタが生み出す製品と、トヨタというグローバル企業の言動への期待や影響力は、当事者が考えている以上に大きいと言える。

プリウスは革新的な技術の結晶だが、先進技術も安心して使ってもらってこそ意味を持つ。メード・イン・ジャパンが「安かろう悪かろう」の代名詞だった時代、日本の技術者と企業は小さな実績を積み重ね、評判を覆していった。そして、日本製品の生命線である高品質と安心感のブランドが築かれた。トヨタは信頼回復の取り組みを通じて、そのことを再確認してほしい。

読売新聞 2010年02月06日

プリウス不具合 技術への過信がなかったか

米国から全世界に広がったトヨタ車の品質への不安が、ついに国内にも波及した。

トヨタ自動車が昨年5月に発売したハイブリッド車の新型「プリウス」に、ブレーキの不具合があることが発覚した。

プリウスは、トヨタが環境技術の粋を集めて開発し、国内販売台数トップの看板車種である。トヨタにとっては大きな痛手だ。

豊田章男社長が緊急記者会見で陳謝するとともに、品質管理体制を総点検する考えを強調したのも、危機感の表れと言えよう。

トヨタ車は別の車種でもアクセルペダルが戻りにくくなる不具合が見つかり、北米などで445万台にのぼるリコール(回収・無償修理)に踏み切る。プリウスについても早急な対策が必要だ。

今回の不具合は、凍結した路面などを走行中にブレーキが利かなくなるというものだ。トヨタは、クルマの横滑りやスリップを防ぐ「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)」の制御に問題があったと説明する。

プリウスには通常のクルマと同じ油圧ブレーキと、減速時に発電もする回生ブレーキを搭載している。走行状況によっては二つのブレーキとABSの働きがうまくかみ合わず、瞬間的にブレーキが利かない感じがするという。

「その時間は1秒未満で、再度ブレーキを踏めば車は止まる。欠陥ではない」というのがトヨタの言い分だ。だが、事はクルマの基本性能にかかわる。ドライバーの「違和感」で片づけていい問題ではなかろう。

トヨタは先月の生産分からABSのプログラムを改良し、それ以前に販売した車についても、無償で修理する方向だ。妥当な措置だが、昨秋にこの問題を把握していたにしては、対応が遅すぎる。

ハイテク装備を過信し、利用者の声を軽視していた面は否めまい。苦情処理の在り方について、見直すことが大事だ。

プリウスに限らず、今のクルマには省燃費や安全のための電子制御装置が数多く搭載されている。複雑な電子制御の連係に問題はないか。他の車種でも徹底的な調査を急がねばならない。

同様の苦情は米国でも120件以上寄せられ、米運輸省も本格的な調査に乗り出した。米国ではトヨタへの批判が強まる一方だ。

対応を誤れば、日本のモノづくりへの信頼も損なわれかねない。批判に謙虚に耳を傾け、安全と品質に万全を期してほしい。

産経新聞 2010年02月09日

リコール問題 今こそトヨタの底力を 実用主義が信頼回復の原点

日本の製造業を代表するトヨタ自動車だからこそ、世界最高水準の技術と安全性が求められていることを強く認識してほしい。

アクセルペダルの不具合で北米市場などでリコールの実施を決めたのに続き、エコカーの代表車種「新型プリウス」についても日米でリコール(回収・無償修理)に踏み切ることになるが、見直すべきところは少なくない。

リコール届け出の遅れや説明の不十分さなど危機管理の甘さが露呈したことが問題点を象徴する。それだけにトヨタは万全の安全対策を示さなければならない。

◆出遅れた危機管理

日本経済の先行き不透明感が根強い中で、景気回復に向けて産業界への影響力が大きいトヨタに対する期待は高い。しかも世界の自動車産業をリードするトップクラスの国際優良企業だ。今こそ「世界のトヨタ」としての底力をみせてほしい。

今回の不具合は、スリップや横滑りを防ぐ「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)」の電子制御に問題があった。新型プリウスは2つのブレーキを搭載しているが、走行状況によってブレーキとABSがうまく連動せず、「ブレーキが一瞬利かない感じがする」との報告が消費者から寄せられていた。

同社では今年1月の生産分からABSのプログラムを改修しており、それまでに生産した車種についてもリコールで改修を急ぐ方針だ。トヨタは当初、この不具合について「運転手の感覚の問題だ」と構造的な欠陥ではないとの立場から、法律にもとづくリコールではなく、自主的な改修などで対応する考えを示してきた。

だが、欠陥と呼ぶほどの不具合ではないとしているが、安全走行を左右する最も重要なブレーキをめぐる問題だ。トヨタは消費者の不安を解消するためにも、もっと早くリコールを届け出るべきだった。消費者とのこうした認識の違いが、今回の問題をより大きくしたことは否めない。

ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせて走行して高い燃費性能を持つハイブリッド車の新型プリウスは、走行時の二酸化炭素(CO2)排出量が少なく、世界のエコカー市場で最前線を走っている。内外で高い人気を獲得し、日本では「エコカー減税」の対象車として昨年の車種別販売でトップだった。

そうした人気車種の不具合だけに、今後の改修などで時間がかかれば、同社への信頼がさらに揺らぐ事態にもなりかねない。新型プリウス以外の同型車種についても早急に安全点検を実施し、その状況について説明を尽くさねばならない。

トヨタ車をめぐっては昨年夏以降、米国を中心に安全問題が相次いで表面化した。フロアマットにペダルが引っかかって戻らなくなる問題で米国とカナダで自主的な改修を実施したほか、米国製のアクセルペダルの不具合では北米や欧州、中国などで大規模なリコールを決めた。

◆日米摩擦にするな

豊田章男社長が今回の事態について「危機的な状況だ」とした今月5日の会見も、欧米のマスコミは高い関心を示し、英BBCが生中継したほか、主要各紙も大きく取り上げた。だが、不具合問題が表面化してから社長の会見まで時間がかかったことを含め、厳しい論調が続いている。危機管理の観点からも社長自身による丁寧な説明は欠かせない。

米議会は、近く公聴会を開催してトヨタ幹部に説明を求める。今年秋の中間選挙を控え、米では保護主義が台頭する恐れも指摘されている。法的整理に追い込まれたGMとクライスラーが販売攻勢をかける中で、トヨタへの風当たりが強まることも懸念される。

普天間飛行場の移設問題などで日米同盟関係が揺らぐ中、経済で新たなきしみを生じさせないため、経済産業省などの関係省庁はトヨタへの指導を徹底する一方、米政府と緊密に連携して問題解決を支援する必要がある。

トヨタグループの世界生産台数はピーク時の2007年には1000万台近くに達し、10年で倍近い伸びを示している。徹底した品質管理で知られる同社だが、この急激な伸びの中でこれまで伝統としてきた「顧客の満足を最優先させる」という「実用主義」を見失ってはいなかったか。

日本のものづくりをリードしてきたトヨタは原点に戻り、信頼回復に全力を挙げるべきだ。

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