土地取引をめぐる政治資金収支報告書の虚偽記載事件で、東京地検特捜部は小沢一郎民主党幹事長を不起訴処分とした。虚偽記載にかかわった嫌疑が「不十分」との判断だ。
小沢氏の元秘書の石川知裕衆院議員ら3人は、政治資金規正法違反の罪で起訴された。
特捜部が昨年3月、西松建設の違法献金事件の強制捜査に着手して以来、総選挙をはさんで、約1年間に及んだ小沢氏の政治資金をめぐる捜査に大きな区切りがついたことになる。
小沢氏は幹事長続投を表明し、鳩山由紀夫首相も認める考えだ。
■国会で疑問に答えよ
しかし、一件落着というわけにはいかない。
捜査の焦点は、小沢氏が虚偽記載にかかわっていたかどうか、土地購入の原資にゼネコンからのヤミ献金が含まれていなかったかどうかだった。
石川議員は自らの虚偽記載は認めながらも、小沢氏の関与やヤミ献金の受け取りを否定した。小沢氏も2度にわたる特捜部の事情聴取に対し、虚偽記載は承知しておらず、不正な裏金は一切もらっていないと主張した。
捜査を尽くした結果、公判で有罪にできる確証が得られなければ、検察が不起訴と判断するのは当然だが、多くの疑問が残されたままである。
原資に不正な金が含まれていないというなら、なぜ資金の流れを隠す必要があったのか。土地購入と同時期に岩手県内のダム工事を下請け受注した中堅ゼネコン幹部が石川議員に5千万円を渡したと供述している疑惑も、完全には晴れていない。
今後、この捜査が国民の代表からなる検察審査会で検証されれば、今回の処分が見直される可能性もある。問題がなお、尾をひくことは間違いない。
今回、刑事責任こそ問われなかったとはいえ、小沢氏が負うべき責任は極めて重い。
まず果たすべきなのは、国民への事実の説明である。
土地購入の原資についての小沢氏の説明は二転三転した。巨額の資金を長期間、タンス預金していたことにも不自然さが残る。小沢氏周辺では、他にも収支報告書に記載のない巨額の資金移動の疑いが持たれている。
不起訴が決まった以上、「捜査中」を理由に野党が求める参考人招致を拒むのはつじつまが合わない。国会の場で堂々と疑問に答えてもらいたい。
より重大なのは、政治的、道義的な責任である。
現職衆院議員を含む元秘書ら3人が逮捕、起訴された事件が、日本社会に与えた衝撃は大きく、深い。
■政権交代への幻滅も
昨年、歴史的な政権交代を実現させた民意は、政治そのものが新しく生まれ変わることへの期待に満ちていたはずである。それなのに、政界はまたしても自民党政権時代と変わらない「政治とカネ」の問題一色。野党は今後も、小沢氏の資金問題と、谷垣禎一自民党総裁のいう「小沢独裁」政権的な体質を厳しく追及する構えだ。
新年度予算案の審議や米軍普天間飛行場の移設先の決定など、鳩山政権はこれから胸突き八丁を迎える。今の「政策以前」の状況から一刻も早く脱し、再出発しなければならない。
小沢氏は長く、「政治改革」実現をめざす動きの先頭に立ってきた。政権交代可能な2大政党を育て、緊張感のある政策論争を通じて日本の政治をよりよくする。そのことと今のありさまとの落差をどう考えているのか。
このままでは、政権交代そのものへの幻滅さえ招きかねない。政治改革の進展も、それを通じた民主主義の前進も台無しになりかねない。
小沢氏がこれらの責任を果たすことができないのであれば、潔く幹事長を辞任するべきである。
政治の局面を転換し、建設的な政策論争の場を国会に取り戻すためには、それしかない。不起訴だからというだけでは、とても続投の理由にはならない。
起訴された石川議員も、自ら議員辞職を決断すべきだろう。
民主党自身の自浄能力も問われる。この間、小沢氏に国会での説明を求めたり、政治責任を問うたりする声はほとんど聞かれなかった。
選挙対策や国会対策、党運営における小沢氏の手腕は大きいが、いつまでも小沢氏頼みであっていいわけがない。事件を小沢氏依存から卒業する契機にするくらいのしたたかさが議員たちに欲しい。
■検察も時代に対応を
検察にも注文がある。
国会開会直前の石川議員の逮捕は異例の捜査手法だった。西松建設事件でも、総選挙を控えた時期の捜査着手に「国策捜査」との批判があった。
疑いがあれば捜査を尽くすのは当然だし、公判維持を考えれば、詳細を明らかにできない事情も理解できる。
ただ、政権交代時代を迎え、世論が政界捜査に公平性や透明性を求めるようになっていることも軽んじてはいけない。法務・検察当局にも、節目節目で可能な範囲で国民に説明を試みる努力が必要なのではないか。
政権交代で幕を開けた新時代の土台には、まだ古さも残る。日本の政治をさらに前に進めるために、今回の事件から学ぶべき教訓は数多い。
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