法律家や評論家ら有識者による朝日新聞の第三者委員会が、同紙の慰安婦報道について検証した報告をまとめた。
検証は、慰安婦問題に関して同紙が行った取材や報道、訂正や取り消しのあり方が適切なものであったかを明らかにしたもので、各項目で「ジャーナリズムのあり方として非難されるべきである」といった厳しい文言が並んだ。
ただし問題の本質は、朝日新聞の報道姿勢にとどまらない。真の被害者は、虚偽の報道によって不当におとしめられた、日本と日本国民である。
朝日新聞は今月5日、渡辺雅隆新社長の就任会見でも慰安婦問題をめぐる具体的対応には「第三者委の結論が出る前に話すのは差し控えたい」と避けてきた。
報告書を手渡された渡辺社長は「真摯(しんし)に受け止め、社を根底からつくり変える覚悟で改革を進める」と述べた。
これを受けて朝日新聞は、日本国民の名誉回復に向けて主体的、具体的に何をするのか、内外に明らかにすべきである。
第三者委は、8月5、6日付で同紙が報じた「慰安婦問題を考える」の検証紙面について、総じて「自己弁護の姿勢が目立ち、謙虚な反省の態度も示されず、何を言わんとするのか分かりにくいものになった」と批判した。
≪国連文書に働きかけを≫
「慰安婦狩りに関わった」とする「吉田清治証言」について、虚報は認めたが、当初は1面掲載の囲み記事で訂正、おわびをする紙面案が作成されながら、当時の木村伊量社長の反対で謝罪はしないことになったという経緯を紹介している。
その上で、「経営幹部において最終的に謝罪はしないと判断したことは誤りであった」とし、これを受け入れた編集部門も強く批判している。
また、大型検証記事が組まれた経緯について、「読者の中にも不信感を抱く者が増加し、これが販売部数や広告にも影響を見せ始めてきたことから、販売や広報の立場からも放置できないという意見が高まった」とある。
社内に「日本の名誉回復を図るべきだ」といった議論の形跡がないことが残念である。
元同紙記者の植村隆氏による「元慰安婦 初の証言」の記事については、証言者がキーセン学校の出身者であることを知りながら書かなかったことにより、「事案の全体像を正確に伝えなかった可能性はある」とした。
だが、同紙が検証記事で「意図的なねじ曲げはない」とした結論については、「さらに踏み込んで検討すべきであった」と書くにとどまった。都合の悪い事実に触れないことは「意図的なねじ曲げ」に通じるものだ。
一連の記事が国際社会に与えた影響については、総じて小さく評価された印象だ。だが、慰安婦を「性奴隷」と断じた国連の人権委員会のクマラスワミ報告には、朝日が虚偽だと認めた「吉田証言」が証拠として引用されている。
日本政府はクマラスワミ氏に撤回を要請したが拒否された。この機に、朝日自ら「吉田証言」の虚構性を同氏に説明し、撤回へ向けて動くべきだろう。
同紙が盛んに説く「広義の強制性」についても「狭義の強制性」に傾いた報道から、吉田証言の危うさが明らかになって論点をすり替えた、と指摘した。
≪真の信頼と友好目指せ≫
外交評論家の岡本行夫委員は個別意見で、何人もの朝日社員から「角度をつける」という言葉を聞いた、と記した。
「事実を伝えるだけでは報道にならない。朝日新聞としての方向性をつけて、初めて見出しがつく」のだという。大変な思い上がりであり、これでは岡本氏が指摘するように、新聞社ではなく「運動体」である。朝日新聞のみならず、報道に関わるものが陥ってはならない落とし穴でもある。絶えず自戒しなくてはならない。
一連の報道問題を検証する同紙の第三者機関「信頼回復と再生のための委員会」でも、委員から、朝日は自らの主張にこだわるあまり「事実に対する謙虚さ」が欠けていたとする指摘があった。
重ねて指摘したいのは、事実のみによって歴史問題を正しく伝えていくことが、長期的に近隣諸国を含め、国際的な信頼と友好につながるということだ。
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