米国防政策 アジアの変化に注目を

朝日新聞 2010年02月03日

米国防見直し 多様な脅威に協調強めよ

グローバル化が進む世界で、米国は新たな脅威にどう対応していくか。米オバマ政権による初めての国防政策の見直し報告(QDR)は、国際協調がキーワードだ。

「当面の戦争」が重くのしかかる。アフガニスタンの先行きは見えない。イラクも安定化にはまだほど遠い。7千億ドルを超えた国防費も、財政難からいずれ削減せざるをえないだろう。ゲーツ国防長官は、中東と東アジアでほぼ同時に発生する二つの大規模地域紛争に備える、という冷戦後の戦略を「時代遅れ」と切り捨てた。

国際環境は複雑になる一方だ。中国やインドなどの台頭で世界の力の軸は拡散している。アルカイダのような国家とは異なる組織や個人が大量破壊兵器を入手する懸念も高まっている。

気候変動についても、世界の不安定化や紛争を加速する新たな要因になりうる。テロリストによるサイバー攻撃など様々な脅威が混合した「ハイブリッドな戦い」への備えが求められていると見直し報告はいう。

こうした様々な脅威に、米国は一国では対応できない。米国の強さと影響力は、国際機関や同盟関係、友好関係など各国との協調にかかっているとしている。単独行動主義だったブッシュ前政権からの転換は鮮明だ。日本や欧州をはじめ主要な同盟国も歓迎できる妥当な選択である。

「地球規模の公共財(グローバルコモンズ)」の確保を強調しているのもこのQDRの特徴だ。公海での航路やインターネットなどの情報空間、宇宙空間などを指す。

一国で管理することはできず、阻害されると米国はもちろん世界が影響を受ける。こうした「公共財」は安全保障に欠かせない、という視点である。

ハイテク兵器と情報網を誇る米国だが、急速に軍事力を増強している中国に対しては、その意図に疑問を投げかける。中国の衛星攻撃能力やサイバー攻撃能力が国際秩序全体への脅威になりかねないと見ているからだ。

ただ、これからの時代の安全保障のルールは米国一人で決めるべきものではない。日本をはじめ同盟国や友好国とのいっそうの連携が必要になる。共通のルール作りに向けて、グローバルな影響力を持つ中国やインドとの対話も進めていかなければならない。

ブッシュ政権が熱心だったミサイル防衛の位置づけも変わった。QDRとともに発表された弾道ミサイル防衛報告では、核開発を進める北朝鮮やイランを対象にしたミサイル防衛は進めるが、核軍縮を促すためにロシアには情報の共有などで協力する方針を示した。中国とも協議していくという。

核拡散を食い止めることはオバマ政権の戦略の柱だ。国際協調を基本に大胆に取り組んでほしい。

毎日新聞 2010年02月03日

米国防政策 アジアの変化に注目を

ゲーツ米国防長官は「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)の序文で「これはまさしく戦時のQDRだ」と語った。報告書冒頭には「米国は戦争している国だ」という文言もある。米国防総省が発表した2010年版QDRは、アフガニスタンでの米軍の苦境などを反映してか、強い危機感に満ちている。

今回のQDRの特徴は、二つの紛争に対応する「二正面作戦」が明確に「時代遅れ」とされたことだろう。対テロ作戦をさらに重視するとともに、アフガンやイラクでの「今日の戦争」に勝つとする戦略には基本的に賛成できる。

「二正面作戦」からの脱却は、オバマ政権になる前から論じられてきた。冷戦後想定された戦場はアジアと中東または欧州だが、ゲーツ長官は「既に二つの軍事作戦(アフガンとイラク)を行っている。別の紛争に直面したらどうするのか」という論法で「二正面」をしりぞけた。

確かに戦いの構図は単純ではない。今のイラクやアフガンは、反米武装勢力はいても、国家として米国に刃向かう存在ではない。01年の9・11テロ以降、ブッシュ政権が「テロとの戦争」を国家間の戦争とは異なる「非対称の戦い」と呼んだ経緯もある。欧州ではクリントン政権のユーゴスラビア攻撃(99年)以来、大きな紛争は起きそうもない。

「二正面」で構える必要性は特になさそうだが、事実上過去のものになっている作戦の転換を表明しても、事態は大きく変わるまい。米国がアフガンなどに力を入れるのはいいが、アジアでは同盟国の日本が北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされている現実も直視してほしい。

報告書はオバマ大統領の「核兵器なき世界」の理想を踏まえつつ核戦力の維持を確認した。オバマ政権が予算教書で核政策費を大幅に増やしたのも、核抑止力の維持と核拡散防止への意欲の表れだろう。QDRで「核の傘」を含めた日韓への「拡大抑止」の提供に言及したのは日本を守る意思表明として歓迎したい。

他方、QDRは中国の軍事力増強と装備近代化、サイバー攻撃能力などに懸念を示した。米国が最強の存在であり続けるにせよ、同盟国や関係国との協力がますます必要になっているという。中国とインドの台頭が、アジアの国際秩序を変えつつあるという米国の認識を、日本も共有しなければなるまい。

台湾への武器供給をめぐる米中摩擦も続いているが、米中が争ってはアジアは安定しない。G2とも呼ばれる両国の間で日本が関係を取り持つ選択肢があるのかどうか。QDRは日本の立ち位置や外交力、アジアの将来像も考えさせる。

読売新聞 2010年02月03日

米国防計画 重要性を増す日米同盟の強化

安全保障環境が厳しさを増す中、同盟国との連携を重視する米国の国防戦略指針が示された。

米国防総省が、オバマ政権下で初めて発表した「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)は、国防戦略の最優先課題に、アフガニスタンとイラクにおける戦争の勝利を掲げた。

国際テロ組織アル・カーイダを粉砕する持続的な作戦の必要性も指摘した。テロとの戦いを完遂する決意を表明したものだ。

紛争の予防と抑止のために米国は、軍事力や外交など、総力をあげるとし、いかなる有事にも万全な備えをとると強調した。

今回のQDRは、中国やインドの台頭や、テロ、核拡散などの脅威の拡大によって、米国が安全保障環境の大きな変化に直面している現状を踏まえている。

多様化する脅威への対応に力点を置き、同盟国や友好国との緊密な協力を力説した背景には、米軍の優位が相対的に低下しているとの認識がある。

QDRは、透明性を欠く中国の軍拡路線に、前回同様、強い警戒感を示した。弾道ミサイルや攻撃型潜水艦、サイバー攻撃能力、対衛星兵器の開発・配備などを列挙し、その「長期的な意図に多くの疑問」が残ると指摘している。

核武装国家の不安定化や崩壊によって核拡散が一気に進む恐れにも言及した。国際テロ組織の跋扈(ばっこ)や、北朝鮮による核実験と長距離弾道ミサイル発射、イランの核開発を強く懸念してのことだ。

多様な脅威の拡大は、米軍の前方展開や核による抑止力の弱体化をもたらしかねない。日本の安全保障にも重大な影響が及ぶ。日米の綿密な擦り合わせが必要だ。

東京では、日米安保条約改定50周年に合わせた同盟関係深化のための局長級協議が始まった。

QDRで示された中国の軍備増強や北朝鮮の核開発に対する脅威認識を、今後の協議に反映させていくことが重要だ。中国軍の急速な近代化を踏まえれば、自衛隊と米軍の連携を強化し、抑止力を高める努力が欠かせない。

QDRは、在日米軍再編計画を着実に実施し、「長期間にわたる日本駐留とグアムの再編」を確実に履行する方針を打ち出した。

アジアと世界の安全保障環境に関して日米が認識を共有し、役割分担と協力を検討する戦略対話を重ねることが大切だ。

同時に、その議論を可能にするには、普天間飛行場の移設問題の5月決着が不可欠となる。もはや先送りは許されない。

産経新聞 2010年02月03日

米国防見直し 日本も対中認識共有せよ

米国防総省が発表したオバマ政権初の「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)報告は、中国の軍拡の意図や勢いに正面から疑念を提示し、同盟国との連携による対応を強く呼びかけたのが特徴といえる。

オバマ政権として一定の対中協力にも配慮しつつ、安全保障面で警戒と備えを高める方向へかじを切ったと受け止めるべきだろう。

日米同盟を「基軸」とする鳩山由紀夫政権もこうした認識を共有し、同盟深化協議に正しく反映させる必要がある。首相は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題の早期決着によってその第一歩を踏み出すべきだ。

QDRは20年単位の長期国防戦略指針だ。1997年に始まり、今回で4度目になる。国防戦略の基本を「二正面戦略」から、テロや核拡散など多様な事態への即応態勢に転換し、中国、インドの台頭など21世紀の安全保障環境の変化への適応も掲げている。

同盟国として注目すべきは、地球規模で存在感を高める中国の軍拡や意図に触れた記述だ。

国際社会での中国の建設的役割に期待する一方で、中距離ミサイル、攻撃型原潜、広域防空、サイバー・宇宙攻撃能力、空母建造など異例といえる「長期かつ包括的軍拡」の具体例を挙げ、「長期的な意図について数多くの疑問がある」と明確な警戒感を示した。

名指しは避けつつ、台湾有事の際に中国軍が米軍来援を阻止する「接近阻止能力」への対応も重点項目に挙げている。

米国は北朝鮮、イランの核問題や経済などで中国の協力が欠かせない面もあり、「脅威」「ライバル」などの表現はない。だが、昨年の「中国の軍事力」報告で「透明性の欠如」を指摘したのに続いて、最近の台湾への防衛武器売却決定などと合わせると、脅威認識を戦略的に強くにじませた。

日韓などアジア同盟国との連携や協力強化の必要を強調した。日米間では「合意された米軍再編ロードマップの履行を引き続き進める」と明記しているのも、こうした文脈で理解し、協力する必要があることはいうまでもない。

日米高級事務レベルの同盟深化協議が始まったが、普天間問題で迷走を続ける鳩山政権は対中認識と同盟戦略について米国とどこまで共有できているか。同盟を真に深め、日本の安全と国益を高める行動を急いでもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/205/