自社開発の技術をあえて公開して市場全体の成長を促し、ビジネスチャンスを拡大する。
トヨタ自動車が、燃料電池車に関連する5680件もの特許を無償で公開するのには、こうした狙いがあるのだろう。
燃料電池車は、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、モーターを動かす仕組みだ。走行中に水しか排出しないため、「究極のエコカー」とも言われ、内外のメーカーが開発競争を展開している。
虎の子の技術を公開するというトヨタの大胆な戦略が、燃料電池車全体の普及促進につながるかどうか、注目したい。
かつて燃料電池車は「1台1億円」とも言われたが、トヨタは昨年、ライバル各社に先駆けて、700万円台の「MIRAI(ミライ)」の市販に踏み切った。
ガソリン車やハイブリッド車よりかなり割高だが、水素タンクを満タンにすれば約700キロ・メートルも走れる。実用に堪えられる性能を備えていると言えよう。
問題は、燃料を補給する水素ステーションをはじめ、本格的な普及に欠かせないインフラの整備が遅れていることだ。
多くのメーカーから燃料電池車が発売され、水素ステーションへの需要が高まる見通しが立たないと、インフラ投資も本格化しない。車の販売も低迷が続く悪循環に陥ることになろう。
ライバルに燃料電池車の開発・製造に本腰を入れてもらうことを優先し、トヨタが特許公開に踏み切ったのは理解できる。
トヨタは、ハイブリッド車の開発で先行した際には、特許を囲い込む戦略を取った。
日本では普及が進んだが、技術的に追いつけない海外メーカーが参入を見送ったこともあり、世界の新車市場でハイブリッド車の占有率は2%程度にとどまる。
こうした教訓も今回の決断の背景にあると見られる。
自社技術を公開する「オープン化」は、電機産業などを中心に広がっている。
例えば、米グーグルの開発したスマートフォン向け基本ソフト「アンドロイド」の無償公開は、スマホの開発コストを低下させ、世界的な普及を後押しした。
トヨタに続いて、ホンダが2015年度、日産自動車も17年度に燃料電池車の市販を計画している。各メーカーが切磋琢磨し、日本経済を支える自動車産業の発展を図ってもらいたい。
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