惨事が起きてからでは遅い。JR東海には、東海道新幹線の安全神話を揺るがす事態だと重く受け止めて、再発防止に努めてもらいたい。
東海道新幹線の品川―小田原間で先月29日、架線が切れて停電となり、上下線が3時間半近くもストップした原因は、あまりにお粗末な人為ミスだった。
車両基地の2人の作業員が2日前、新幹線車両の上部に設置されたパンタグラフの部品を交換した際に、4本のボルトを取り付けるのを忘れたのだという。
このため、走行中に部品が外れてパンタグラフのアームが架線を支える金具に引っかかり、架線が切れて停電した。
作業員がボルトを付けたかどうか確認する役割のベテラン車両技術主任も、確認を忘れていた。
JR東海は「初歩的ミスで申し訳ない」と陳謝した。こんなうっかりミスが原因では、影響を受けた15万人近い利用客の怒りも倍加しようというものだ。
長さ1・9メートル、重さ約12キロの部品が線路脇に落ちているのが見つかった。超高速の新幹線だ。対向車両にぶつかったり、線路沿いに飛んだりすれば、重大事故になった可能性もあっただろう。
東海道新幹線では開業以来、乗車中の客の死傷事故は起きていない。安全運行に対する内外の評価は極めて高いものがある。
当然ながら、JR東海は、安全への投資、設備や保守管理に従事する社員の教育訓練なども計画的に行っている。
それでも、安全対策に漏れや徹底していない部分があったということだ。作業のマンネリ化による気の緩みなども考えられる。
大事故が起きれば多数の生命にかかわるばかりか、経済や社会生活に深刻な影響を及ぼす列島の大動脈である。チェックシステムを総点検するなど、一つ一つの作業を厳格に進めていくべきだ。
JR東海は新幹線やリニアモーターカーを米国など海外に積極的に売り込もうとしている。保守管理などの人的な支援体制が同時に機能してこそ、世界にトップレベルの技術も誇ることができる。
ことはJR東海だけの問題ではない。ほかの鉄道会社でも、通勤通学客などの足が奪われるトラブルが絶えない。
長時間、列車内に閉じこめられたり、足止めされたりする利用客の苦痛は計り知れない。様々なトラブルを想定し、早期復旧の体制と客の迅速な誘導計画を講じておくことも重要だ。
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