日本の活路を切り開く年に 成長力強化で人口減に挑もう

朝日新聞 2015年01月05日

日本経済の課題 暮らしを守る脱デフレに

「デフレからの脱却」。第2次安倍内閣の発足以来の、日本経済を語る際のキーワードだ。日本は90年代末以降、物価が下がり続けるデフレに苦しんだ。デフレからの脱却は確かに必達の目標である。

しかし、金融緩和で物価を押し上げることが果たして好ましいのか。企業がきちんと利益をあげて働く人の賃金が増え、その結果、消費が活発になって物価も上がっていく。求められるのはそんな経済の姿だろう。

物価が将来どれだけ上がると考えるか、人々の期待(予想)に働きかける政策から、実需を見る政策へ。経済のかじ取りを切り替えるべきではないか。

デフレの時代は物価だけでなく賃金も下がった。連合によると、ピークだった97年の年間賃金水準を100とした場合、13年は86・1だ。景気悪化でもうからない企業が賃金を抑え、それが消費の低迷を招いて物価が下がり、さらに企業収益が悪くなるという悪循環に陥った。

さらに問題なのは、所得の格差が広がったことだ。

厚生労働省によると、日本の全世帯を所得の多寡で五つに分けると、93年には、最も所得の高い層の世帯が日本全体の所得の35・7%を得ていたが、11年には43・9%に上昇した。富の集中が進んだわけだ。

一方で、年収200万円以下の働き手が1100万人を超え、住民税が非課税となる低所得世帯の人が2400万人を数える。かつて日本経済を支えた中間層が細り、低所得層が増えた。それが、日本経済のいまの姿である。

だからだろう、政府や日銀は企業の賃上げを重視している。円安で輸出企業では業績が改善し、経団連もベースアップを容認する姿勢を示している。

デフレの悪循環を抜けるには、賃金の底上げによる所得増と、格差の是正が大きな役割を果たすはずだ。

大切なのは、日本の勤労者の7割が働き、大企業に比べて賃金水準が低い中小企業で賃上げが進むことだ。そのためには中小企業が稼ぐ力を持つことが前提になる。

これまでに中小企業7千社を訪ねたという法政大大学院の坂本光司教授(中小企業経営論)によると、景気の波にかかわらず黒字を続けている中小企業が1割程度あるという。

他社にない新商品の開発を続けて増収増益の食品メーカー、ネットで顧客を全国から集めるシャッター通りの果物店。業種も立地も様々だ。共通するのは社員や取引先、顧客など多くの人を満足させていること。坂本教授はそう考えて「人を大切にする経営学会」を14年9月に立ち上げた。

余裕がある企業だから「人を大切に」できるのかもしれない。しかし、賃金カットが常態化したデフレ時代の発想とは明らかに異なる。社員を大切にしたいから付加価値の高い商品やサービスの提供に知恵をしぼる。そんな営みに、目指すべき企業像のヒントがありそうだ。

坂本教授のいう「1割の企業」をいかに増やしていくか。研究開発の後押しをし、新しいアイデアを持ったベンチャーを支援する。過剰な保護はやめる。最低賃金を引き上げ、中小企業に賃上げを迫るべきだという指摘も検討に値するだろう。この分野には、まだ取り組むべき課題がある。

翻って、政府・日銀は、物価上昇にこだわりすぎではないか。「デフレ脱却こそ景気回復への道」という立場で物価上昇率を追えば、人々の暮らしが置き去りにされかねない。

日銀は13年4月に「2年で物価上昇率2%」という目標を掲げて「異次元」の金融緩和に踏み切った。その時点でマイナスだった物価上昇率は2カ月後の6月にはプラスに転じた。その後は原油安もあって、日銀の期待ほどには物価は上がりそうにない。しかし、「2年で2%」に届かなければ、デフレに逆戻りというわけでもないだろう。

日銀は目先の物価上昇率にこだわりすぎず、政府は日銀が大規模な金融緩和(国債の大量購入)を終えるのに必要な財政再建の道筋を描く。それが政府と日銀がいま、やるべきことだ。

金融緩和と財政出動に続く「第3の矢」である成長戦略にも期待が集まるが、そこに特効薬があるわけではない。全国400万近い中小企業の生産性を高める作業は、時間がかかる地味なものだ。しかしそれこそ、日本経済全体の成長力を底上げするには欠かせない。

2020年代になれば、団塊の世代が後期高齢者となり、ますます社会保障費が膨らみ、財政事情も厳しくなる。高齢化は確実に進む。それまでに、日本の財政、金融政策、そして経済の体質を健全な姿にしていく。

2015年を、そのスタートの年にしたい。

読売新聞 2015年01月05日

日本経済再生 アベノミクスの真価問われる

◆「好循環」の目詰まり解消を急げ◆

デフレ脱却を果たし、日本経済再生の足がかりを築けるか。

安倍首相が「この道しかない」と訴えた経済政策「アベノミクス」が、真価を問われる1年となろう。

もたつく景気を上向かせる。企業の成長力を高め、地方衰退を食い止める。人口減少や少子高齢化に対応しつつ、危機的な財政の立て直しに道筋を付ける。どれも先送りできない喫緊の課題だ。

日本復活へ、官民が力を総動員することが不可欠である。

◆バラマキでは解決せぬ◆

アベノミクスは、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間活力を引き出す成長戦略の「3本の矢」で、円安・株高や企業業績の回復などで一定の成果を上げた。

ところが、昨年4月に消費税率を8%に引き上げた後、個人消費が冷え込み、景気は減速した。

昨年の春闘で賃上げ率は15年ぶりに2%台に乗せたが、消費増税分を含めた物価上昇に追いついていない。円安による原材料高で、苦境に立つ中小企業も多い。

野党などは、アベノミクスで大企業と中小企業、都市と地方の格差が拡大していると批判する。効果の波及が遅れている面は否めないが、かつて民主党政権が行ったようなバラマキ策では、根本的な解決にはつながるまい。

企業の利益拡大を支援し、恩恵を非正規労働者や地方にも浸透させる。民間の頑張りを活性化のエンジンと位置付けるアベノミクスの基本戦略は妥当だろう。

問題なのは、好業績の企業が利益を賃上げや設備投資に回し、さらなる成長へつなげる「好循環経済」への流れが、目詰まりを起こしていることである。

◆攻めの経営に転じたい◆

デフレ経済では、モノの値段が下がり、持っているお金の価値は上がる。個々の企業にとっては、リストラに励み、余剰資金をため込む「守りの経営」は、一つの合理的な選択肢となる。

だが、人材や設備への投資に二の足を踏んでいるうちに、肝心の事業基盤は衰えてしまう。

日本企業の内部留保(利益剰余金)は総額300兆円を超えている。経済規模を示す名目国内総生産(GDP)は、20年前と同水準だ。攻めの経営に転じ、「縮小均衡のワナ」を脱しないと、日本産業の競争力は失われかねない。

新規事業に前向きな企業を後押しするため、政府は法人税実効税率の引き下げや規制緩和など、成長戦略を着実に実行すべきだ。

農業や医療、雇用など「岩盤規制」の切り崩しは、各府省や関係団体の抵抗もあり、踏み込み不足である。地方創生や女性活躍の促進も待ったなしだ。

安倍政権は、昨年12月の衆院選で得た支持を、改革断行の推進力として生かさねばならない。

自由貿易を一層拡大し、アジアなど成長市場の需要を取り込むため、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の妥結も急がれる。

今年は、日銀が掲げた脱デフレ目標の期限を迎える。

異次元の金融緩和策は、消費者物価上昇率を「2年で2%」とすることを目指している。達成を確実にするため、日銀は昨年10月、追加金融緩和に踏み切った。

円安がさらに進み、食品などの輸入価格は上昇したが、消費増税分を除いた11月の消費者物価上昇率は、0・7%にとどまった。2%への道のりは険しい。

最近の原油安は日本経済にとって望ましいが、短期的にはデフレ色を強める要因となる。

対応は難しい。緩和策の追加などのしゃく定規な対応を取るだけでは、さらなる円安が原材料コストを押し上げ、景気への悪影響を助長する恐れがあろう。

◆現実的な財政再建策を◆

日銀は金融緩和の手段として、年80兆円のペースで国債保有を増やしている。これが、日銀による財政赤字の穴埋めと受け取られるリスクにも、注意を要する。

消費税率10%への引き上げが2017年4月に先送りされ、20年度までに国と地方の基礎的財政収支を黒字化する財政再建目標の達成は、一段と厳しくなった。

日本の国債に対する信認が大きく揺らいでいるわけではないが、油断は禁物である。

首相は新たな財政再建計画を、今夏までに策定すると表明している。現実的で実効性のある内容とすることが重要だ。

基礎的財政収支の黒字化は、財政健全化の最終目標ではない。膨らみ続ける巨額の債務残高を減少に転じ、財政破綻の危機を回避する。その決意を、首相は明確に示すべきである。

産経新聞 2015年01月05日

経済再生 日本型成長の再確立急げ 財政再建との両立が基盤だ

足踏みしている景気を早急に回復軌道に戻し、力強く持続的な成長につなげられるか。日本経済は今、その岐路に立っている。

消費税の再増税を先送りして得た時間を無駄にせず、確実に経済再生を果たす責務を、安倍晋三政権が負うのは論をまたない。

同時に問われるのは、民間の底力だ。政府に頼るばかりでは、国力の基盤となる「強い経済」の実現は到底望めまい。

足元の経済低迷に萎縮せず、長きにわたるデフレで染みついた縮み思考から完全に抜け出すことが肝要だ。日本型の新たな成長モデルを確立すべき時である。官民でその決意を新たにしたい。

≪内需主導で底上げ図れ≫

安倍政権の2年間で浮き彫りになったのは、デフレ下での構造の変化に伴う経済の脆弱(ぜいじゃく)さだ。

例えば、中長期的にどれほど成長できるかを示す潜在成長率は0%台半ばにとどまっている。

企業が設備や人員を削減するリストラを続け、モノやサービスを生み出す力が落ちたことが背景にある。建設現場やサービス業の人手不足は、持続的成長を阻む供給面の制約となっている。

輸出主導の成長にも多くは期待できなくなった。海外事業を展開する企業は、量的緩和に伴う円安で収益を高めたが、過去の円高局面で海外生産を増やしたため、輸出数量は伸び悩んだままだ。

かつてのように輸出頼みで国内全体が潤う状況ではない。裏を返せば、内需主導で経済を底上げできなければ、アベノミクスの恩恵は全国に行き渡らない。

これらを踏まえれば、今なすべきことは明らかである。

業績が改善された企業は、設備投資や研究開発で生産性向上、技術革新に全力を挙げてもらいたい。継続的な賃上げも不可欠だ。いつまでもデフレ時代の守りの経営を続けるわけにはいかない。

内需型の中小・零細企業が多い地方では、サービス業など地域に根ざした非製造業の収益力をどう高めるかがカギだ。高い成長を見込める産業はいくつもある。

例えば観光だ。昨年、訪日外国人は初めて1300万人を超えた。政府は地方創生の「総合戦略」で外国人旅行者の消費を年間3兆円に増やす目標を示した。円安も追い風だ。地域特性を生かす知恵や工夫を凝らしてほしい。

農業も生産から加工、流通・販売まで手がける6次産業化などで攻めに転じたい。地方が多様な産業を育成することが、安定した成長につながる。

言うまでもなく、こうした民間活動を成長戦略で後押しする政府の役割は大きい。昨年末に決まった法人税の実効税率引き下げはもちろん、やるべきことは多い。

首相には「岩盤規制」を打ち抜く実行力や、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を妥結に導く指導力が求められる。安全性が確認された原発の再稼働も円滑に進める必要がある。

≪着実に成果積み上げよ≫

金融・財政政策と比べ、成長戦略が効果を発揮するには時間がかかる。平成29年4月の消費税再増税に耐え得る経済を実現するため、今から着実に成果を積み上げていく必要がある。

日本の課題の多くは欧米にも共通する。経済の長期停滞論が関心を呼び、所得格差も強く意識されている。特に欧州は、債務危機が峠を越した後も投資に力強さが戻らず、低成長とデフレ懸念が悩みの種だ。こうした問題への明確な処方箋は描き切れていない。

長びくデフレに苦しみ、少子高齢化に伴う人口減少問題に直面する日本は「課題先進国」である。その日本が新たな成長モデルを構築できるかどうかは、台頭が著しい中国経済に対し、先進国の成熟経済がどう対抗できるかを考える上でも重要な示唆を与えよう。

もうひとつ、成長を考えるうえで忘れてはならないのは財政再建との両立だ。消費税の再増税延期を決めた以上、成長による税収増に期待するだけでなく、歳出効率化を徹底すべきは当然だ。

政府は今夏、32年度の基礎的財政収支黒字化に向けた具体策をまとめる。財政を立て直し、社会保障制度を維持することは、経済の中長期的な成長を実現するために欠かせない基盤である。

個別分野ごとの痛みを伴う議論も、避けては通れない。衆院選で力を得た首相には、大胆な決断を求めたい。

読売新聞 2015年01月01日

日本の活路を切り開く年に 成長力強化で人口減に挑もう

ようやく見えてきたデフレからの出口を再び見失うことなく、日本を再浮上の確かな軌道に乗せなければならない。今年はまさに正念場である。

昨年末の衆院選で圧倒的な信任を得た安倍政権は、より強固になった基盤を生かし、経済再生を最優先に、社会保障、外交・安全保障など政策課題への取り組みを、一段と加速させる必要がある。

今年は戦後70年にあたる。戦後の復興期に産声を上げた1947~49年生まれの「団塊の世代」は全員、65歳以上の高齢者となる。老人が増える一方で、日本の総人口は2008年をピークにすでに減少に転じている。

少子高齢化に伴う人口減少に歯止めをかけ、国の活力低下を防がねば、日本の未来が危うい。

東西冷戦の終結から四半世紀。国際秩序は新たな危機を迎えている。米国の影響力の低下、中国の台頭、横行する国際テロ活動、グローバル経済の動揺――。日本の安全を脅かしかねない事象が次々に起きている。

内外ともに重要な局面にある中で、平和で安定した国民生活の維持へ、活路を切り開いていく節目の年としたい。

◆アベノミクスの補強を◆

「アベノミクス」継続の是非が争点となった衆院選で、有権者は与党の主張に軍配を上げた。だが、地方や中小企業では恩恵が実感できていないなど課題も多い。

政策の足らざる点を大胆に修正しながら、経済の安定回復の実を上げなければならない。特に急を要するのは成長戦略の強化だ。

アベノミクスは、人々の心に長年染み付いた縮み志向のデフレマインドを払拭し、前向きの動きを呼び起こす「動機」を強めることに重きを置いた政策だ。

「第1の矢」である金融緩和でモノの値段が上がりやすくし、「第2の矢」の財政出動で景気が上向くきっかけを作る。

そのうえで、企業や個人が創意工夫を生かして新しいビジネスに動き出せるよう、後押しするのが3本目の矢の成長戦略だ。

肝心の3本目の矢が不十分では、第1、第2の矢は無駄射ちに終わってしまいかねない。

安倍首相は岩盤規制の打破を掲げる。産業の新陳代謝を促す規制改革を成長戦略の柱に据える手法は正しいが、中身は不十分だ。

農業、医療などの分野で、もっと大胆な改革の姿を示さないと、人々に挑戦心は生まれまい。

安全性が確認された原子力発電所の再稼働や、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の決着も、企業が将来の経営環境を見通しやすくするために、欠かせない。

企業経営者も、そろそろ積極姿勢に転じてはどうか。

上場企業の今年3月期決算は、3年連続の増益で過去最高をうかがう利益水準となる見通しだ。

この利益を、賃上げや雇用増を含むヒトへの投資や、新たなビジネスに有効に使いたい。政府も、賃上げした企業の税負担を軽減するなどして、後押しすべきだ。

◆雇用充実が活力の源泉◆

成長戦略の充実は、人口減への対応としても極めて重要だ。

バブル崩壊後の日本経済低迷の底流には、人口動態の変化がある。15歳以上65歳未満の生産年齢人口は、総人口に先立って90年代をピークに減少が始まった。

働き盛りの人の数が減れば、生産力も購買力も低下し、成長力を損なう。90年代初めに3%台だった日本経済の潜在成長率は、今や0%台半ばとされる。

人口減が進行する中で成長を維持していくには、まず働く人を確保することだ。女性や高齢者が働きやすい環境を整えるべきだ。

若者や女性に多い非正規労働者の処遇改善も欠かせない。働く場の拡大と働きに見合った報酬の充実が、社会に活力を生む。

人口減は都市部に先行して地方で始まり、スピードも急だ。中小企業や農業など、地場の産業を活性化して若者の雇用の場を確保することが何より大事である。

国民が安心して暮らせる社会を維持するには、社会保障制度の改革も急務だ。

出生率を高め、人口減に歯止めをかけるためにも、子育て世代への支援など、少子化対策を充実させる必要がある。

日本の児童・家族向け支出の対国内総生産(GDP)比率は1%台で、少子化対策で成果を上げるスウェーデンやフランスの3%台と比べて低い。高齢者向け施策への支出が手厚いのと対照的だ。

限られた財源を、未来への投資である少子化対策に、より多く振り向けていく必要がある。そのためにも、医療・介護の分野では、公的支出の効率化を進めたい。

身近なかかりつけ医の充実で、高齢者の大病院での診療、入院を減らし、安価な後発薬の利用を増やす。医療水準を維持しながら支出を節約し、必要な施策に回す工夫を凝らすべきだ。

1000兆円超の借金を抱える国の財政状況は、放置すれば日本経済の信認を損ない、返済負担のツケが次世代にのしかかる。

消費税率の10%への引き上げ先送りを決めた安倍首相は、20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標は堅持し、今夏までに達成のための計画を策定すると宣言した。確実に実行し、財政健全化の一歩を踏み出さねばならない。

◆台頭する中国に備えよ◆

ロシアによるクリミア編入の強行、中東での過激派組織「イスラム国」の拡大など、既存の国境線に象徴される戦後の国際秩序が、大きく揺らいでいる。

東西冷戦の終結で、自由と民主主義の旗頭である米国を中心にした、安定した国際秩序が実現すると期待された。だが、現実は、その米国の相対的な影響力の低下により、混迷を増しつつある。

国際秩序が崩壊すれば、日本の安全も損なわれる。とりわけ、アジアで突出した軍事・経済力を背景に海洋進出の動きを強める中国の行動には、警戒を怠れない。

昨年11月、安倍首相と習近平国家主席による、約3年ぶりの本格的な首脳会談が実現したのは、関係修復の一歩だ。だが、中国は依然、力による現状変更を目指す姿勢を改めていない。

尖閣諸島周辺での中国の危うい行動に自制を求めると同時に、自衛隊と中国軍の間の海上連絡メカニズムの整備など、信頼醸成の努力を続ける必要がある。

中国経済は今、製造業や不動産投資中心の高度成長から、サービス業や消費を主体にした安定成長への移行期を迎えている。

中国が、日本の官民の経験に学び、双方に利点のある形で日中連携を進めるなら、「戦略的互恵関係」の構築にも役立とう。反面、産業構造の転換に伴う国内の不満をそらすため、強硬な対外姿勢を加速させるなら、危険が増す。

日本は、米国との同盟や、オーストラリアなど価値観を同じくする周辺国との連携の強化で、中国の行動に備える必要がある。核や弾道ミサイルの性能を高める北朝鮮の動きも、不気味だ。

安倍政権は昨年、集団的自衛権行使の限定容認を閣議決定した。今年はそれを受けた安全保障法制の整備を確実に進めなければならない。平時から有事まで、切れ目のない対応を可能にしておくことが、日本の安全に不可欠だ。

◆欠かせぬ日米同盟強化◆

日米同盟による抑止力維持と沖縄の基地負担軽減の両立へ向け、米軍普天間飛行場の辺野古移設を実現することも肝要だ。

集団的自衛権や辺野古移設には一部の野党の反対も根強いが、着実に歩を進める必要がある。

首相は、自民党の「1強」状況にあぐらをかくことなく、野党の説得や国民への説明を、これまで以上に丁寧に行うべきだ。

戦後70年の今年は、日本が歴史認識を改めて問われる場面も予想される。

慰安婦の強制連行などいわれなき誤解を解く努力を続ける一方、13年末の首相の靖国神社参拝のように、中国や韓国に対日批判の口実を与える行動は慎みたい。

日本の国際的な評価を高めるには、アジア太平洋地域だけでなく、地球規模の問題への対応にも貢献していくことが重要だ。

インターネットを駆使して世界中から若者を勧誘し、国境を無視して勢力を拡大するイスラム国は、国際秩序にとってまったく新しい形の脅威だ。欧米やアジアへテロが拡散しつつある。

活動を支える資金や人の流れを遮断するため、日本も具体的な対策での連携に力を尽くしたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2057/