朝日新聞 2010年02月04日
高速無料化 小規模でも賛成できない
国土交通省が高速道路の無料化を一部区間で6月をめどに始めると発表した。利用者には喜ばしいが、多くの問題点を置き去りにして進めるやり方で、賛成はできない。
高速無料化は、昨夏の総選挙で民主党が政権公約の柱の一つにした政策だ。まず「社会実験」として全国の高速道路の2割弱に当たる37路線50区間、約1600キロを無料化の対象にするという。
無料化プランの責任者である馬淵澄夫国土交通副大臣は「地域に貢献するであろう路線を選定した。一定程度の経済効果を生むのではないか」と、記者会見で利点を強調した。
ドライバーには朗報で、対象地域の観光施設などにもプラスだ。しかし、政策には光と影の両面がある。さまざまな世論調査で、高速無料化に対する反対の声が多いのも、マイナスの影響を心配すればこそだろう。
高速無料化は基本的に自動車利用を増やす政策で、鳩山政権が力を入れようとしている温暖化対策と矛盾する。これはマイカーによる二酸化炭素の排出が増えるだけではない。
競合する鉄道や路線バス、フェリーなどの公共交通機関の経営にも響く。これらは本来、温暖化対策として強化すべきものだが、逆に圧迫されてゆく。存続が危ぶまれている地方の公共交通機関の経営には即座に深刻な影響が及び、通学や高齢者など地域住民の足が奪われる心配もある。
たとえば全国のJRで最小規模のJR四国は、路線維持のために節電など涙ぐましい経費削減の努力を続けてきた。高速を無料化されたら、「これまでの努力はひとたまりもない」と、松田清宏社長はいう。こんどの「実験」でも、競合する松山道と高知道が無料化の対象となるため、かなりの影響が避けられない。
深刻な財政難のなかで巨額の財源を投じ続けなくてはならないことも、高速無料化の大きな問題だ。
来年度の無料化に必要な予算は1千億円。鳩山政権は実験で効果や影響を検証し、2012年度に首都高速と阪神高速などを除く全国で原則無料化に移行する構えだが、それには毎年度最大1.8兆円の財源が必要となる。
経済効果といっても、高速道路沿線がにぎわう代わりに在来線沿いの地域がさびれるかもしれない。
鳩山政権は、この巨額のお金で社会保障や教育の強化など、もっとほかにすべきことがあるのではないか。
国の財政が赤字を垂れ流し続けている現状を考えれば、まずは高速無料化という政策を事業仕分けの対象として吟味することが先決だ。
無料にしてきた欧米の国々でも、環境対策から有料化の流れが強まっていることも考えてほしい。
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毎日新聞 2010年02月04日
高速無料化 社会実験と言えるのか
高速道路料金無料化の対象が発表された。地方の2車線区間を中心に37路線の50区間で実施する。合計距離は1626キロで、無料化の対象外としていた首都高速と阪神高速を除く全路線の約18%にあたる。
無料化のための予算が、概算要求の6分の1の1000億円に削られたことから、実験の規模が限定されるのは最初からわかっていた。
しかし、地方中心の細切れの区間で、社会実験と呼べるような成果が、期待できるのだろうか。
休日上限1000円による渋滞発生状況や、他の交通機関への影響などを考慮したというが、実験と言うなら、達成目標を立て、実際にどうなるのかを検証するという作業が必要なはずだ。なのに、どのような目標を設定しているのか、なぜこの路線と区間が選ばれたのかはっきりしない。
そもそも、高速料金の無料化は、物流などのコストを下げて、経済の活性化につなげることが目的だったはずだ。幹線からはずれた通行量の少ない部分開通した区間や、有料と無料が混在する区間での実験で、その効果をちゃんと測ることができるのか、疑問だ。
高速料金無料化は総選挙の際に民主党が掲げたマニフェストの中で柱となる政策だった。しかし、財源は足りない。公約違反と言われないようにするため、取り繕ったというのが実態ではないだろうか。
無料化は6月をめどに始め、休日上限1000円など現在の割引制度は廃止するという。ただし、距離にして8割強の区間で通行料金は値上げになるため、全国均一の車種別上限料金を設ける方針のようだ。
しかし、設定にあたっては、鉄道やバス、フェリーなどへの影響を十分に考慮する必要がある。無料化から受ける影響は限定的でも、上限料金の導入で、高速道路へのシフトが全国に広がり、休日だけでなく常態化する恐れもある。
また、高速料金の割引の原資として高速道路会社に投入されている資金を、高速道路の建設に回せるようにしようとする動きもある。必要な道路は建設すべきだが、経済効果が見込めない無駄な道路の建設に拍車がかからないか心配だ。
高速道路、新幹線、空港、港湾などの整備を、相互の関連性を考えずにバラバラに続けた結果、日本の交通政策は行き詰まりをみせている。交通機関の役割分担を考えたうえでの交通網の再構築も、政権交代で期待されているところだ。
公約違反とならないための取り繕いではなく、社会実験と呼ぶにふさわしいものになるよう、無料化に取り組んでもらいたい。
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読売新聞 2010年02月04日
高速道無料化 ほかに予算の使い道がある
前原国土交通相が、高速道路無料化の具体策を発表した。地方を中心に37路線の50区間が対象で6月から実施する。
昨年の衆院選で民主党が掲げた政権公約(マニフェスト)に基づく施策である。
当初の予定から大幅に縮小はされたが、なお、1000億円の予算が、高速道路会社の収入を穴埋めするためにつぎ込まれる。財政難の折、これだけのお金を使う価値があるとは思えない。政府は無料化を撤回すべきであろう。
民主党のマニフェストは、首都高速などを除く高速道路について段階的な無料化を進め、数年で全面実施するとしていた。予算は年1・3兆円とはじいていた。
だが、2010年度予算の編成作業で深刻な税収不足が判明し、国交省が当初、要求していた6000億円の無料化の予算は、1000億円に削られた。
これは当然である。各種世論調査では国民の多くが、無料化に反対と回答していた。渋滞の増加でかえって不便になりかねず、地球温暖化対策にも逆行すると判断したようだ。
無料化すれば、旧日本道路公団などが残した膨大な借金の返済も難しくなる。
民主党は、予算編成の最終段階で方向転換したが、ならば無料化を断念すべきではなかったか。
利用する車の少ない地方の高速道路を、細切れに約1600キロタダにしても経済効果は限られる。まるで公約を守るための、アリバイ作りとしか思えない。
むしろ1000億円は、ほかに有効利用すべきであろう。
現在、高速道路では、大都市圏を除き、土日祝日に限り「1000円走り放題」のサービスが実施されている。行楽客らには好評だが、週末に激しい渋滞が起きるなど、問題点も指摘されている。
このため、民主党はこれを廃止し、通行料金の上限を2000円などに設定して対象車種を広げたうえで、曜日にかかわらず実施する、といった新たな割引制度の導入を検討している。
「1000円走り放題」の費用は年2500億円だ。これに1000億円を加え、現行の料金制度を合理的に見直すための財源にしてはどうか。
景気の先行き不透明感が増すなか、料金の値下げ・割引が拡大すれば、経済活性化に役立つのは間違いあるまい。
渋滞緩和効果の大きい、首都圏の環状高速道路の整備などに充てるのも一考であろう。
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産経新聞 2010年02月07日
高速無料化 誤りの是正をはばかるな
民主党が政権公約に掲げる高速道路の原則無料化を前提に、国土交通省が実施する社会実験の具体的区間(全国37路線、50区間)が決まった。
実験とはいえ、実施費用として1000億円が来年度予算案に計上されている。概算要求時の6分の1に大幅減額はされたが、厳しい財政事情の中で決して小さい額ではない。
確かにこの無料化政策には、マイカー利用者や観光事業者などに期待感が強いのも事実だ。だが、フェリーや鉄道など区間が競合する他の交通機関は死活問題だと猛反発しているほか、本来なら歓迎の側に回るはずのトラックや高速バス事業者なども無料化にはそっぽをむいている。
渋滞の激化を通じて運行ダイヤへの深刻な影響が懸念されるからだ。民主党は2・7兆円の内需拡大効果をはじいているが、車の排ガスが増えれば環境への悪影響も無視できず、むしろ景気にはマイナスだとする声もある。
首相も国交相も、社会実験を進める前に、国民が納得できる説明を尽くす必要があるし、それができないなら、直ちに政策そのものを取り下げるべきだろう。
実験区間は、無料化の対象外である首都高速と阪神高速を除く高速道路網全体の2割近くをカバーしている。だが他の交通機関との競合区間を避けたことで、結果として大都市圏の主要幹線は対象から外れ、比較的交通量が少ない地方の区間が中心となった。
実験区間も全国的に網羅したとしているが、最長区間でも139キロにすぎず、虫食い状態に散在している。社会的な影響や効果を見定めるのが実験の目的だとすれば、不十分さはぬぐえない。なにより利用者にも有料区間と無料区間の区別がつきにくく、混乱を招くのは必至である。
実施時期が6月ごろまでずれ込むのも、有料・無料の区間が複雑に入り組むため、自動料金収受システム(ETC)プログラムの改良や利用者への周知に時間がかかるためだからとされている。
国交相は今後も対象区間を段階的に拡大し、完全無料化につなげたいと明言する。その場合に不要となる料金所やETCの扱いはどうするのか。2兆円は下らないとされる無料化に必要な財源対策も手つかずのままだ。問題放置のまま巨費を投じるのは、まさに民主党政権がもっとも忌避すべき政策スタイルではなかったのか。
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