日本の製造業を代表するトヨタ自動車だからこそ、世界最高水準の技術と安全性が求められていることを強く認識してほしい。
アクセルペダルの不具合で北米市場などでリコールの実施を決めたのに続き、エコカーの代表車種「新型プリウス」についても日米でリコール(回収・無償修理)に踏み切ることになるが、見直すべきところは少なくない。
リコール届け出の遅れや説明の不十分さなど危機管理の甘さが露呈したことが問題点を象徴する。それだけにトヨタは万全の安全対策を示さなければならない。
◆出遅れた危機管理
日本経済の先行き不透明感が根強い中で、景気回復に向けて産業界への影響力が大きいトヨタに対する期待は高い。しかも世界の自動車産業をリードするトップクラスの国際優良企業だ。今こそ「世界のトヨタ」としての底力をみせてほしい。
今回の不具合は、スリップや横滑りを防ぐ「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)」の電子制御に問題があった。新型プリウスは2つのブレーキを搭載しているが、走行状況によってブレーキとABSがうまく連動せず、「ブレーキが一瞬利かない感じがする」との報告が消費者から寄せられていた。
同社では今年1月の生産分からABSのプログラムを改修しており、それまでに生産した車種についてもリコールで改修を急ぐ方針だ。トヨタは当初、この不具合について「運転手の感覚の問題だ」と構造的な欠陥ではないとの立場から、法律にもとづくリコールではなく、自主的な改修などで対応する考えを示してきた。
だが、欠陥と呼ぶほどの不具合ではないとしているが、安全走行を左右する最も重要なブレーキをめぐる問題だ。トヨタは消費者の不安を解消するためにも、もっと早くリコールを届け出るべきだった。消費者とのこうした認識の違いが、今回の問題をより大きくしたことは否めない。
ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせて走行して高い燃費性能を持つハイブリッド車の新型プリウスは、走行時の二酸化炭素(CO2)排出量が少なく、世界のエコカー市場で最前線を走っている。内外で高い人気を獲得し、日本では「エコカー減税」の対象車として昨年の車種別販売でトップだった。
そうした人気車種の不具合だけに、今後の改修などで時間がかかれば、同社への信頼がさらに揺らぐ事態にもなりかねない。新型プリウス以外の同型車種についても早急に安全点検を実施し、その状況について説明を尽くさねばならない。
トヨタ車をめぐっては昨年夏以降、米国を中心に安全問題が相次いで表面化した。フロアマットにペダルが引っかかって戻らなくなる問題で米国とカナダで自主的な改修を実施したほか、米国製のアクセルペダルの不具合では北米や欧州、中国などで大規模なリコールを決めた。
◆日米摩擦にするな
豊田章男社長が今回の事態について「危機的な状況だ」とした今月5日の会見も、欧米のマスコミは高い関心を示し、英BBCが生中継したほか、主要各紙も大きく取り上げた。だが、不具合問題が表面化してから社長の会見まで時間がかかったことを含め、厳しい論調が続いている。危機管理の観点からも社長自身による丁寧な説明は欠かせない。
米議会は、近く公聴会を開催してトヨタ幹部に説明を求める。今年秋の中間選挙を控え、米では保護主義が台頭する恐れも指摘されている。法的整理に追い込まれたGMとクライスラーが販売攻勢をかける中で、トヨタへの風当たりが強まることも懸念される。
普天間飛行場の移設問題などで日米同盟関係が揺らぐ中、経済で新たなきしみを生じさせないため、経済産業省などの関係省庁はトヨタへの指導を徹底する一方、米政府と緊密に連携して問題解決を支援する必要がある。
トヨタグループの世界生産台数はピーク時の2007年には1000万台近くに達し、10年で倍近い伸びを示している。徹底した品質管理で知られる同社だが、この急激な伸びの中でこれまで伝統としてきた「顧客の満足を最優先させる」という「実用主義」を見失ってはいなかったか。
日本のものづくりをリードしてきたトヨタは原点に戻り、信頼回復に全力を挙げるべきだ。
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