大学入試の見直しをテコに、高校・大学教育を充実させる。掲げる理念はもっともだが、実現に向けて克服すべき課題はあまりに多い。
中央教育審議会が、大学入試改革に関する答申をまとめた。
現行の大学入試センター試験を廃止し、思考力や表現力を中心に評価する「大学入学希望者学力評価テスト」を導入する。各大学は、その成績に加え、面接や集団討論など多面的な手法で受験生の主体性や協調性も見極めるという。
昨秋に政府の教育再生実行会議が出した提言に沿った内容だ。
教科書を暗記するだけでは、社会の様々な問題に適切に対処するのは難しい。従来の入試が知識偏重だったことは否めない。
柔軟な発想と問題解決能力を備え、社会に貢献できる人材を育成するには、入試の在り方の大胆な転換が必要だ、という答申の指摘には理解できる面がある。
しかし、肝心の学力評価テストの具体像は見えない。どんな問題で思考力や判断力を測るのか。
答申は、複数の教科にまたがる「合教科・科目型」や、教科の枠にとらわれない「総合型」の問題も出すとしている。だが、高校は教科ごとの学習が中心だ。高校生は入試の準備に戸惑うだろう。
学力評価テストの成績は「1点刻み」ではなく、大まかなランクの段階別に表示する方向だ。点数という客観的な物差しをなくすことで、大学の選考作業に不都合は生じないか。また、社会的な理解は得られるだろうか。
各大学の個別選抜の行方も不透明だ。面接や集団討論のノウハウを持つ大学は少ない。評価基準があいまいなら、選抜の公平性が疑われる。大規模な大学が全受験生を面接するのは不可能に近い。
難関大学からは、幅広い知識や学力の習得を個別試験で確認したいという異論も出ている。
答申は、高校2、3年生を対象にした「高等学校基礎学力テスト」の導入も提言した。学力の定着度の把握が目的で、小中学校の全国学力テストの「高校版」だ。入試の参考資料にも使うという。
両方の新テストは、年に各複数回の実施を想定している。生徒が「テスト漬け」にならないか、学校行事や部活動の時間を確保できるか、高校側には懸念が強い。
答申は新たな入試の2020年度からの実施を求めているが、拙速は避けねばならない。教育現場に混乱をもたらさないよう、文部科学省は、実現性を考慮し、慎重に検討を進めるべきだ。
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