日本人人質事件 この非道さを忘れない

朝日新聞 2015年02月07日

邦人救出 地に足のついた議論を

過激派組織「イスラム国」による人質事件を機に、自衛隊による海外の邦人救出の是非が国会論議の焦点に浮上している。

政府が今国会で成立をめざす安全保障法制に関連し、安倍首相は救出を可能にする自衛隊法改正に意欲を示す。

ただ、それぞれの国家には「主権」があり、邦人がテロなどに巻き込まれた場合、その国家の警察や軍が対処する。それが大前提である。

そもそも政府がどんなケースを具体的に想定しているのか、はっきりしない。

海外で邦人の人質の居場所を特定し、自衛隊の特殊部隊が突入して奪還するというなら、およそ現実味に乏しい。

派遣された自衛隊員は反撃されて命を落とす恐れがある。現地の民間人を巻き込めば、国際問題に発展しかねない。

人質の居場所の特定は、高度な情報機関をもつ米国ですら至難のわざだ。昨年夏、「イスラム国」に拘束された米国人の救出作戦に米軍の地上部隊が投入されたが、人質を見つけられず失敗に終わった。

自衛隊法を改正しても、今回の人質事件のようなケースでの適用は困難だ。

自衛隊の邦人救出を盛り込んだ昨年7月の閣議決定では、領域国の同意があり、自衛隊が武器を使う相手が「国家または国家に準ずる組織」ではないこと、などを条件としている。

今回のケースで言えばシリアの同意を得るのは難しい。「イスラム国」が無法な集団だとしても、一定地域を制圧している以上、「国家に準ずる組織」にあたる可能性が高い。そうだとすれば、海外での武力行使にあたり、憲法違反となる。

政府が念頭におくのは、現地の警察や軍の能力が不十分で、その国家の同意が得られた時に限って自衛隊を派遣するというごく例外的なケースだろう。

安倍首相は国会で、邦人救出の難しさを認めた。一方で、「火事が起きた家に、消防士が入らなければ、救出されない人は命を落とす」とも述べ、あくまで法改正をめざす考えだ。しかし、自衛隊による海外での邦人救出と国内での消防活動を同列には論じられまい。

一連の議論のなかで、首相は憲法9条の改正にまで言及し、「国民の生命と財産を守る、その任務を全うするためだ」と語った。憲法の制約を解き、自衛隊の海外での武力行使に道を開けば、国民の生命を守ることになるのか。

疑問点はあまりに多い。短兵急な議論は危険だ。

毎日新聞 2015年02月04日

テロ対策 「喉元過ぎれば」でなく

脅しに対して過剰反応は禁物だが、用心はしなければならない。政府は3日、「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」(本部長・菅義偉官房長官)の会合を首相官邸で開き、海外在留日本人の安全確保やテロリストの入国を阻止するための水際対策の徹底などを確認した。

読売新聞 2015年02月05日

対「イスラム国」 国際社会は包括的戦略を探れ

残虐な犯罪行為を繰り返すイスラム過激派組織を封じ込めるため、国際社会は包括的な戦略を練り、実行すべきだ。

邦人人質2人を惨殺したとされる「イスラム国」が、ヨルダン空軍パイロットを殺害したとする映像を公開した。

パイロットをおりに入れ、火を放つという非道な手法で、米軍主導の空爆に参加したヨルダンに対する復讐ふくしゅうをアピールする。見る者に恐怖心を植え付けようとする冷酷な宣伝戦の一環だろう。

映像は、複数のヨルダン軍パイロットらの写真を公開し、空爆に参加しないよう求めるなど、ヨルダン側を揺さぶっている。

ヨルダン政府は報復として、爆破テロの実行犯として収監され、イスラム国が釈放を求めていた死刑囚の死刑執行に踏み切った。軍事的な追加措置も取るという。

既存の国際秩序の破壊を標榜ひょうぼうするイスラム国は、「ヨルダン王制の打倒」も唱える。憎悪の連鎖により、双方の緊張が高まろう。中東の不安定化が懸念される。

「テロとの戦い」の最前線に立つヨルダンを、国際社会が一致して支えねばならない。

オバマ米大統領とヨルダンのアブドラ国王は会談し、イスラム国の壊滅に向けて両国が連携を強化する方針を打ち出した。

キャメロン英首相やオランド仏大統領は、イスラム国を強く非難した。安倍首相も、ヨルダン国民との「連帯」を表明している。

イスラム国との戦いに参加する約60か国の有志連合は結束し、過激派組織の弱体化を図る具体的な行動を取る必要がある。

19日に米国で開かれるテロ対策閣僚級会合では、軍事行動の強化、テロ資金や戦闘員のイスラム国への流入阻止、ヨルダンなど穏健アラブ諸国への支援の拡充を確認すべきだろう。

オバマ氏は、「イスラム国とその憎むべきイデオロギーを歴史の彼方かなたに葬る」とも強調した。どう実行するか、注視したい。

米国防総省は来年度予算の「イスラム国」掃討作戦費として、前年度比約4%増の53億ドルを要求した。イスラム国の壊滅には、空爆に加えて、イラク軍やクルド人武装組織などに対する訓練や装備面の軍事支援が欠かせない。

米国の指導力が求められる。

イスラム国に多くの戦闘員が集まる背景には、貧困や格差、政治の腐敗といった中東の根深い問題が横たわる。各国の統治改革を後押しするなど、中長期的な戦略を進めることも重要だ。

産経新聞 2015年02月05日

パイロット殺害 残虐な集団の正体を見よ

過激組織「イスラム国」に捕まり、後藤健二さんとともに生死を死刑囚釈放要求の脅迫に使われたヨルダン軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉は殺されていた。

公開された映像では、中尉はおりに入れられて生きたまま火をつけられた。イスラム国が流した外国人殺害映像でも初めてのむごたらしい手口である。

このテロ組織の残虐非道性を強く非難するとともに、有志連合のイスラム国討伐作戦に命をささげた中尉に哀悼の意を表したい。

ヨルダン軍によれば、中尉殺害は1月3日だった。

後藤さんが組織に言わされたとみられる音声は、自分に残された時間は24時間だとして爆弾テロ事件の共犯者、リシャウィ死刑囚と自身の身柄交換を迫り、「パイロットに残された時間はもっと少ない」と思わせぶりに言及した。その映像の公開は27日である。

朝日新聞 2015年02月05日

対「イスラム国」 国際包囲網に本腰を

中東の人質事件をめぐり、日本と協力関係にあったヨルダン社会を悲報が襲った。

過激派組織「イスラム国」が、拘束していたヨルダン軍パイロットを殺害したとする映像がネット上に公開された。

親族や市民の悲嘆は察するにあまりある。各国首脳がこぞって非難するのは当然だ。心から哀悼と連帯の意思を表したい。

ヨルダンは米主導の「有志連合」に加わり、空爆作戦を展開している。「イスラム国」は、ほかのアラブ諸国を含め、参加国全体に対する威嚇と揺さぶりを狙ったのかもしれない。

しかし、こうした蛮行は国際社会の団結を強めるだけだ。人命をここまで残忍に扱う犯罪集団を許す余地はない。

米欧の主要国と日本は、改めて国連安全保障理事会などに呼びかけつつ、組織に対する包囲網の強化に動かねばならない。

活動資金や武器の供給ルートの遮断、指導層や活動メンバーのリストづくりなどへ向けて、周辺国と主要各国・国際組織が本腰を入れるべきだ。

今回の悲痛な出来事を機に、テロに向き合ううえで、根源的な問いを改めて考えたい。国際社会が人命とともに守るべき原則は何か、果てしない暴力を生む土壌は何か。

過激派組織が破壊しようとしているのは、世界が長い歴史を経て築いた人権と自由の価値であろう。それを許さないためにも、各国は民主世界が共有する法治のルールにのっとってテロ対策を進める必要がある。

先のイラク戦争と内戦がおびただしい人命を奪い、民心の荒廃が過激思想を強めたのも確かだ。暴力に暴力で立ち向かうだけでは憎しみの連鎖に陥る。

ヨルダンは、「イスラム国」が釈放を求めた死刑囚の刑を執行したと伝えられる。復讐(ふくしゅう)にも見えるタイミングだ。組織に対する世論の反発は理解できるが、政府は冷静さを失わないよう願いたい。

いまの中東を見渡せば、ヨルダンはとりわけ穏健で安定した数少ない国だ。これからの中東の安定回復や、イスラエル・パレスチナの和平構想などをめぐっても活躍が期待される。世界とアラブの橋渡し役として一目置かれる存在でいてほしい。

日本の悲しみと、ヨルダンの怒りはまた、現地で「イスラム国」に支配される人びとが日々受けている苦しみでもある。

悲惨な事件を機に、日本はヨルダンを含む中東の政府とともに、幅広い民衆とも、互いに助け合うきずなを深める意識を新たにしたい。

毎日新聞 2015年02月03日

日本人人質事件 疑問にこたえる検証を

イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)による日本人人質事件が痛ましい結末を迎えたのを受け、日本政府にとって今後、経緯を徹底検証することが重要な作業になる。

読売新聞 2015年02月04日

国際テロ対策 邦人保護を多角的に強化せよ

日本人を標的とする国際テロをいかに防ぐか。政府は、在留邦人の保護やテロ情報収集、重要施設警備などを多角的に強化すべきだ。

邦人2人を殺害したとされる過激派組織「イスラム国」は、今後も日本人をテロの対象にすると脅迫している。狂信的な犯罪集団であり、道理や常識が通じる相手ではない。触発された他の過激派が日本人を狙う可能性もある。

テロの脅威が新たな段階に入ったと認識せねばならない。

政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、在留邦人に対し、在外公館を通じた治安情報の周知を徹底する方針を決めた。

海外の日本人学校の警備も強める。日本を象徴する施設として狙われやすいため、保安体制や通学ルートの再点検が必要だ。

安倍首相は、在外公館に配置する自衛官の「防衛駐在官」を増員する考えを表明した。

一昨年のアルジェリア人質事件後に増強され、現在は約40か国に50人以上が派遣されている。現地の軍当局が持つ機密情報は、自衛官の方が入手しやすい。中東などに積極的に配置すべきだろう。

今回の事件では、渡航者への危険情報の周知が課題とされた。

外務省は各国の治安状況に応じ「渡航情報」を4段階で発出している。シリアには最も危険度が高い「退避勧告」を出していた。

だが、憲法が渡航の自由を保障しているため、勧告に強制力はない。外務省は後藤健二さんに、シリアに入国しないよう再三要請したが、聞き入れられなかった。

政府は、渡航情報の段階分けや表現、伝達方法について、どんな改善が可能か、検討すべきだ。

日本国内でのテロを封じ込めることも重要である。

入国審査を厳格化し、テロリストの入国を水際で阻止する必要がある。政府機関や空港、原発などの警備を強化したい。他国の情報機関との連携も欠かせない。

イスラム国はインターネットを駆使し、国境を超えて過激思想を拡散しようとしている。こうした宣伝に影響を受けた若者らが起こす「ホームグロウン(国産)」テロへの備えも必要だ。

豪州では昨年12月、イスラム国に感化されたとみられる男が人質を取ってカフェに籠城し、人質2人が死亡する事件が起きた。

過激思想に傾倒し、武器や爆発物を集める不審者はいないか。捜査当局はネット情報などに目を光らせ、テロの前兆を把握して、迅速に対応することが大切だ。

産経新聞 2015年02月04日

イスラム国 全ての手段で壊滅させよ

米国防総省は2016会計年度国防予算案で、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対する掃討作戦に53億ドルを計上した。オバマ米政権がこのテロ組織の打倒に一段と本腰を入れだしたものである。

非道、卑劣なテロと暴力で国際秩序を脅かす同組織の跋扈(ばっこ)をこれ以上許してはならない。国際社会は一丸となって、早期壊滅に全力を傾ける必要がある。その先頭に立つべきは米国をおいてない。

後藤健二さんと湯川遥菜さんの殺害映像を流したイスラム国はその残虐性とともに、明確に日本の敵となった。米国をはじめ各国との連携を強め、テロとの戦いに積極的に関わってゆくときだ。

安倍晋三首相は「日本がテロに屈することは決してない。罪を償わせるために国際社会と連携してゆく」と表明し、各国からの強い支持が示された。

日本も空爆などの軍事作戦に参加していないとはいえ、対イスラム国の有志連合60カ国の一員であることを忘れてはならない。

例えば、安倍首相が言明した人道支援の拡充はすぐにも実行できる。イスラム国に直接、間接に脅かされ社会が不安定化しかねないヨルダンなど周辺国を支える貢献策を打ち出してもらいたい。

朝日新聞 2015年02月03日

人質事件と日本外交 平和国家の構えを崩すな

いまや、テロに国境はない。欧米、アジア、地域を問わず、人びとの暮らしを脅かす。

そんな時代に、どんな安全保障政策が有効なのか。とりわけ中東とどう向き合うべきか。

過激派組織「イスラム国」による今回の人質事件は、日本の外交・安保政策を考え直す重い機会となろう。

「テロに屈しない」のは当然である。だが一方で、その常套句(じょうとうく)に流され、拙速な結論を導いてはならない。

米国での9・11事件から十余年、「対テロ戦争」の限界と弊害を世界は目撃してきた。力には力で、と走る危うさを今世紀のイラク戦争とその後の中東の混沌(こんとん)が物語っている。

日本は事件から、何を教訓とすべきか。少なくとも、軍事的関与に走ることが日本の安全に直結するとは到底思えない。

むしろ逆だろう。日本はこれまで各国の軍事作戦とは一線を画し、人道的な支援に取り組んできた。その実績には中東一円で高い評価がなされている。

その親日感情の資産を守りつつ、今後も進めるべきは各国政府や国際組織との連携である。

穏健な地元政府との協調関係を維持しながら、テロ組織に対する資金源の遮断など包囲網づくりに日本も取り組む。問われるのは地道な外交力である。

自衛隊による在外邦人の救出といった論議に走るときではない。国際的なテロ対策を進めるうえで、日本が非軍事を掲げる意味を軽視してはならない。

「ハイルル・ウムーリ・アウサトハー」

安倍首相はエジプトでの演説で、「中庸が最善」というアラビア語で、過激主義への懸念を示した。2億ドルの人道支援を通じ、アラブ世界との信頼関係を深めることは意義深い。

ただ、「イスラム国と闘う周辺各国に支援する」という首相の表現は適切だったか、綿密に検証されるべきだろう。

中東の人びとから見れば、日常を襲う戦火は「イスラム国」に限った話ではない。どんな理由であれ、生活を破壊され、傷ついた民衆のそばに、日本国民は立つという普遍のメッセージを送るべきではなかったか。

そもそも「中庸」を唱えるなら、中東外交の主役だった米国の政策にも目を向けるべきだ。

イラク戦争が生んだ内戦と荒廃は、過激思想を助長する結果になった。長らくイスラエル寄り一辺倒の米外交は、国連で孤立の色も深めている。

ところが冷戦後の中東は、日本の対米追従を際立たせる舞台となってきた。

91年の湾岸戦争で日本は130億ドルを拠出したが、小切手外交と批判され、ペルシャ湾の停戦後の機雷除去のために、自衛隊を初めて海外派遣した。

その後、小泉政権は陸上自衛隊のイラク派遣に踏み切った。米国に追随する日本のイメージを強めたのは間違いない。

日本はどんな原則を重んじる国なのか。中東で日本を見つめる民衆の目を考えるべきだ。

オバマ米大統領は「イスラム国」への軍事攻撃を強める意向だ。大規模な地上部隊は投入しない考えも強調しているが、将来的には可能性が残る。

ここで、日本がどんな姿勢をとるかが問われる。

安倍政権は、集団的自衛権関連の安保法制の成立をめざしている。要件が満たされれば、他国への攻撃でも武力行使が認められ、後方支援の幅も広がる。

もし軍事支援に踏み込むようであれば、「イスラム国」が宣伝した通り、米英と同列の立場になるだけだろう。

だが、安倍首相はきのうの国会で、空爆作戦への参加や後方支援は「考えていない」と明言した。「難民の命をつなぐ」ための支援に徹してもらいたい。

たとえば、中東安定化のための国際会議の開催に、日本がもっと力を貸せないか。難民支援の独自策を打ち出せないか。

アラブ諸国、イスラエル、イランのいずれとも対話ができる日本には、米国にはない独自の立場をとる余地がある。

とくに人道支援の分野で、国連を軸にして国際社会の力を結集する。そうした方向での合意形成を後押しすべきだ。

安倍首相の掲げる積極的平和主義も、その中身を再考してみる時期ではないか。

後方支援などで自衛隊を海外に展開し、軍事面で日本の存在感を示したい――。これまで安倍政権からは、そんな意図が見え隠れしてきた。それが対米支援の拡大なら、追従外交の延長線でしかない。

とくに中東では、非軍事こそ日本が進むべき道である。

戦火に悩む人びとの暮らしをまず考える。あくまでも人間の安全保障を重視する。それが、日本の安全にもつながる。

人道外交を重んじる平和国家。その理念を旗印に、テロを許さぬ立場を貫きたい。

毎日新聞 2015年02月03日

日本人人質事件 冷静に役割を果たそう

オバマ米大統領は後藤健二さんが殺害されたとみられる映像がインターネット上に流れた直後に「イスラム国」(IS)を非難し、日本との連帯を表明する声明を発表した。キャメロン英首相やオランド仏大統領ら各国首脳も相次いで声明を発表し、エジプト、ヨルダンなどイスラム諸国政府や国連安保理からも「蛮行」を非難する声明が出された。

読売新聞 2015年02月03日

「人質」国会論戦 対テロで冷静な検証が重要だ

人質事件の再発を極力防ぐとともに、発生時に政府がより効果的に対処できるようにする。国会は、その具体策の議論を深めてもらいたい。

参院予算委員会で、シリアでの邦人人質事件をめぐる質疑が行われた。安倍首相は、「テロの脅かしに屈すれば、さらなるテロを招きかねない。テロと戦う国際社会で日本の責任を毅然きぜんとして果たしていく」と強調した。

残虐なテロを繰り返す過激派組織「イスラム国」の封じ込めは今や、国際社会の共通の課題だ。日本は、事件にひるむことなく、応分の責任を担う必要がある。

民主党の那谷屋正義氏は、「事件の再発防止の意味でも、検証が必要だ」と指摘した。

政府の危機管理体制を強化するためにも、今回の事件対応を冷静に検証し、分析することが大切だ。どんな情報に基づき、どう対処したのか。政府は国会などで、丁寧に説明することが求められる。

無論、政府の手の内をすべて明かすのは、関係国との信頼関係を壊し、過激派組織を利する。

イスラム国は、勢力拡大のため、独善的な論理で卑劣な犯罪行為を重ねる狂信的な集団だ。常識的な交渉が通用しない相手であることも踏まえねばなるまい。

疑問なのは、集団的自衛権の行使容認により、日本に対するテロの危険が増すかのような見解を那谷屋氏が示したことだ。

集団的自衛権の行使は、各国とも認めており、テロとの戦いに不可欠な日米同盟と国際連携の強化が目的である。日本だけが安全であればいいという考え方は、「一国平和主義」に陥りかねない。

テロの危険に過剰反応すれば、日本がテロに弱いとみなされ、かえって標的にされる恐れがある。在留邦人の安全確保策を強化しつつ、テロや誘拐に見舞われた際の対応策を検討しておきたい。

首相は、イスラム国に対する有志連合による空爆作戦への自衛隊の後方支援について、「考えていない」と明確に否定した。

「イスラム(諸国)対世界という構図では全くなく、イスラムこそイスラム国と戦う最前線だ」と力説し、中東諸国向けの人道支援を拡充する考えも示した。

国際社会から自衛隊の派遣要請はなく、後方支援には新法制定が必要となる。現時点では、非軍事協力に専念するのが現実的だ。

今回の事件で緊密に連携したヨルダンなど、中東各国との関係を強化することは、在留邦人の安全確保にも役立つだろう。

産経新聞 2015年02月03日

邦人保護 救出の法と態勢が必要だ 対外情報機関の創設を急げ

海外で危機にさらされた自国民を救出するという国家として当たり前の対応を、日本はとれない。過激組織「イスラム国」による卑劣なテロにより、改めて想起させられたといえよう。

残念ながら、戦後の日本では自衛隊を活用して国民を救出する態勢と意思を持つことが許されなかった。

国際化が進み、多くの国民が海外で働き、旅行をする時代となった。国際テロの脅威に誰もがさらされているという、厳しい現実に備えなければならない。

自らの力で国民を救出する手立てを選択肢として持つことを、検討する時が来たのではないか。

≪「自衛隊」の選択肢持て≫

具体的には、必要な事態に自衛隊を派遣できるようにする法整備を考えたい。テロに対する抑止力にもなる。

安倍晋三首相は「テロに屈しない」「テロの恐怖におびえない」との姿勢を明確にした。それには、日本人の安全確保について、国がより重い責任を果たすことが伴わなければならない。

2年前のアルジェリアの人質事件では、天然ガス関連施設で働く日本人10人が犠牲となった。日本は救出はもとより、独自に情報収集することさえ満足にできなかった。だが、抜本的解決は図られていない。

国会では、人質事件への政府対応をめぐる論議が始まっている。より重要なことは、今後のテロに備え、国が国民を保護し、救い出す意思と能力の整備である。

それには、法制と実際の能力の双方を整えなければならない。

首相は国会で「領域国の受け入れ同意があれば、自衛隊の持てる能力を生かして救出に対応できるようにすることは国の責任だ」と語った。

陸上自衛隊には精鋭隊員による特殊部隊である「特殊作戦群」が存在するが、今の自衛隊法では、海外で騒乱に巻き込まれた邦人を護送はできても救出できない。

今国会に提出予定の安全保障関連法制が整備されれば、受け入れ同意国の権力が現地に及んでいることなどを条件に、警察権行使の一環として自衛隊を救出作戦に派遣できるようになる。確実な成立が望まれる。

これを足がかりとして、さらなる法整備が必要となる。予定される安保関連法制の下でも、今回の「イスラム国」による人質事件のような、どの国の権力も及ばないテロリスト支配地では、救出作戦が認められないからだ。

憲法が禁ずる「海外での武力行使」に触れることが理由となっている。従来の憲法解釈を優先させ、国民の安全確保がおろそかになる「平和主義」の弊害といえないか。国際常識に沿って解釈の正常化を急ぎ、将来的には憲法改正で是正すべきである。

≪国内テロ対策も徹底を≫

関係各国との情報共有の強化を図ることも極めて重要となる。

安倍政権は、特定秘密保護法の制定や国家安全保障局の創設など、情報面での態勢強化を重ねてきた。ただし、他の主要国には存在しているのに日本に欠けているものがある。

国際テロや大量破壊兵器、諸外国の政情などの海外情報を収集、分析するための専門機関だ。

今回の事件を受け、石破茂地方創生担当相は民放テレビ番組で、対外情報機関の創設について「早急に詰めないといけない」と語った。こうした機関の設置についてタブー視する意見もあるが、国民の生命と平和を守るために必要な組織の創設について、安倍首相の決断を求めたい。政府与党としても検討を急ぐべきだ。

テロの脅威は、海外にとどまらない。国内のテロも封じ込めていかなければならない。欧米諸国では、爆弾や銃器などを使ったテロ事件が多く起きている。日本が「対岸の火事」と傍観していては危ない。

政府は出入国管理を徹底するなど水際対策に乗り出すとしているが、十分とはいえない。国民も政府も意識を改め、質的には諸外国と同様の脅威にさらされていることを自覚し、テロを未然に防ぐ努力をすべきである。

2020年の東京五輪に向け、捜査当局に新たな捜査の手段を認めることなども対象となろう。「共謀罪」の創設のほか、テロリスト対象の通信傍受のあり方についても検討を迫られる。

朝日新聞 2015年02月02日

「イスラム国」の非道 この国際犯罪を許さない

あまりに非道な行為が、無事解放の願いを打ち砕いた。

過激派組織「イスラム国」が拘束していたジャーナリスト後藤健二さんを殺害したとする映像を公開した。湯川遥菜(はるな)さんに続く無情の殺害宣告だ。

1月20日に明るみに出た人質事件は、安倍首相の中東訪問をとらえた脅しだった。「イスラム国」のために住む場所を失った難民への人道支援を表明した日本政府を責めたて、身代金や人質交換に応じなければ殺害するという主張は、独りよがりでおよそ道理が立たない。

残虐きわまりない犯人と組織を強く非難する。

最悪の事態を避けられなかったことは、国際社会や日本が向き合わなければならない多くの課題を突きつけた。

「イスラム国」の特徴の一つが、外国人を拘束して予告した上で殺害し、その様子をインターネットで公開するむごたらしい手口だろう。

この上ない人権侵害であり、国際犯罪である。このような行為を続ける組織との対話や交渉の困難さは想像にあまりある。

しかし、米国が主導する空爆などの軍事行動では解決できない側面がある。そもそも「イスラム国」のような理解しがたい組織がなぜ台頭してきたのか。米英が中心となって強行したイラク戦争が中東地域の宗派間の対立を生み、情勢をいっそう複雑にしてきた経緯に思いをいたさざるをえない。

国際社会は国連などを中心に国単位での問題解決を基本としてきた。「イスラム国」のように国家を名乗りながら、近代国家の常識からかけ離れ、暴力的に支配地域を広げようとする組織とどう対峙(たいじ)していくか。そのことが改めて問われる。

国連の調査委員会が昨年まとめた報告書は、「イスラム国」による思想統制や女性への組織的な性暴力などの残酷な統治の実態を指摘し、戦争犯罪や人道に対する罪で司令官らを国際刑事裁判所(ICC)で訴追するよう促している。

たやすいことではないだろう。それでも2人の日本人のほか、人質となった米国人、英国人が殺害された事件も含め、訴追と処罰を求める国際社会の圧力を高めていくべきだ。

安倍首相らの国会などでの説明によると、湯川さんの拘束事件を受けて昨年8月に首相官邸に情報連絡室などを設置。11月には後藤さんの行方不明を把握し、政府が対応する事案に加えたという。

それでも2人を救出できなかったという現実を直視しなければならない。

最初の脅しの映像がネット上に出たとき期限とされた72時間は短かったが、政府が2人の拘束を知ってからでいえば、すでに相当の月日がたっていた。

ジャーナリストらが拘束されたものの解放されたフランス、スペインのケースでは殺人予告などに至る前に解放に向けた交渉が進んでいたとされる。

今回の日本政府の対応について、菅官房長官はきのうの会見で「(「イスラム国」とは)接触しなかった」と述べた。それはなぜなのか。昨年、新設された政府の国家安全保障局は、どのように機能したか。

同じ被害を繰り返さないためにも、政府は事実を最大限公表し、検証する責任がある。

冷戦後、中東は戦争や紛争の現場となってきた。日本政府は欧米主要国とは一線を画し、抑制的なかかわり方をしてきた。非軍事で、難民らへの人道支援に重きをおくものだ。

「イスラム国」は後藤さんを殺害したとする映像で、安倍首相を名指しし、日本を敵とみなすメッセージを送りつけてきた。しかし、「イスラム国」に対する軍事作戦に日本は参加していない。人道支援を重視する日本の姿勢は、いまも中東地域に広く浸透している。

「イスラム国」から筋違いの脅しは受けたが、これからも家を失い、苦境に立たされている人たちの生活を支える姿勢を守り通すべきだ。

紛争地の取材を重ねてきた後藤さんが心を寄せていたのも戦闘の帰趨(きすう)ではなく、現地の人たちの暮らしぶりや、喜び、悲しみだったという。

殺害宣告は理不尽きわまりない行為である。中東ではこのような理不尽が日々積み重ねられている。それらは「対岸」の出来事ではなく、日本が向き合わねばならないことである。

周辺の国々にはシリア、イラクから逃げる人たちがあふれ、欧州各国も含め、難民受け入れの負担が増している。今こそ日本政府が難民に門戸を広く開くときではないか。

ほとんどのイスラム教徒は穏健で命を大切にする人たちだ。互いをもっと知り合う。そして必要な助けの手をさしのべる。

悲劇を乗り越え、その原則を貫きたい。

毎日新聞 2015年02月02日

日本人人質事件 この非道さを忘れない

かすかな望みを無慈悲に断ち切る映像だった。ジャーナリストの後藤健二さんを拘束していたイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)は後藤さんの殺害を示すとみられる映像をインターネット上で公開し、これは日本にとって悪夢の始まりであり、今後も日本人を殺し続けると宣言した。湯川遥菜さんに続き2人目の日本人人質の殺害が告げられたことに、激しい憤りと悲しみを覚える。仮にもイスラム教徒と名乗る者たちが、なぜこうも簡単に市民の命を奪うのか。私たちは忘れない。これはイスラムを隠れミノとした無法組織の、決して許されない残虐行為だ。

読売新聞 2015年02月02日

後藤氏殺害映像 「イスラム国」の蛮行を糾弾する

◆日本人標的のテロに警戒強めよ

尊い人命を弄ぶ、卑劣な蛮行である。断固として糾弾する。

重要なのは、「テロに屈しない」という国際社会共通の原則を堅持し、関係国との連帯を強めることだ。在留邦人の安全確保にも万全を期す必要がある。

シリアでの人質事件で、過激派組織「イスラム国」は、拘束していた後藤健二さんを殺害したとするビデオ映像を動画サイトに投稿した。政府は、映像の信ぴょう性は高いと判断している。

◆国際社会の結束不可欠

殺された湯川遥菜さんとみられる写真も既に公開されている。2人の犠牲が事実なら、痛ましい結末であり、強い怒りを覚える。

安倍首相が「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携する」と表明したのは、当然である。

オバマ米大統領は「極悪な殺人を非難する」と声明を発表し、英仏首脳も足並みをそろえた。

犯行グループのメンバーは映像の中で、後藤さんの殺害に関連して、日本がイスラム国との戦いに参加したことを一方的に非難した。

黒装束の男は「勝ち目のない戦いに参加するという安倍(首相)の無謀な決断」と批判した。「このナイフは、あらゆる場所で日本人の虐殺をもたらす」とも脅迫している。

身勝手な解釈に基づき、日本を一方的に「敵」と決めつける主張であり、決して容認できない。

首相が表明した2億ドルの中東支援は、非軍事分野の人道援助だ。避難民向けの医療や食料支援、インフラ整備などに充てられる。

そもそも国際ルールを無視し、虐殺、略奪、誘拐、占拠など、凶悪で非道な犯罪行為を重ねてきたのは、イスラム国である。

イスラム国を封じ込めるには、国際社会の結束が欠かせない。米国主導の有志連合には約60か国が参加している。国連安全保障理事会も邦人人質事件に関し、イスラム国への非難声明を発表した。

◆自己責任にとどまらず

日本が対イスラム国包囲網に参加することは、国際社会の一員として当然の責務である。

人質事件は、最初の脅迫映像が流れた後、めまぐるしく事態が動いた。犯行グループは、2億ドルの身代金を要求し、その後、ヨルダンで収監されている爆破テロ犯の死刑囚の釈放に切り替えた。

実現しないなら、イスラム国に拘束中のヨルダン軍パイロットと後藤さんを殺害すると脅した。

ヨルダン政府は、パイロットの解放を条件に死刑囚を釈放するとして、ギリギリの人質交換交渉を進めたが、実を結ばなかった。

日本政府は、「テロに屈しない」原則と「人命尊重」の観点の両立という困難な対応を迫られた。

イスラム国は、インターネットを利用した「劇場型」の脅迫・殺害を繰り返す特異な集団である。「ヨルダン頼み」の手探りの交渉には限界があったと言える。

ジャーナリストの後藤さんは昨年10月、退避勧告が出ていたシリアにあえて入国した後、「何か起こっても責任は私自身にある」とのメッセージを残していた。

「自己責任」に言及したものだが、結果的に、日本政府だけでなく、ヨルダン政府など多くの関係者を巻き込み、本人一人の責任では済まない事態を招いたのは否定できない。

同様の事態を避けるため、今後、危険地域への渡航には従来以上に慎重な判断が求められる。

今回の事件により、日本人が海外で誘拐の標的となる危険が一層高まったことにも留意したい。

過激派組織にとっては、日本の軍事的報復を恐れる必要はない。日本に圧力をかけ、中東各国などに間接的に要求をのませる手法を再び使う可能性もある。

安倍首相が在留邦人らの安全確保の強化を閣僚に指示したのは、こうした事情があるためだ。

◆邦人救出の議論も要る

首相は、海外での邦人救出に自衛隊を活用するための法整備を検討する方針である。領域国による自衛隊受け入れの同意など、様々なハードルもあろう。政府・与党で議論を深めることが大切だ。

中東支援の強化も重要となる。首相は、「食料、医療といった人道支援をさらに拡充していく」と強調している。

イスラム国の壊滅までには時間を要しようが、「テロとの戦い」の一翼を担い、その最前線に立つ中東諸国を支援するという現在の方針を変えてはなるまい。

今後も、欧米や中東の各国との連携を強め、地域の安定とテロの拡散阻止に努めたい。

産経新聞 2015年02月02日

後藤さん殺害映像 残虐な犯罪集団を許すな 対テロで国際社会と連携

過激組織「イスラム国」に拘束されていたジャーナリストの後藤健二さんが殺害されたとみられる残忍な映像が、インターネット上に公開された。

後藤さんとともに拘束されていた湯川遥菜さんも、すでに殺害されたとみられている。残虐で卑劣な犯罪行為である。どんな主張があるにせよ、暴力や恐怖によって相手を屈服させようとするテロリズムを許すことはできない。

安倍晋三首相は「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく」と述べた。

日本の歩むべき道は、テロと戦う国際社会とともにあることを強く再確認したい。

≪覚悟持つ社会の醸成を≫

後藤さんはこれまで、主に紛争や貧困など厳しい環境にある子供たちの姿を追い、書籍や映像で伝えてきた。後藤さんを知る多くの人が、彼の生還を待っていた。彼の新たな報告や作品を待っていた。殺害が事実なら、それもかなわぬこととなる。

後藤さんと湯川さんが拘束された映像が流れたのは1月20日だった。ナイフを手にした男は身代金として2億ドル(約236億円)を日本政府に要求した。安倍首相が中東歴訪中に表明した、避難民に対する人道支援の額と同額である。

金額の多寡に関係なく、これを受け入れるわけにはいかなかった。テロに屈すれば新たなテロを誘発する。身代金は次なるテロの資金となり、日本が脅迫に応じる国であると周知されれば日本人は必ずまた誘拐の標的になる。

音声は日本政府を批判し、日本国民には政府に圧力をかけるよう要求した。これに呼応する形で国内の野党や一部メディアから同様の批判の声が相次いだが、日本の国民は冷静だった。

産経新聞社とフジニュースネットワークが実施した合同世論調査によると、イスラム国による脅迫事件への政府の対応について58・9%が「取り組みは十分」と評価し、67・3%が身代金を「支払うべきでない」と答えた。

後藤さんを殺害したとみられる映像は再び音声で日本政府を批判し、「日本にとっての悪夢の始まりだ」と脅した。理不尽な脅迫に対峙(たいじ)するためには、政府が毅然(きぜん)とした態度をみせるとともに、国民一人一人がテロに対して揺るがぬ心を持つ、覚悟を持った社会の醸成が必要となる。事件の責任を日本政府に求めるのは誤りだ。憎むべきは、テロ集団である。

イスラム国は2度目の脅迫画像をネット上に公開した際に身代金の要求を引っ込め、イラク人死刑囚の釈放を要求した。3度目の画像で後藤さんはイスラム国に捕らわれたヨルダン軍パイロットの写真を持たされ、パイロットの殺害も予告していた。

死刑囚は2005年にアンマンで60人以上の尊い生命を奪った連続爆破テロの実行犯である。逮捕されたのは自爆装置の起爆に失敗し、不発に終わったためだ。釈放には多くのヨルダン国民が反対し、ヨルダン政府もパイロットの生存確認を最優先させた。

ヨルダンの懸命の対応には感謝すべきで非難することは誤りだ。テロに屈しない。自国民の保護を優先させる。いずれも批判の対象とはなり得ない。両国の立場が逆だったとしても同様である。

≪日本として責任果たせ≫

オバマ米大統領は「安倍晋三首相や日本国民と連帯し、この野蛮な行為を糾弾する。われわれは中東や世界の平和と繁栄を前進させるため、日本が着実に取り組んでいることを称賛する」などとする声明を発表した。

キャメロン英首相は「人命を一顧だにしない悪の権化」だと、イスラム国を強く非難した。

中東やアフリカなどイスラム圏の20カ国・地域からなる「在京アラブ外交団」は1月27日、「イスラムの気高い教えや原則をかたってこのような野蛮な行為が行われたことに対し、遺憾の意を表する」と声明を発表していた。

忘れてならないのは、「イスラム国」は国ではなく、犯罪集団であり、イスラム社会にとっても敵であるという事実だ。

安倍首相は改めて「日本がテロに屈することは決してない」と述べ、中東への人道支援をさらに拡充することを表明した。今後もイスラム諸国を含むテロと戦う国際社会と連携し、日本としての責任を果たさなくてはならない。

読売新聞 2015年01月31日

邦人人質事件 ヨルダンとの連携を大切に

過激派組織「イスラム国」とみられるグループが指定した人質殺害の期限が過ぎた。今後の展開は予断を許さない。

政府は、ヨルダンと緊密に連携し、後藤健二さんの救出に向けて総力を挙げるべきだ。

犯行グループは、後藤さんの解放と引き換えに、ヨルダンで収監中の女死刑囚の釈放を要求した。実現しない場合、ヨルダン軍パイロットと後藤さんを殺すと脅している。死刑囚をシリア・トルコ国境に連れてくることも求めた。

人質殺害を予告し、解放の条件や期限を次々に変え、揺さぶりをかける。人命を弄ぶ卑劣な手口には、強い憤りを禁じ得ない。

ヨルダン政府は、パイロット解放を条件に、死刑囚釈放の用意があると表明した。死刑囚は同時爆破テロの実行犯だ。人質の命を優先し、超法規的措置を取るという厳しい決断をしたのだろう。

後藤さんと死刑囚の「1対1」の交換を求めるイスラム国と、どう折り合うか。水面下でギリギリの交渉が行われている模様だ。

ヨルダン情報相は「後藤さんの解放についても日本と協力して努力を続けている」と明言した。

長年の日本との友好関係を重視したものだ。日本は、欧米とも協調する穏健なヨルダンの役割を高く評価し、計3000億円以上の経済支援を実施してきた。

首脳の相互訪問も活発で、安倍首相とアブドラ国王は個人的な信頼関係を築いている。

政府が、ヨルダンに事件の現地対策本部を設置し、強固な協力体制を維持しているのは適切だ。日本が独自にできることは限られている以上、ヨルダンとの連帯を大切にしたい。

ヨルダン同様、日本との関係が良好なトルコの役割も重要だ。

イスラム国の支配地域に近いトルコ南部の国境周辺は、過去にも人質解放の舞台となった。イスラム国に拉致されたフランス人記者や、トルコ外交官らは、いずれもこの近辺で解放されている。

人質交換では、不測の事態もあり得る。人質を迅速に保護できるよう、トルコと十分協議し、万全の対策を講じる必要がある。

後藤さん救出は今が正念場だ。日本政府は、情報収集や関係国との調整に、従来以上に緊張感を持って取り組んでほしい。

野党の一部議員は、安倍首相の中東歴訪やイスラム国対策の2億ドル支援表明が過激派を刺激した、と批判する。だが、そうした批判は、日本の援助の趣旨をねじ曲げ、テロ組織を利するだけだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2080/