ギリシャ総選挙 大衆迎合では経済の混乱招く

朝日新聞 2015年01月27日

ギリシャ総選挙 信認される政策を

ギリシャの総選挙で、反緊縮を掲げる野党・急進左翼進歩連合が第1党に躍進し、政権を担うことが確実になった。

この選挙結果は、緊縮財政に対する国民の不満の強さの表れだろう。

09年のギリシャ危機後、ギリシャ政府は、欧州連合(EU)などから支援を得る見返りに、財政再建・緊縮財政を進めてきた。年金や公務員給与のカット、増税と、国民に痛みを強いることで、財政状況は改善したものの、失業率が今も約25%にのぼるなど、経済には傷痕も残る。厳しい生活に対する国民の不満をとらえたのが、債務削減とともに緊縮策の見直しを訴えた急進左翼進歩連合だった。

実際に政権についた後、急進左翼進歩連合がEUなどとの交渉で、具体的に何を求めるのかはまだ明らかではない。しかし、多くの支持を得た以上、選挙戦で掲げた要求の水準を急に引き下げるのは容易ではないだろう。

とはいえ、ギリシャが自力で資金を調達するには限界があり、EUなどからの支援なしでは、立ちゆかない。ギリシャの財政再建努力とEUの支援がセットになって、市場の信認を得て危機を沈静化させてきた経緯もある。

財政再建策の見直しを求めるにしても、おのずとその幅には限度がある。急進左翼進歩連合もユーロ圏にとどまる意向は示している。財政規律がユーロ加入の条件であったことを踏まえるなら、現実的な選択肢を対外的に示し、国民を説得することが必要になる。

EU各国も、ギリシャが直面している政治状況や、ギリシャが財政再建に努めてきた事実を理解したうえで、改めて支援策を考えるべきだ。ギリシャ問題はユーロの信認に直結する。

ギリシャに端を発した欧州各国の債務危機は、ユーロに対し、根源的な問題を投げかけてきた。各国財政がばらばらなままで、どう信認を維持するのか、という問題である。

通貨の信認は、発行国の財政の信認にかかる。多くの国が加盟するユーロでは、そのための工夫が財政規律のルールであり、債務危機後は、緊縮財政だった。

デフレに陥りかねない低成長の欧州では、ギリシャ以外の多くの国でも、「緊縮より成長」という主張が一定の支持を得てきている。各国の事情に配慮しながら、いかにユーロの信認を保っていくのか。ギリシャ支援を通じ、EUはその答えも探さなければならない。

毎日新聞 2015年01月28日

ギリシャ新政権 EUと妥協の道めざせ

ギリシャが再び欧州の不安要因に浮上した。議会総選挙の結果、緊縮財政路線の大転換を公約した急進左派連合が第1党に躍進し、連立政権を主導することになったのだ。

読売新聞 2015年01月27日

ギリシャ総選挙 大衆迎合では経済の混乱招く

ギリシャ発の欧州経済危機が再燃しないか、懸念が拭えない。

ギリシャの総選挙で、緊縮財政路線との決別を掲げる最大野党、急進左派連合が第1党となり、連立政権作りに乗り出した。

定数の過半数に迫る議席を獲得し、事前予想を上回る圧勝である。サマラス前首相率いる新民主主義党は、第2党に転落した。

急進左派のツィプラス党首は、「悲惨な緊縮策は過去のものになる」と勝利宣言した。

財政危機に陥ったギリシャは2010年以降、欧州連合(EU)などから支援を受ける条件として緊縮財政政策を続けてきた。

基礎的財政収支が黒字化し、財政再建が進んだ反面、国内総生産は危機前の7割に縮小した。公務員のリストラで急増した失業率は25%前後に高止まりしている。最低賃金の引き下げなどに伴う国民生活へのしわ寄せも大きい。

急進左派の最大の勝因は、国民の「緊縮疲れ」だろう。

問題は、急進左派の公約が、あまりに大衆迎合的なため、EU支援の継続が危ぶまれることだ。

EUに債務減免を求める。解雇された一部の公務員の復職を認める。いずれもサマラス政権の緊縮財政策を逆戻りさせる内容だ。財源の裏付けを欠く福祉政策の強化案もバラマキ批判を免れまい。

現行のEU支援の期限は2月末だ。ギリシャ次期政権には、その後の支援策についてEUと合意することが喫緊の課題である。

だが、急進左派の多くの公約は、EUにとって認めがたい。支援を主導するドイツは、債務減免を「問題外」と切り捨てている。

協議が行き詰まれば、ギリシャの国債発行が困難になり、債務不履行に陥る危険さえある。

EUは、前回の危機を教訓に、混乱の波及を防ぐため、財政難に陥った国を支援する総額5000億ユーロの「欧州安定メカニズム(ESM)」を発足させている。

だが、ギリシャがESM発動の要件を満たせず、危機が深刻化すれば、欧州だけでなく、世界の金融市場に飛び火する心配は消えない。実際、急進左派の大勝を受けて、円高ユーロ安が進むなど、日本にも影響が出ている。

急進左派は、公約に固執せず、債務返済先送りや金利軽減など、EUとの妥協点を探るべきだ。

ユーロ圏がデフレに陥る懸念が強まる中、欧州中央銀行(ECB)は、国債購入による量的緩和を決めたばかりだ。危機回避へ、EUの政策協調が試されよう。

産経新聞 2015年01月27日

ギリシャ左派勝利 「反緊縮」拡大を懸念する

欧州債務危機のきっかけとなったギリシャの総選挙で、欧州連合(EU)主導の財政緊縮策に反対する最大野党の急進左派連合が勝利した。

緊縮で疲弊した国民の不満が背景だ。同党が政権に就けば、債務危機以降のユーロ圏で初の反緊縮派の登場となる。

チプラス党首は「悲惨な緊縮は捨て去る」と述べた。だが、それでいいのか。

経済力に見合わぬ放漫財政で崩壊のふちに立ったのが、ギリシャである。財政再建は、EUや国際通貨基金(IMF)から支援を得る大前提だ。

ギリシャは今後、債務減免や緊縮策見直しでEUと協議する。交渉が頓挫し支援が滞れば、財政不安が再燃しよう。緊縮は嫌だが支援はほしい、では通らない。

欧州経済が冷え込むなか、ギリシャ問題で金融市場の動揺が広がれば、世界への影響も大きい。ギリシャはもちろん、ユーロ圏にもそれを回避する責務がある。

ギリシャは金融支援を受けるため、年金減額や増税、公務員リストラなどを進めてきた。経済は7年ぶりのプラス成長が見込めるまでになったが、失業率が高く、景気回復の実感は乏しいままだ。

痛みを強いられた国民の不満は理解できる。EU側もギリシャの窮状から目をそらさぬ配慮が求められよう。だからといってギリシャが緊縮策を放棄するようでは欧州各国の理解は得られまい。

ユーロ圏各国の国債を買い入れる欧州中央銀行(ECB)の量的緩和でも、ギリシャ国債購入は改革が条件だ。財政基盤の脆弱(ぜいじゃく)な欧州南部の国々に対し、ドイツなど経済が底堅い北部諸国の目が厳しいことに変わりはない。

ギリシャのユーロ圏離脱という最悪のシナリオは、ギリシャ国民も欧州各国も望んでいない。欧州は債務危機後、財政不安に陥った国を支援する安全網を整備し、ギリシャ不安が再燃しても影響は限定的との見方もあろう。

だが、ギリシャとEUが改革を基本とする現実的な対応を取れるかどうかは、国ごとに財政政策を行うユーロ圏が統合の推進力を保つためのカギを握る。

懸念されるのはギリシャ総選挙の結果を受けて欧州に「反緊縮」機運が広がることである。ユーロ圏に問われているのは、成長と財政再建のどちらかを優先するのではなく、両立を図ることだ。

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