農協改革 目的を見失うな

朝日新聞 2015年01月18日

農協改革 目的を見失うな

全国に約700ある農協(JA)を束ねる全国農業協同組合中央会(全中)の改革を巡り、安倍政権と全中の対立が激しくなってきた。

政権は昨年春の規制改革会議の提言に基づき、全中が内部組織を通じて農協に実施している監査の廃止を掲げる。「一般の企業のように公認会計士の監査を受ければよい」との考えだ。

監査問題の先には、全中について定めた農協法の規定を削除し、全中を他の業界団体のように一般社団法人などに衣替えすることが視野に入っている。

全中は真っ向から反論する。独自の監査は少ない費用で効果をあげているとし、全中は農協法に基づく組織であるべきだと主張している。

先の佐賀県知事選では農協改革が争点の一つとなった。地元農協などが立てた候補と政権が全面支援した候補がぶつかり、地元擁立候補が勝利した。

首相は農協改革を断行すると強調するが、農協は自民党の支持基盤でもあり、春の統一地方選をにらんで党内には慎重論もある。改革論議が混迷する可能性は小さくなさそうだ。

政権と全中に求めたいのは、政治的思惑や駆け引きを排し、改革の目的を忘れずに農協のあり方を根本から見直すことだ。

後継者や国際競争力の不足など課題が山積みのわが国の農業を強化するには、個々の農協が創意工夫をもっと発揮し、地域に根ざした取り組みを広げることが不可欠だ。なのに、全中を中心とするJAグループのピラミッド型の組織構造がそれを阻んでいないか。こうした問題意識が改革の原点だったはずだ。

注目したい農協がある。福井県のJA越前たけふである。

農薬や肥料などの購買事業とコメなど農産物の販売事業からなる「経済事業」は農協の活動の根幹だが、大半の農協が赤字に悩んでいる。たけふは上部団体頼みを改めようと、卸業者などへのコメの直接販売を徹底し、資材の独自調達を進めた。そうして経済事業は黒字を維持し、農家も潤ったという。

必要なのはこのような挑戦を促しつつ、JAグループにすくう非効率を徹底的になくしていくことだろう。

JAグループは昨秋、全中を含む自己改革案をまとめたが、JAたけふが突きつけた問題に答える内容とは言い難い。政権側も個々の改革案について、事実やデータを示しながら必要性を丁寧に説明する必要がある。

政治ゲームにかまけている余裕はない。農業の強化は待ったなしの課題である。

毎日新聞 2015年01月23日

農協改革 農業再生の目的を貫け

農協改革を巡る与党の議論が本格化してきた。全国農業協同組合中央会(JA全中)の地域農協に対する統制力を弱める安倍政権の改革案に、農林族議員らが強く反発する構図になっている。

読売新聞 2015年01月20日

農協改革 全中の権限縮小をためらうな

農業再生のカギとなる農協改革が、正念場を迎えている。

全国に約700ある地域農協の頂点に立つ全国農業協同組合中央会(JA全中)の見直しについて、与党の自民、公明両党が今週、本格的な議論を開始する。

最大の焦点は、全中が持つ各農協への監査権の取り扱いだ。

全中は、全国の地域農協に対する監査を通じて、経営改善や他の農協との再編を求めることができる。監査費用などとして年80億円を集めており、監査権は全中の「力の源泉」と言われる。

強い権限を背景とした全中の画一的な経営指導が、地域農協の独自性を損ない、日本の農業の生産性が高まらない一因となっていることは否めない。

政府は、農協法を改正し、監査権を撤廃したうえで、全中を農協法に基づく組織から一般社団法人に改組する方針だ。安倍首相が、「抜本改革を断行する。全中には脇役に徹してもらう」と明言しているのは妥当である。

気がかりなのは、先の佐賀県知事選で、与党の推薦候補が農協系団体の支援候補に敗れたのを受け、農協改革への異論が勢いを増しつつあることだ。

自民党の稲田政調会長が、地元の福井市で地域農協幹部に農協改革を説明したところ、出席者から農協を悪者にしているのではないかといった声が出た。「今までの農政の失敗は自民党の責任だ」などの厳しい意見も相次いだ。

全中の万歳章会長は、「改革は自らの手でやり遂げる」との姿勢を変えていない。選挙結果を根拠に与党へ揺さぶりをかけ、農協改革に抵抗する構えだ。

だが、知事選では、農業政策に関する候補の主張に大きな違いは見られなかった。

与党候補の主な敗因は、候補者選定を巡る自民党本部と県連の調整不足や、候補の急進的な政治手法に対する関係団体や有権者の反発にあったと言えよう。知事選の結果によって、農協改革の方向性が否定されたわけではない。

与党はひるまず、抜本改革を実現するべきだ。

福井県の「JA越前たけふ」は、上部団体頼みを改めようと、農産品の販売や資材調達を独自に手がけ、収益を大きく向上させた。農協改革の眼目は、こうした取り組みを後押しすることにある。

安倍政権が重要課題に掲げる「地方創生」の観点からも、地域経済の活性化に資する農協改革を推進しなければならない。

産経新聞 2015年01月20日

農協改革 岩盤打破へ行動する時だ

岩盤規制を打ち抜く覚悟が本当にあるか。安倍晋三首相が、行動で証明すべきときである。

全国農業協同組合中央会(JA全中)の組織改革で、安倍首相は「中央会には脇役に徹してほしい」と語った。JA側との対決姿勢をあらわにしたものと受け止める。

先の佐賀県知事選で、地元JAが推す候補が与党推薦候補を破ったばかりだ。知事選敗北による与党内の動揺を抑え、改革断行の決意を示す狙いもあるのだろう。この姿勢は、貫いてもらわなくてはならない。

安倍政権は、統一地方選前の3月に改革を具体化する農協法改正案の国会提出を目指している。そのためには農業関係者との対話はもちろん、改革の意義を国民に丁寧に説明することが肝心だ。

首相と歩調を合わせ、自民党の稲田朋美政調会長が地元・福井の農業関係者に改革への理解を求めるなど調整に乗り出した。党内では20日から農協法改正の本格的な議論が始まる。

政府の改革案は、全国の地域農協に対するJA全中の指導・監査権限の廃止が柱だ。JA全中を経団連のような一般社団法人へと衣替えさせる方向である。

これに対しJA全中は、農協法に基づく位置づけを維持し、地域農協への影響力を温存できる自己改革案を示している。

問われるべきは、何のための改革かということだ。JAの既得権益を守ることではない。JAの政治力に配慮して及び腰になるようでは、来る通常国会を「改革断行国会」と銘打った首相の意欲にも疑義が生じることになる。

地域農協や個々の農家の経営の自由度を高め、知恵や工夫で地域の特色を生かした農業を育てていく。そうした政権の狙いを効果的に実現していくことを、議論の中心に据えなくてはならない。

「強い農業」の育成は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の今後を見据える意味でも先送りできない政策課題である。

これは農業生産者のためだけではない。国内で安全・安心な農産物を安定的に供給できる基盤を確立することは、自由貿易を深化させることと相まって、消費者にも恩恵をもたらすはずである。

衆院選で強い政権基盤を得た首相に求められるのは消費者利益を高めて経済の底上げを図る視点であり、その丁寧な周知である。

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