死刑は、命で罪を償わせる究極の刑罰である。その適用に慎重さと公平性を求めた最高裁の判断は、うなずける。
1審の裁判員裁判の死刑判決を破棄し、無期懲役とした2件の高裁判決を、最高裁が支持する決定を出した。
いずれも殺害された被害者が1人の事件だ。計画性がなく、従来の裁判官だけの裁判では、死刑を選択することは少なかった。
最高裁は「裁判員裁判であっても、過去の量刑判断を出発点として、評議を行うべきだ」と指摘した。長い期間をかけて蓄積されてきた裁判例を重視する姿勢が、鮮明になったと言えよう。
千葉地裁の死刑判決は、被告が千葉大生の女性を殺害する前後に、別の強盗強姦事件などを繰り返した点を重くみた。東京地裁は、妻子を殺害した前科のある被告が、強盗目的で男性を殺害したことを死刑判決の理由とした。
これに対し、最高裁は千葉の事件について、「被告の反社会的な性格を強調しすぎている」、東京の事件では「前科と犯行との関連が薄い」などと判断した。
最高裁は「死刑を科すには、具体的で説得力のある根拠を示す必要がある」とも言及した。2件の裁判員裁判の死刑判決には、それらが欠けていたということだ。
国民の視点や社会常識を判決に反映させることが、裁判員制度の趣旨だ。最高裁も過去の判決で、裁判員の判断を尊重すべきだとの見解を示している。
今回の決定で、裁判員が悩み抜いた末に出した結論を覆したことには疑問の声もある。
だが、裁判員制度を導入した結果として、死刑判断の在り方が従来と大きく変われば、司法の根幹である公平性が揺らぐ。
評議の際には、過去の量刑判断を踏まえ、裁判官と裁判員が慎重な検討を重ねることが大切だ。
無論、極刑を選択せざるを得ない事件はある。東京・秋葉原で2008年に7人が殺害され、10人が重軽傷を負った無差別殺傷事件は、その典型と言える。
裁判員制度の施行前に被告が起訴されたため、裁判官による裁判となった1審は死刑を言い渡した。高裁と最高裁も支持した。
今月2日の最高裁判決は、「周到な準備の下、強固な殺意に基づいた無差別殺人だ」と指弾し、死刑の適用について「是認せざるを得ない」と結論付けた。
凶悪犯罪を抑止するためにも、酌量の余地がないケースでは、毅然とした対処が必要である。
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