過激派組織「イスラム国」の壊滅に向け、より強力な軍事作戦を展開する。米国の方針転換を前向きに評価したい。
オバマ米大統領が、イスラム国に対する限定的な地上作戦を含む武力行使の承認決議案を米議会に提示した。
イラク戦争のような長期の大規模な地上戦への米軍の参加は否定しつつ、特殊部隊によるイスラム国指導者への攻撃や空爆支援の強化などを想定する。決議案の有効期限は3年間に限定した。
オバマ氏は声明で、「有志連合は攻勢に出ており、イスラム国は敗北する」と強調した。
決議案は、今なおイラクとシリアで一定の地域を支配するイスラム国に対する攻撃力を高めるとともに、約60か国が参加する有志連合の結束を強めるのが目的だ。その方向性は妥当だろう。
米軍主導の有志連合による空爆は開始から半年を過ぎ、計2000回を超えた。イスラム国の指揮官の約半数と戦闘員6000人前後を殺害したとされ、ある程度の成果を上げている。
一方で、これまでにイスラム国に加わった外国人戦闘員が2万人を超え、その出身国が90以上に及ぶという厳しい現実もある。掃討作戦の前途は楽観を許さない。
決議案が採択されれば、イスラム国の指導部を直接の標的とする作戦への特殊部隊の投入が可能になる。組織の弱体化を加速できるなら、軍事的な意義は大きい。
地上の米軍要員が空爆目標の選定に関与することで、空爆の精度の大幅な向上が期待される。
イスラム国と地上戦を続けるイラク軍、クルド人部隊、シリア穏健勢力に対する情報や計画立案面の支援の強化も欠かせない。
米軍の特殊部隊は、米国や有志連合メンバー国の要員や民間人がイスラム国に拘束された場合に、救出作戦を行う役割も担う。
ヨルダン軍機がシリア上空で空爆作戦中に墜落し、パイロットがイスラム国に拘束、殺害された事件の後、有志連合各国は軍事要員の安全への懸念を強めた。決議案は、こうした不安の声に応える側面もあると言える。
イスラム国の人質殺害による各国の犠牲者が増える中、国際社会の連帯を維持するうえで、救出作戦は重要性を増している。
今春以降、イスラム国が支配するイラク第2の都市モスルの奪還作戦を、イラク軍やクルド人部隊が行う見通しだ。今後の戦況を左右するだけに、米軍がどこまで関与するかが問われよう。
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