施政方針演説 首相こそ合意の努力を

朝日新聞 2015年02月13日

施政方針演説 「戦後以来」の行き先は

安倍首相が国会で施政方針演説に臨んだ。昨年12月に第3次内閣を発足させてから初めての演説は、高揚感に満ちていた。

安倍氏は2年間で2度の衆院選を戦い、3分の2の与党勢力を続けて確保した。この間、株価を上げて景気回復への一歩を進め、集団的自衛権の行使容認で日米同盟の一層の強化への道筋をつけた。

長期政権への基盤を確保した首相は今回の演説で、「改革」を強調。経済再生、復興、社会保障改革、教育再生などを列挙し「戦後以来の大改革に踏みだそうではありませんか」と呼びかけた。敗戦後間もなくの改革に匹敵するものにしたいという意気込みなのだろう。

かつて「戦後レジームからの脱却」と繰り返していた首相が唱え始めた「戦後以来の大改革」。きのうの演説を聴く限りでは、その最終的な狙いについては不透明なままだ。

改革の各論の冒頭に掲げたのは農協改革だった。全国農協中央会や農協の支援を受ける議員の抵抗を押さえ込み、直前に改革案をまとめた。首相は演説で「変化こそ唯一の永遠である」との岡倉天心の言葉を引き、「新しい日本農業の姿を描いていく」と述べた。

戦後社会で形づくられてきた様々な制度を、時代や環境の変化に応じて改めていくのは当然の姿勢だ。そのために、指導者には決断力や突破力といったある種の「力」が求められるのも理解できる。

だとしても、改革には熟慮や合意形成への努力もまた欠かせない。きのうの演説で気になったのは、「国会に求められているのは、単なる批判の応酬ではなく行動だ」などと野党への牽制(けんせい)を繰り返したことだ。

それ自体は間違っていないにせよ、圧倒的な数を誇る首相が強調すれば、異論を封じてもやりたいことをやるという宣言と受け取られても仕方あるまい。

目先の改革への多弁さとは裏腹に、首相は集団的自衛権を含む安全保障法制や戦後70年を踏まえた「積極的平和主義」、そして憲法改正についてはあっさりと触れただけだった。公明党との調整が控えているからなのだろう。

首相が最後にめざすところをただし、問題点を明らかにするのは野党の役割だ。

昨年の衆院選をへて最大野党の民主党は執行部を一新、政権を批判する共産党も勢力を伸ばした。数の力に押されるばかりでなく、緊張感ある議論を通じて立法府としての存在感を発揮しなければならない。

毎日新聞 2015年02月13日

施政方針演説 首相こそ合意の努力を

安倍晋三首相が施政方針演説を行った。首相は農業などの諸改革を「戦後以来の大改革」と位置づけ、進める決意を示した。

読売新聞 2015年02月13日

施政方針演説 「大改革」の成果が問われる

「戦後以来の大改革」「地方のための改革を進めていく」――。

安倍首相の今年の施政方針演説には、「改革」が36回も登場した。

昨年末の衆院選圧勝でより強固になった政権基盤を生かし、多くの困難な政策課題に取り組む決意は伝わってくる。国民の期待に応えるには、具体的な成果を出すことが従来以上に求められる。

首相は、一連の改革の中で農政については、「農家の所得を増やす改革を進める。農協改革を断行する」と強調した。

農協改革は、全国農業協同組合中央会(JA全中)に関し、地域農協に対する監査権廃止や一般社団法人への移行で決着した。

全中の組織改編は、岩盤規制の打破の象徴ではあるが、農業再生の出発点に過ぎない。生産性の向上など、様々な農業政策を同時並行で進めることが大切である。

首相が「出口が見えてきた」とする環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の妥結に向け、農業の国際競争力の強化を急ぐべきだ。

経済政策について、首相は、2017年4月の10%への消費増税を改めて明言した。「経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成する」とも語った。

ただ、財政再建策への言及は少なかった。政府は具体的計画を今夏までに作成する。財政悪化の主因である社会保障費のどこに、どう切り込むのか。負担増や給付抑制など痛みを伴う改革の道筋を国民に正面から語る必要がある。

今国会の最大の焦点は、集団的自衛権の行使を限定容認した新政府見解を反映する安全保障法制の整備だ。首相は、「あらゆる事態に切れ目のない対応」を可能とする法整備を進めると述べた。

自衛隊の国際的役割を拡大し、迅速な海外派遣を可能にする恒久法の制定を目指したい。

首相は、今夏に発表予定の戦後70年の首相談話を念頭に、従来以上に世界の平和と安定に貢献する「強い意志」を発信する、と力説した。どんな未来志向の談話とすべきか、政府・与党や国会での議論にも耳を傾けてもらいたい。

演説では、2020年を日本人にとって「共通の目標」の年とし、東日本大震災からの復興や東京五輪の準備に全力を挙げる考えを示した。憲法改正の「国民的な議論」を深めるとも表明した。長期政権を視野に入れてのことだろう。

中長期目標を設定し、努力を続けることは重要だ。そのためにも、目の前の懸案を着実に処理することが欠かせない。

産経新聞 2015年02月13日

施政方針演説 改革断行の実を語る時だ 勇気もち「痛み」に理解求めよ

安倍晋三首相は施政方針演説で「戦後以来の大改革」断行を強調した。経済再生を目指す「アベノミクス」の推進や地方創生、社会保障改革、外交・安全保障の立て直しなどである。

日本が内外の危機を克服するため、諸課題への取り組みから「逃れることはできない」という首相の認識は妥当だ。改革断行への決意を評価したい。

大改革には「痛み」が伴い、その実現には国民の支持と理解が不可欠だ。改革の先に日本がどのような姿に生まれ変わるのか、具体的かつ丁寧に説明すべきだ。

≪テロとの戦いで貢献を≫

その点、演説が踏み込み不足だった点は否めない。今後の国会質疑を通じ議論を深めてほしい。

国会の本格論戦を前に発生した中東の過激組織「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件は、今のままでは国民を守る責務を果たしきれない、という根源的問題を日本に突き付けた。

首相はすでに、予算委答弁で「国民の生命と財産を守る任務を全うするためだ」として、憲法9条改正の必要性にも言及している。演説でも、自衛隊による邦人救出の態勢を整えることを、明確に訴えてほしかった。

国際テロの封じ込めは、日本人の安全確保に直結する。日本として具体的に取り得るぎりぎりの手段を考え、実行に移すべきだ。

食糧、医療など人道支援にも触れたが、自衛隊の活用を含む有志連合への後方支援は選択肢から外しているのだろうか。1990年の湾岸危機に際し、日本の支援は資金、物資面にとどまり、国際社会から批判を受けた。そのような状況に逆戻りしてはなるまい。

中国の軍事力増強を見ればわかるように、日本周辺の安保環境は厳しく、日米同盟の抑止力を高めなければならない。集団的自衛権の行使容認を柱とする安保関連法制を、今国会で整備しなければならない理由である。

首相は演説で、安保法制の具体的なあり方や意義について踏み込まなかった。与党の公明党が自衛隊の海外派遣の恒久法やペルシャ湾での機雷除去に難色を示していることへの配慮もあるだろう。

だが、首相が自ら日本に必要だと考える内容を、国民に率直に訴えることこそ重要だ。

憲法改正について、国民的な議論を深めることを呼びかけた。一国の指導者として、国の基本法をどう改めていきたいかを、さらに具体的に語ってほしい。

衆院選は消費税再増税の延期方針に伴って行われた。再増税に耐えられるよう、日本経済を持続的に発展させる重要性がより高まったともいえよう。

経済全体を底上げする成長戦略の具体化が急務であることは論をまたない。「改革断行」は、成長路線を加速する決意表明とも受け止めたい。

≪消費者への利点を説け≫

首相は農協改革について、強い農業を創り、農家の所得を増やすためだと訴えた。若い世代の積極的な就農につながれば、地域の成長産業として期待も高まろう。

それは同時に消費者の利益にもつながるはずだ。「出口が見えてきた」とする環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉も同様である。改革の断行、TPP妥結により、国民生活がどう改善するかを説明すべきだ。

アベノミクスの恩恵は家計や地方に行き渡っていない。演説は最近の格差論議を踏まえ、誰もが成功への機会を得られる社会を目指す考えを示した。

教育や労働改革を通じて貧困の固定化阻止を目指す方向性は理解できる。格差是正を大義名分にお金をばらまく行き過ぎた再分配政策に走れば、経済や社会の活力を失わせるからだ。

野党の格差批判に身構え、聞こえのいい話に終始してはならない。だが、演説からは社会保障改革も含め、勇気をもって痛みに理解を求める姿勢がうかがえなかった。衆院選で与党大勝を得たばかりである。今、語らずしていつ語るのか。

財政再建についても、基礎的財政収支の黒字化目標を堅持し、夏までに具体的な計画を策定する従来方針を改めて述べただけだ。

経済成長に伴う税収増に期待するだけでは、財政再建を果たすことはできない。歳出効率化を含む政権の基本的な姿勢を、国民に示すことが求められる。

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