自衛隊「恒久法」 国連決議なしの活動も可能に

朝日新聞 2015年03月01日

与党安保協議 なんでもありですか

安全保障法制をめぐる与党協議のテーマが拡散している。

主だった論点でも、集団的自衛権と存立事態▼周辺事態法の抜本改正▼他国軍への後方支援をめぐる恒久法の是非▼武力攻撃に至らないグレーゾーン事態▼武器使用基準の見直し▼国連決議の有無や国会の関与▼邦人救出のための自衛隊派遣――など多岐にわたる。

ずいぶんと風呂敷を広げたものだ。議論の焦点が定まらないまま、政府・自民党は次々に、自衛隊の活動の歯止めを弱める提案を繰り出している。

日本の安全保障のあり方と、自衛隊員の命にかかわる重要な議論である。与党協議は3月末までの結論を目指しているが、自衛隊のしばりを解こうとする自民党と、歯止めをかけたい公明党には溝がある。

合意を急いでも、つじつま合わせになりかねない。拙速は避けなければならない。

たとえば周辺事態法。公明党はこの法律を残して、地理的な歯止めをかけようとした。そのほかの事態にあたっては、かつてのテロ特措法やイラク特措法のように、その都度、時限立法で対処する考え方だ。

これに対し、事態が発生する前にあらかじめ自衛隊の活動を定めておくのが恒久法である。政府は周辺事態法から「周辺」という概念をなくし、地理的な制約をはずそうとしているが、そうなると恒久法との違いが不鮮明になってくる。

そもそも、恒久法はどんな事態を想定してつくるのか。過去にも、いくたびか必要論が浮かんだが、議論が深まるにつれて慎重論が強まり、法制化を見送ってきた経緯がある。

積極派はすばやく自衛隊を派遣できる利点を強調する。しかしハードルが下がれば、時の政府の判断次第でどこへでも派遣されかねない。人員や装備、予算が拡大し、本土防衛への影響が出ることを危ぶむ声もある。

後方支援の中身も、これまでに比べ、格段に危険になっている。「非戦闘地域」に限っていたのを、昨年7月の閣議決定で「現に戦闘の行われていない地域」に広げたためだ。そのとき戦闘がなければ派遣が可能となるが、状況が変われば、現場の部隊の判断で活動の休止・中断を決めなければならない。

戦後70年、平和憲法のもとで国際紛争と一定の距離を保ってきた安全保障政策には意味がある。一気に安全弁を取り払い、紛争への関与を深めることが正しい道なのか。与野党、そして幅広い国民の合意なしに進められることではない。

読売新聞 2015年02月28日

自衛隊「恒久法」 国連決議なしの活動も可能に

様々な事態が発生した際に、自衛隊を機動的に派遣し、世界の平和と安定に協力できる法制にすることが肝要だ。

新たな安全保障法制に関する与党協議が本格化してきた。自衛隊の国際協力活動は、現行の周辺事態法と国連平和維持活動(PKO)協力法の改正と、新たな恒久法の3本柱の法制とする方向で調整している。

無論、自衛隊が戦闘行動に参加することはない。他国部隊に対する補給・輸送などの後方支援を柔軟かつ効果的に実施できるようにしておくことが欠かせない。

その観点から、周辺事態法を改正し、地理的な制約を外すとともに、米軍以外の他国軍への後方支援を可能にすることが重要だ。

肝心なのは、危機が発生した場所がどこかでなく、日本の平和と安全にどんな影響を与えるかだ。朝鮮半島有事に限らず、日本から離れた地域の事態が重大な影響を及ぼすことは十分あり得る。

米軍以外の部隊と自衛隊が連携する機会も少なくなかろう。

恒久法では、国連安全保障理事会の決議がない場合も含めるかどうかが焦点となっている。

自衛隊が役割を果たせる活動はPKOやインド洋での給油、イラク復興支援のように国連決議に基づくものに限定されまい。

2000年以降だけでも、スリランカやフィリピン・ミンダナオ島の停戦監視、ソロモン諸島の治安維持など、決議がない活動に多国籍部隊が従事した例は多い。

そもそも安保理は、一部の国が拒否権を発動すれば、決議の採択はできない。決議のない「有志連合」の活動にも自衛隊が参加する余地を恒久法に残すべきだ。

恒久法を制定すれば、平時から訓練や調査を重ね、装備を整えるなどの派遣準備が可能となる。

自衛隊はすべての活動に参加するわけではない。任務の重要・緊急性や、日本との関係、他国の動向などを総合的に勘案し、その都度、派遣の是非を判断する。

原則、国会の事前承認を得るなどの手続きを定めておくことが、文民統制上の歯止めとなろう。

自衛隊による海外で拘束された邦人の救出や、周辺事態以外での船舶検査を可能にすることも検討されている。邦人救出は、受け入れ国の同意などの厳しい条件が付くし、特殊な訓練も必要だ。

実際に自衛隊を派遣する可能性が高くなくても、あらゆる事態に備えた法制を整備することが、切れ目のない対応と、迅速な国際協調行動を可能にしよう。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2107/