27年度予算案 歳出効率化まだ足りぬ 迅速な執行で経済の好循環を

朝日新聞 2015年01月15日

新年度予算案 弱者へしわ寄せなのか

社会保障の予算は今や国の一般会計の3分の1近くを占め、さらに膨らみ続けている。

膨大な借金を抱える国の財政を立て直すには、その問題にどう対処するかがかぎとなる。

もらえる年金やサービスは抑えられる一方、消費税などによる負担は増える。国民にとって痛みの分配は避けられない。

国はそれで得られた財源をいかし、国債発行という将来世代へのつけ回しを減らす。同時に、必要な制度はきちんと充実させる。それが「社会保障と税の一体改革」のはずだ。

ところが安倍首相が消費税の再引き上げを先送りし、15年度に予定していた財源に穴が開いた。どう対応するかが、予算編成の焦点の一つとなった。

政権が予算案で示した解答をひと言でいえば、「所得の少ない人へのしわ寄せ」である。

低所得者向けに予定されていた三つの対策のうち、年金がらみの二つは丸ごと先送りされる。低年金者への給付金と、年金保険料の支払期間の短縮だ。介護保険料については軽くするが、当初より規模を大きく圧縮する。

これらは一体改革がうたう充実策のなかに位置づけられてきた。充実策全体の財源は国と地方合わせて1・8兆円の予定だったが、消費増税の先送りで1・3兆円余にとどまった。

「負担なくして給付なし」を貫き、一体改革を堅持した。財務省などはそう説明する。しかし、経済的な弱者を狙い撃ちする対応が、国全体にとってもプラスになるとは思えない。

デフレ脱却と経済活性化のためには、一部の豊かな人だけでなく、幅広い国民の消費を底上げする必要がある。低所得者を支えることも重要で、格差の拡大を防ぐことにもつながる。

社会保障と財政の今後を見すえても、得策とは言えまい。

消費税率を10%にしても社会保障費をすべてまかなうにはほど遠く、給付見直しと負担増の長く、険しい道のりは続く。ならば一体改革という枠組みにとらわれず、予算全体を厳しくチェックし、社会保障に回す努力が欠かせないはずだ。

この予算案にも首をかしげる項目が多くある。例えば、整備新幹線である。与党や自治体の要望で北海道など3路線の開業時期の前倒しを決めたが、国と地方が投じる公費が膨らむ危険をはらんでいる。

分野ごとの縦割りにしばられ、応援団がいる項目は認められる一方、声なき声は顧みられない。そんな予算編成を、いつまで続けるつもりなのか。

毎日新聞 2015年01月15日

15年度予算案 未来への道が見えない

政府が2015年度予算案を閣議決定した。税収はアベノミクスの効果などで24年ぶりの大幅な伸びを見込む。借金頼みの財政を健全化する絶好機であるはずだ。

読売新聞 2015年01月15日

15年度予算案 経済再生を着実に実現したい

◆財政再建の道筋も明確に示せ◆

経済再生と財政再建の両立は、安倍政権の最重要課題である。

政府が2015年度予算案を決定した。一般会計総額は、14年度当初予算比0・5%増の96・3兆円と、過去最大に膨らんだ。高齢化による社会保障費の増大が主因だ。

地方創生や女性の活躍推進にも予算を重点配分した。国の活力維持を図る狙いは理解できる。

ただ、財政健全化への取り組みには課題が多い。財政規律のタガを改めて締め直したい。

◆地方創生に重点配分◆

安倍首相は、「一日も早い予算成立を目指し、全国に景気回復の成果を広げたい」と強調した。

経済対策を盛り込んだ14年度補正予算案とともに成立を急ぎ、経済政策「アベノミクス」を着実に前進させることが重要だ。

看板政策である「地方創生」では、東京一極集中を改める総合戦略に基づき、7200億円を計上し、地方での雇用拡大や起業を後押しする。

消費税率10%への引き上げを延期したことで財源不足が懸念された子育て支援策についても、保育所増設などに5000億円を振り向けた。少子化対策の一環として、女性が働きやすい環境を整備するのが狙いである。

地方の衰退や人口減少を放置すれば、日本の成長基盤は崩れてしまう。喫緊の政策課題に焦点を当て、予算配分にメリハリを利かせたのは適切だ。

公共事業費は、前年度とほぼ同額の5・9兆円台に抑えた。人手不足や資材価格の高騰を背景に入札が不調に終わるなど、事業が遅れがちな現状に配慮した。

老朽化した道路や橋などインフラの補修・更新などを優先させたことは評価できる。

防衛費は中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するため3年連続で増やした。厳しい日本の安全保障環境を踏まえた妥当な対応と言える。

沖縄関連では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を進めるための経費を、14年度の2倍の1700億円とした。

沖縄振興予算は、使い残しが目立ったことなどから5年ぶりに減額したが、それでも3300億円を確保した。

◆社会保障改革の断行を◆

気がかりなのは、厳しい財政事情への危機感に、「緩み」が見え始めたことだ。

典型的なのが、整備新幹線の予算だ。与党の要望に応え、北海道新幹線や北陸新幹線の開業・延伸を3~5年早めるために35億円を上積みし、755億円とした。

無理をしてまで急ぐ必要性があるのか、疑問は拭えない。

予算全体をスリム化するには、歳出の3割を占める社会保障費の膨張に歯止めをかけることが不可欠である。

介護保険サービスの公定価格である介護報酬を9年ぶりにマイナス改定するなど一定の前進も見られたが、社会保障費全体を見渡せば、まだまだ切り込み不足だ。

年金・医療・介護への社会保障給付は、今後も確実に右肩上がりで増えていく。社会保障制度を持続可能なものとするため、聖域のない見直しが必要となる。

経済力に応じた負担増や給付抑制など、痛みを伴う改革を断行しなければならない。

社会保障の財源を安定的に確保するには、消費税のさらなる増税に理解を得ることが大事だ。

◆実効ある健全化計画に◆

厳しい財政状況と改革の重要性について、政府は国民に丁寧に説明すべきである。

政府は、15年度の実質経済成長率の見通しを1・5%とし、今年度より4・5兆円多い54・5兆円の税収を見込んでいる。

新規国債発行額を4・4兆円減の36・9兆円にとどめ、歳入に国債が占める割合を示す国債依存度は6年ぶりに40%を下回る。

この結果、国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字を15年度までに半減させる政府目標は、とりあえず達成のメドが立った。

だが、所得税や法人税などの税収は、景気動向に大きく左右される。税収増だけに頼って財政再建のシナリオを描くのは難しい。

現在の歳出構造が続けば、20年度までに基礎的財政収支を黒字化する次の政府目標は、名目3%超の高い成長率を実現しても達成が難しいと試算されている。歳出の根拠となる諸制度の抜本的な改革は不可避である。

政府は、今年夏までに策定する財政健全化計画を実効性のある内容に練り上げ、財政再建の道筋をしっかりと示さねばならない。

産経新聞 2015年01月15日

27年度予算案 歳出効率化まだ足りぬ 迅速な執行で経済の好循環を

衆院選でより強固な基盤を得た安倍晋三政権の大きな使命は、消費税再増税よりも優先させた「強い経済」の確実な実現である。同時に、増税を延期した以上、財政再建への覚悟を問われている。

14日に閣議決定された平成27年度予算案は、首相がいう「この道」の行方を示す第一歩となるものだ。26年度補正予算案と一体のものと位置付け、看板の地方創生や子育て支援などに重点配分し、一般会計総額は過去最大の96・3兆円に達した。

首相は「経済再生と財政健全化を同時に達成する予算になった」と語った。確かにその意図をうかがわせる点もみられる。

≪税収増を当てにするな≫

問題は、税収増を当てにして歳出を膨らませる従来の構図から、抜け出せていないことである。

再増税を延期するなかで、基礎的財政収支(PB)の赤字を半減する目標を達成できるのは前進といえる。ただ、それも税収増があればこそである。肝心の歳出効率化はなお不十分であり、財政規律の緩みを許してはならない。

近年、補正予算と合わせた歳出は100兆円規模に上る。リーマン・ショック後に一気に膨らんだ予算規模が、危機前の水準に戻る気配はみられない。当初予算で足りない分を、補正で安易に手当てする繰り返しは断つべきだ。

27年度予算案は、見込まれる税収が4・5兆円も増えるため、新規国債発行を36・8兆円に抑え、公債依存度は6年ぶりに40%を下回る38・3%となった。

表面上、財政状況が改善されたのは、27年度は景気回復で所得税収などが拡大することを前提にしているからだ。経済成長で歳入を増やし、財政再建につなげる戦略はアベノミクスの基本路線だが、成長への過度な期待は禁物だ。

歳出の3割超を占める社会保障費の伸びを抑制するなど、歳出改革を深化させなければ財政再建は夢に終わる。

首相はその社会保障分野で、高齢化で毎年増える医療や年金、介護の「自然増」を含む聖域のない見直しを行うと表明していた。

介護報酬引き下げなどは行ったものの、社会保障費は1兆円の大幅増で切り込み不足は否めない。消費税10%への再増税を先送りすることにしたのに、子育て支援など多くの充実策を計上した影響もある。目玉施策への重点配分は妥当だが、政策効果を厳しく見極め他の施策との取捨選択でメリハリを利かせる工夫がほしかった。

地方活性化も同様だ。自治体が地方創生の総合戦略を具体化する前に巨額予算を配分し、バラマキに陥る愚は避けねばならない。

地方税収が増えるなか、リーマン後の自治体の財源不足を補う地方交付税の「別枠加算」も、制度を残すこと自体、疑問が残る。

≪「黒字化」へ改革加速を≫

公共事業は全体では横ばいだが、整備新幹線の開業前倒しが盛り込まれた。国や地方の追加負担も伴うものだが、どれだけの経済効果を得られるのか。首相は丁寧に説明する必要がある。

中国が軍拡を進めるなか、防衛費の増額は妥当といえる。ただ、米軍再編関係費と政府専用機導入費を除くと0・8%の伸びにとどまっている。

南西諸島防衛の強化などは急務であり、国家や国民を確実に守るために必要な防衛力整備のあり方をさらに検討する必要がある。

政府は予算編成に続き、今夏には32年度の基礎的財政収支の黒字化に向けた計画を策定する。赤字半減は財政再建の一里塚にすぎない。10年後には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、目標を先送りする余裕はない。消費税10%でも達成困難な目標となる。

財政を健全化し、社会保障制度を安定化させることは、人口減少社会の経済的基盤を支えるという視点も忘れてはならない。支払い能力に応じて負担を求め、真に必要な人に重点的にサービスを提供しなければならない。痛みを伴ったとしても、歳出改革から逃げていてはその道筋は描けまい。

アベノミクスの恩恵は、まだ家計や地方に行き渡っていない。越年編成となった予算案の早期成立を図り、迅速かつ効果的な執行で経済の好循環につなぐべきだ。

4月の統一地方選を控え、地方重視を錦の御旗に政治的な歳出圧力を高める議論ばかり行われるなら、この国は立ち行かない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2064/