デンマーク銃撃 テロの闇ふさぐ努力を

朝日新聞 2015年02月17日

欧州のテロ 暴力の拡散を抑えよ

フランスをことし襲った惨劇にあまりに似た構図に見える。同じ欧州のデンマークで、銃撃事件がおきた。

イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を描いた画家を招いた集会が襲われた。そのスウェーデン人画家は、過激派から殺害予告を受けていたという。

画家は助かったが、参加者の一人が死亡した。翌日未明には約3キロ離れたユダヤ教礼拝所が襲撃され、1人が死亡した。

パリでは先月、ムハンマドの風刺画を掲載した新聞社や、ユダヤ人が集まるスーパーなどが襲われ、17人が犠牲になったばかりだ。

デンマークの集会は「芸術と神への冒(ぼうとく)、表現の自由」をテーマに話し合おうとしていた。どんな背景であれ、許し難い暴力だ。言論活動が標的なら、改めて言語道断というほかない。

今回の過激派の行動からは、パリの事件が市民に与えた恐怖感を他の国にも広げようとする意図が感じられる。ユダヤ教の施設が狙われたことも看過できない。欧州で宗教間の分断を狙っている可能性もある。

しかし、欧州社会はそんな挑発に乗ることなく、できるだけ平静さを保ってほしい。

各国で警察などによる警戒を強めるのは当然だが、同時に自由の制限などで社会を息苦しくさせては過激派の思うつぼだ。冷静に、着実に、暴力の拡散を抑える手立てを探りたい。

なにより、ふつうのイスラム教徒をテロリストと同一視するような憎悪の連鎖は断ち切らなければならない。異なる民族や宗教、文化が平和的に共存する民主社会のありようこそ、テロから守るべきものである。

このスウェーデン人画家は07年、ムハンマドを犬にたとえる風刺画を描いていた。イスラム教徒の反発は理解できる。過度に挑発的だったと見られても仕方あるまい。

デンマークでは、他の欧州諸国と同様に、イスラム世界からの人々を含む移民への反発が高まっている。05年にも保守系の新聞がムハンマドの風刺画を掲載し、イスラム各国の社会が反発するきっかけをつくった。

しかし、どんな事情があろうとも人の命を奪うことは正当化できない。不満があれば、言論なり裁判なり、暴力を使わない手段で応じるべきだ。

その原則を確認しつつ、考え続けたい。テロを抑えながら、誰もが住みやすい国際社会を築くには何が必要なのか、と。

デンマークとイスラム教徒を含む世界の人びととの連帯をいっそう深めるときである。

毎日新聞 2015年02月17日

デンマーク銃撃 テロの闇ふさぐ努力を

欧州で再び連続テロ事件が起きた。デンマークの首都コペンハーゲンで、風刺画家らによる「表現の自由」をめぐる集会が開かれていたカフェと、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)が相次いで銃撃され、合わせて2人が死亡、5人が負傷した。両事件の容疑者とされたデンマーク生まれの22歳の男はその後、地元警察に射殺された。

読売新聞 2015年02月18日

デンマーク銃撃 対テロに必要な「共生」の努力

またも凶悪なテロが発生した。イスラム過激思想が社会の一部に浸透する欧州の苦悩は深い。

コペンハーゲンで、表現の自由に関する討論会を開催中のカフェと、ユダヤ教礼拝所が、相次いで銃撃され、7人が死傷した。容疑者の22歳の男は警官に射殺された。

男は、パレスチナ系移民の2世とされ、デンマークで生まれ育った。イスラム過激思想に感化されていた可能性が高い。

討論会は、イスラム教預言者ムハンマドの風刺画を描いたスウェーデン人画家が主催した。イスラム教を揶揄やゆする風刺画家がいる場所が標的とされた点は、1月のパリ新聞社銃撃事件と共通する。

いかなる事情があれ、こうした暴力は許すことができない。

欧州連合(EU)はパリの事件後、国境警備の厳格化や旅行者情報の共有で合意したばかりだ。厳戒下でのテロの衝撃は大きい。

いくらテロリストの流入防止策を強化しても、自国内に潜在的な危険人物を抱えていては、暴力の封じ込めは極めて難しい。

相次ぐテロで浮かび上がったのは、イスラム系移民の2世、3世の問題だ。貧困や差別、就職難などが重なり、社会に対する疎外感や不満を募らせる者が多い。その一部が過激思想に走る。

こうした構図の改善には、欧州各国が、イスラム系住民の社会的統合を進め、テロの土壌を極小化するという困難な中長期的対策に取り組むことが求められる。

デンマークは、中東から帰還したイスラム系住民の就業や社会復帰を支援している。

フランスでは、大都市郊外に移民が密集して住む地域があり、犯罪の温床となっている。職業訓練や住環境の整備が急務である。

ドイツは、法律を改正し、移民の子供による独国籍取得を容易にした。保育園で独語を学べるように公費で支援している。

より安全な社会にするには、民族や宗教の壁を乗り越え、教育、労働、福祉など幅広い分野の施策を粘り強く続ける必要がある。

気がかりなのは近年、欧州各国で、「反移民」を掲げる民族主義的な極右・右派政党の勢力が伸長していることだ。移民対策への公費投入への逆風となっている。

他文化圏から移民や難民を受け入れ、共生を図る「寛容さ」は、戦後欧州の重要な理念だった。テロの頻発により、穏健なイスラム教徒に対する排斥の動きや民族主義が高まる中、寛容な社会を維持できるかどうかが問われよう。

産経新聞 2015年02月17日

デンマークのテロ 日本国内の備えも怠るな

デンマークの首都コペンハーゲンで連続銃撃テロが発生した。襲われたのは「表現の自由」を討議する集会であり、ユダヤ教会堂だった。

暴力や恐怖によって相手を屈服させようとする卑劣なテロ行為は、どんな政治的、宗教的主張があれ、決して許すことができない。

国際社会は、世界に蔓延(まんえん)するテロリズムと戦い、これを根絶するため、連携、団結を強化しなくてはならない。日本にもその役割は求められている。同時に、国内の備えも怠ってはならない。

過激組織「イスラム国」はすでに、湯川遥菜さん、後藤健二さんを殺害したとされ、日本人殺害を継続すると表明している。危険はイスラム国の支配地域に限らず、世界各地に広がっている。国内ですら絶対安全とはいえない。

コペンハーゲンや、フランスで週刊紙本社などを銃撃した容疑者は、いずれもそれぞれの国に居住し、国籍を有していた。国外の過激思想に共鳴しての犯行とみられる。英国のロンドン同時爆弾テロや、米国のボストン・マラソン爆弾テロ事件も同様だった。

日本でも、昭和63年3月に都内2カ所で国際テロとみられる爆弾事件があり、平成3年7月には反イスラム的とされる著書を翻訳した筑波大の助教授が刺殺された。いずれの事件も、容疑者は判明していない。国際テロは決して無縁の存在ではない。

悲惨なテロを未然に防ぐために最も重要なのは情報である。有用な情報を収集するためには、通信傍受など捜査手法のあり方についても検討されるべきだろう。

今年に入ってから米、仏、豪、ベルギーで、事前の情報によるテロ未遂犯の逮捕があった。これらの情報は共有されてこそ有効となる。共有の輪に日本も加わるため強固な対外情報機関の創設を急ぐべきだ。秘密の保持を担保する秘密保護法制の整備や、国際組織犯罪防止条約に基づく共謀罪の必要性も同じ文脈にある。

2020年には東京五輪が開催される。楽しみな大会だが、テロの標的となることも十分にあり得る。万全の警備態勢で臨むことはもちろん、事前の情報戦にも敗れるわけにはいかない。

テロとの戦いに勝つためには、国際社会との連携以外に道はない。そのための法整備や態勢の構築は最優先課題である。

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