トヨタ特許公開 燃料電池車の新時代開け

読売新聞 2015年01月14日

トヨタ特許公開 燃料電池車の普及を促すか

自社開発の技術をあえて公開して市場全体の成長を促し、ビジネスチャンスを拡大する。

トヨタ自動車が、燃料電池車に関連する5680件もの特許を無償で公開するのには、こうした狙いがあるのだろう。

燃料電池車は、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、モーターを動かす仕組みだ。走行中に水しか排出しないため、「究極のエコカー」とも言われ、内外のメーカーが開発競争を展開している。

虎の子の技術を公開するというトヨタの大胆な戦略が、燃料電池車全体の普及促進につながるかどうか、注目したい。

かつて燃料電池車は「1台1億円」とも言われたが、トヨタは昨年、ライバル各社に先駆けて、700万円台の「MIRAI(ミライ)」の市販に踏み切った。

ガソリン車やハイブリッド車よりかなり割高だが、水素タンクを満タンにすれば約700キロ・メートルも走れる。実用に堪えられる性能を備えていると言えよう。

問題は、燃料を補給する水素ステーションをはじめ、本格的な普及に欠かせないインフラの整備が遅れていることだ。

多くのメーカーから燃料電池車が発売され、水素ステーションへの需要が高まる見通しが立たないと、インフラ投資も本格化しない。車の販売も低迷が続く悪循環に陥ることになろう。

ライバルに燃料電池車の開発・製造に本腰を入れてもらうことを優先し、トヨタが特許公開に踏み切ったのは理解できる。

トヨタは、ハイブリッド車の開発で先行した際には、特許を囲い込む戦略を取った。

日本では普及が進んだが、技術的に追いつけない海外メーカーが参入を見送ったこともあり、世界の新車市場でハイブリッド車の占有率は2%程度にとどまる。

こうした教訓も今回の決断の背景にあると見られる。

自社技術を公開する「オープン化」は、電機産業などを中心に広がっている。

例えば、米グーグルの開発したスマートフォン向け基本ソフト「アンドロイド」の無償公開は、スマホの開発コストを低下させ、世界的な普及を後押しした。

トヨタに続いて、ホンダが2015年度、日産自動車も17年度に燃料電池車の市販を計画している。各メーカーが切磋琢磨せっさたくまし、日本経済を支える自動車産業の発展を図ってもらいたい。

産経新聞 2015年01月12日

トヨタ特許公開 燃料電池車の新時代開け

世界で激しい競争を繰り広げる自動車メーカーとして、画期的な取り組みである。

トヨタ自動車が燃料電池車の普及に向け、燃料電池関連の全特許を無償提供する。他社の参入を促して、市場を早急に創りあげるのが狙いだ。

燃料となる水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、モーターを動かす燃料電池車は、走行中に水しか排出しない究極のエコカーである。

水素は次世代エネルギーの有力候補だ。その特許開放という英断が、トヨタの技術の世界標準化につながることを期待したい。環境先進国としての日本を海外にアピールする好機ともなろう。

トヨタは昨年末、世界に先駆けて燃料電池車の一般販売を始めた。ただ、高い価格や水素を補給するステーションの確保などが普及の課題となっている。

電気をつくる基幹部品など、同社が単独保有する約5680件の特許すべてを無償公開する。同社はこれまでハイブリッド車の関連特許なども公開してきたが、あくまでも有償が前提だった。

こうした「オープン化」は電機産業を中心に広がってきたが、自動車業界では極めて異例である。「虎の子」の技術の公開には、社内でも反対があったというが、それでも「水素社会はいろんな会社が参加してくれないとできない」(豊田章男社長)と判断して開放を決めた。

開発当初は「1台1億円」とされた燃料電池車だが、昨年売り出した「MIRAI(ミライ)」は723万円だ。政府も約200万円補助するが、それでも割高なのは否めない。

価格の引き下げや水素ステーション設置に弾みをつけるには、やはり海外メーカーを含めて参入を促して急速な普及が不可欠だ。

エコカー同士の競争激化も背景にある。米国の電気自動車のベンチャー企業であるテスラ・モーターズが昨年、電気自動車の自社特許の公開方針を示した。

トヨタも自社技術を世界に広め、燃料電池車の開発を促進させる思惑があろう。

トヨタの取り組みについて、燃料電池車の開発を進める日産自動車やホンダも歓迎している。日本の自動車業界は、高い排ガス技術で世界で確たる地位を築いた。

燃料電池車を、新たな幕を開く存在として育成してほしい。

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