またも凶悪なテロが発生した。イスラム過激思想が社会の一部に浸透する欧州の苦悩は深い。
コペンハーゲンで、表現の自由に関する討論会を開催中のカフェと、ユダヤ教礼拝所が、相次いで銃撃され、7人が死傷した。容疑者の22歳の男は警官に射殺された。
男は、パレスチナ系移民の2世とされ、デンマークで生まれ育った。イスラム過激思想に感化されていた可能性が高い。
討論会は、イスラム教預言者ムハンマドの風刺画を描いたスウェーデン人画家が主催した。イスラム教を揶揄する風刺画家がいる場所が標的とされた点は、1月のパリ新聞社銃撃事件と共通する。
いかなる事情があれ、こうした暴力は許すことができない。
欧州連合(EU)はパリの事件後、国境警備の厳格化や旅行者情報の共有で合意したばかりだ。厳戒下でのテロの衝撃は大きい。
いくらテロリストの流入防止策を強化しても、自国内に潜在的な危険人物を抱えていては、暴力の封じ込めは極めて難しい。
相次ぐテロで浮かび上がったのは、イスラム系移民の2世、3世の問題だ。貧困や差別、就職難などが重なり、社会に対する疎外感や不満を募らせる者が多い。その一部が過激思想に走る。
こうした構図の改善には、欧州各国が、イスラム系住民の社会的統合を進め、テロの土壌を極小化するという困難な中長期的対策に取り組むことが求められる。
デンマークは、中東から帰還したイスラム系住民の就業や社会復帰を支援している。
フランスでは、大都市郊外に移民が密集して住む地域があり、犯罪の温床となっている。職業訓練や住環境の整備が急務である。
ドイツは、法律を改正し、移民の子供による独国籍取得を容易にした。保育園で独語を学べるように公費で支援している。
より安全な社会にするには、民族や宗教の壁を乗り越え、教育、労働、福祉など幅広い分野の施策を粘り強く続ける必要がある。
気がかりなのは近年、欧州各国で、「反移民」を掲げる民族主義的な極右・右派政党の勢力が伸長していることだ。移民対策への公費投入への逆風となっている。
他文化圏から移民や難民を受け入れ、共生を図る「寛容さ」は、戦後欧州の重要な理念だった。テロの頻発により、穏健なイスラム教徒に対する排斥の動きや民族主義が高まる中、寛容な社会を維持できるかどうかが問われよう。
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