新幹線トラブル 初歩的ミスだからこそ深刻だ

朝日新聞 2010年02月04日

新幹線停電 安全のボルト締め直せ

先週末、東京―新大阪間の新幹線が停電で3時間半も止まり、車中や駅で、多くの人がイライラを募らせた。世界に誇る精緻(せいち)なシステムを止めた原因は4個のボルト。実は背筋が寒くなるような事態だった。

15万人近くが影響を受けた事故は、初歩的な車両整備のミスから起きた。事故の2日前、東京・大井車両基地で作業員がパンタグラフの部品を交換したときに、ボルトをつけ忘れていたのだという。

重さ10キロを超すパンタグラフの部品が固定されないまま、1千キロ以上も走行していた。もし対向車両とすれ違う時や市街地で脱落していれば、大事故になった恐れもあった。

部品交換にあたったのはJR東海の中堅と若手社員2人で、確認役のベテラン社員も見落としたらしい。人は誰でもミスを起こす。問題はミスを幾重にもチェックし、未然にトラブルを防ぐ仕組みが抜け落ちていたことだ。

JR東海の説明では、作業が済んだかどうか点検表に記録することも、残ったボルトの数を付き合わせるようなことも今回はなかったという。航空機整備や原子力発電所など、大勢の人の命にかかわる現場では当たり前に行っている手順だ。

大事故につながらなかったのは運がよかったからにすぎない。JR東海は今回の件を警鐘と重く受け止め、整備態勢を総点検すべきだ。背景に構造的な要因はないかという分析も必要だ。

新幹線は今年、開業46年を迎える。国鉄技師出身でJR東日本会長まで務めた山之内秀一郎氏は「技術者たちの持っていた安全に対する夢を実現したのが新幹線だった」と記している。

超高速の乗り物を安全に正確に走らせる。新幹線は、鉄道技術の頂点を極めようとする挑戦だった。

列車間距離などに合わせて速度を制御するATC、総合指令室で列車の運転状況を監視するCTC。こうした高度なシステムを、綿密な車両整備や線路保守が支えてきた。様々なトラブルや震災を経ながらも、これまで乗客の死亡事故は一度も起こしていない。

ただ、いまや開業時とは比べものにならないほどダイヤは過密化した。橋や軌道は老朽化が進む。団塊世代が抜け、技術をどう受け継ぐかという問題もある。これを機会に初心に戻り、安全思想を鍛え直してほしい。

JR東海はリニアモーターカーや新幹線で米国市場に参入しようとしている。安全性に裏打ちされた高速鉄道技術は、日本の国際競争力を支える柱の一つとして期待されている。

日本のものづくりを象徴してきたトヨタは、米国などで大量リコールが相次いだ。慢心はないか。安全にかかわるすべての現場で、足元のボルトをいま一度点検し、締め直す時である。

読売新聞 2010年02月03日

新幹線トラブル 初歩的ミスだからこそ深刻だ

惨事が起きてからでは遅い。JR東海には、東海道新幹線の安全神話を揺るがす事態だと重く受け止めて、再発防止に努めてもらいたい。

東海道新幹線の品川―小田原間で先月29日、架線が切れて停電となり、上下線が3時間半近くもストップした原因は、あまりにお粗末な人為ミスだった。

車両基地の2人の作業員が2日前、新幹線車両の上部に設置されたパンタグラフの部品を交換した際に、4本のボルトを取り付けるのを忘れたのだという。

このため、走行中に部品が外れてパンタグラフのアームが架線を支える金具に引っかかり、架線が切れて停電した。

作業員がボルトを付けたかどうか確認する役割のベテラン車両技術主任も、確認を忘れていた。

JR東海は「初歩的ミスで申し訳ない」と陳謝した。こんなうっかりミスが原因では、影響を受けた15万人近い利用客の怒りも倍加しようというものだ。

長さ1・9メートル、重さ約12キロの部品が線路脇に落ちているのが見つかった。超高速の新幹線だ。対向車両にぶつかったり、線路沿いに飛んだりすれば、重大事故になった可能性もあっただろう。

東海道新幹線では開業以来、乗車中の客の死傷事故は起きていない。安全運行に対する内外の評価は極めて高いものがある。

当然ながら、JR東海は、安全への投資、設備や保守管理に従事する社員の教育訓練なども計画的に行っている。

それでも、安全対策に漏れや徹底していない部分があったということだ。作業のマンネリ化による気の緩みなども考えられる。

大事故が起きれば多数の生命にかかわるばかりか、経済や社会生活に深刻な影響を及ぼす列島の大動脈である。チェックシステムを総点検するなど、一つ一つの作業を厳格に進めていくべきだ。

JR東海は新幹線やリニアモーターカーを米国など海外に積極的に売り込もうとしている。保守管理などの人的な支援体制が同時に機能してこそ、世界にトップレベルの技術も誇ることができる。

ことはJR東海だけの問題ではない。ほかの鉄道会社でも、通勤通学客などの足が奪われるトラブルが絶えない。

長時間、列車内に閉じこめられたり、足止めされたりする利用客の苦痛は計り知れない。様々なトラブルを想定し、早期復旧の体制と客の迅速な誘導計画を講じておくことも重要だ。

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