◆財政再建の道筋も明確に示せ◆
経済再生と財政再建の両立は、安倍政権の最重要課題である。
政府が2015年度予算案を決定した。一般会計総額は、14年度当初予算比0・5%増の96・3兆円と、過去最大に膨らんだ。高齢化による社会保障費の増大が主因だ。
地方創生や女性の活躍推進にも予算を重点配分した。国の活力維持を図る狙いは理解できる。
ただ、財政健全化への取り組みには課題が多い。財政規律のタガを改めて締め直したい。
◆地方創生に重点配分◆
安倍首相は、「一日も早い予算成立を目指し、全国に景気回復の成果を広げたい」と強調した。
経済対策を盛り込んだ14年度補正予算案とともに成立を急ぎ、経済政策「アベノミクス」を着実に前進させることが重要だ。
看板政策である「地方創生」では、東京一極集中を改める総合戦略に基づき、7200億円を計上し、地方での雇用拡大や起業を後押しする。
消費税率10%への引き上げを延期したことで財源不足が懸念された子育て支援策についても、保育所増設などに5000億円を振り向けた。少子化対策の一環として、女性が働きやすい環境を整備するのが狙いである。
地方の衰退や人口減少を放置すれば、日本の成長基盤は崩れてしまう。喫緊の政策課題に焦点を当て、予算配分にメリハリを利かせたのは適切だ。
公共事業費は、前年度とほぼ同額の5・9兆円台に抑えた。人手不足や資材価格の高騰を背景に入札が不調に終わるなど、事業が遅れがちな現状に配慮した。
老朽化した道路や橋などインフラの補修・更新などを優先させたことは評価できる。
防衛費は中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するため3年連続で増やした。厳しい日本の安全保障環境を踏まえた妥当な対応と言える。
沖縄関連では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を進めるための経費を、14年度の2倍の1700億円とした。
沖縄振興予算は、使い残しが目立ったことなどから5年ぶりに減額したが、それでも3300億円を確保した。
◆社会保障改革の断行を◆
気がかりなのは、厳しい財政事情への危機感に、「緩み」が見え始めたことだ。
典型的なのが、整備新幹線の予算だ。与党の要望に応え、北海道新幹線や北陸新幹線の開業・延伸を3~5年早めるために35億円を上積みし、755億円とした。
無理をしてまで急ぐ必要性があるのか、疑問は拭えない。
予算全体をスリム化するには、歳出の3割を占める社会保障費の膨張に歯止めをかけることが不可欠である。
介護保険サービスの公定価格である介護報酬を9年ぶりにマイナス改定するなど一定の前進も見られたが、社会保障費全体を見渡せば、まだまだ切り込み不足だ。
年金・医療・介護への社会保障給付は、今後も確実に右肩上がりで増えていく。社会保障制度を持続可能なものとするため、聖域のない見直しが必要となる。
経済力に応じた負担増や給付抑制など、痛みを伴う改革を断行しなければならない。
社会保障の財源を安定的に確保するには、消費税のさらなる増税に理解を得ることが大事だ。
◆実効ある健全化計画に◆
厳しい財政状況と改革の重要性について、政府は国民に丁寧に説明すべきである。
政府は、15年度の実質経済成長率の見通しを1・5%とし、今年度より4・5兆円多い54・5兆円の税収を見込んでいる。
新規国債発行額を4・4兆円減の36・9兆円にとどめ、歳入に国債が占める割合を示す国債依存度は6年ぶりに40%を下回る。
この結果、国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字を15年度までに半減させる政府目標は、とりあえず達成のメドが立った。
だが、所得税や法人税などの税収は、景気動向に大きく左右される。税収増だけに頼って財政再建のシナリオを描くのは難しい。
現在の歳出構造が続けば、20年度までに基礎的財政収支を黒字化する次の政府目標は、名目3%超の高い成長率を実現しても達成が難しいと試算されている。歳出の根拠となる諸制度の抜本的な改革は不可避である。
政府は、今年夏までに策定する財政健全化計画を実効性のある内容に練り上げ、財政再建の道筋をしっかりと示さねばならない。
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