政府開発援助(ODA)は日本外交の重要なカードだ。時代の要請に応じて、その内容を見直し、国益を確保したい。
政府が、ODA大綱に代わる「開発協力大綱」を閣議決定した。大綱改定は2003年8月以来だ。「国益の確保」を初めて明記し、安倍政権の「積極的平和主義」に基づき、ODAをより戦略的に活用するとしている。
新大綱は、ODAを軍事的用途や紛争助長に使わない原則を維持した。軍隊の非軍事活動への支援については「実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」とし、内容次第で認める方針を示した。
空港・港湾などインフラ施設の改修では、民生分野に限って支援する。軍事転用の可能性が高い事業には協力しない。
途上国で近年、災害救助・復旧や感染症対策などで軍隊が果たす役割が大きくなっている実態を踏まえたもので、妥当である。
セネガルの軍病院の産科棟の改修をODAで行うなど、過去にも複数の実例はある。
民間活動団体(NGO)関係者らには、「軍への協力には違和感がある」といった声がある。
だが、ODAで重視すべきは、支援の対象機関ではなく、その目的のはずだ。軍隊が重要な民生活動を担っている場合は、一律に排除するのは適切ではない。
軍人を日本留学に招くため、別の省に出向してもらうような形式主義は廃するべきだ。
途上国が本当に必要とする支援の実情を吟味し、前向きに対応することが相手国との信頼関係を築き、日本への評価につながる。
新大綱は、経済協力開発機構(OECD)の基準ではODAの対象外となる高所得国も支援する方針を打ち出した。
当面想定するのが、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーンなどの中東湾岸諸国だ。経済的には豊かだが、深刻な廃棄物処理問題を抱えている。新大綱ではODAを使った技術協力が可能になる。
エネルギー資源の安定的な確保の観点から、中東地域との関係を深める意義は大きい。
カリブ諸国への支援も拡大する。国連安全保障理事会の改革などでより多くの賛同国を得るために、ODAを有効活用したい。
12年の場合、日本から途上国にはODAの約4倍の民間資金が流れている。東南アジアでは、ODAによるインフラ整備以上に民間投資を望む声が強い。政府のODAと企業の資金を組み合わせ、相乗効果を高めることが大切だ。
この記事へのコメントはありません。