米ソニー映画中止 表現封じる脅迫を許すな

朝日新聞 2014年12月23日

サイバー攻撃 国際社会共通の脅威

北朝鮮の首脳を暗殺するという筋立てのハリウッド映画をきっかけに、国際的な緊張が高まっている。

北朝鮮が映画に激しく反発していたなか、先月、米国にある日系の制作会社に対する大規模なサイバー攻撃がおきた。

さらに映画館などにテロを予告する脅迫文がネットに出た。制作会社は今月に予定していた全米での公開を中止した。

オバマ米大統領は今回の攻撃を「北朝鮮が国として行った」と名指しで非難。「対抗措置をとる」と明言した。

サイバー空間は、世界のインフラや通信が頼る重要公共財である。それを悪用して国家が攻撃や脅迫をしたとすれば、戦争行為にも近い暴挙である。国際社会が懸念するのも当然だ。

北朝鮮は関与を否定しているが、韓国でも昨年春に北朝鮮によるとみられるサイバー攻撃がおきている。当時と手口も似ており、疑いは相当に濃い。

韓国政府はかねて、北朝鮮が1万人規模のハッカーを養成していると指摘してきた。北朝鮮外務省は「今回の事件は我々に関連がないことを実証する方途がある」というが、そうであれば速やかに証明すべきだ。

金正恩氏は政権に就いて約3年たつが、国内はまだ盤石の態勢とはいえない。来年の朝鮮労働党創建70年に向けて、対外関係の改善を志向しているとみられるが、今回の事件で、最大の交渉相手である米国との対話の模索は大きくつまずいた。

オバマ氏は、6年前に解除した北朝鮮のテロ支援国家への再指定を検討している。そうなれば朝鮮半島の緊張は急速に高まりかねない。国際社会での孤立化はさらに強まるだろう。

米国と対話するためには何が必要なのか。金正恩氏は熟考する必要がある。

一方、今回の事件を機に、米国がサイバー上の安全策について、中国に協力を求める異例の展開になっている。北朝鮮のネット接続の大半が中国経由という実情があるからだ。

米国の盗聴疑惑と、中国のハッキング疑惑とで、これまで両国は互いを非難し合ってきた。その米中がサイバー安全保障について真剣な論議を始めるならば、注視に値する。中国は責任ある大国として、米国の呼びかけに応じるべきだ。

この問題を国連安全保障理事会で取り上げるのも一案だ。多国間で取り組む国際サイバー対策の構築に向けて、機運を高めてもらいたい。もちろん日本にとっても重大な関心事であり、積極関与が求められる。

毎日新聞 2014年12月23日

サイバー攻撃 北の責任厳しく問え

ある映画の上映を阻止しようと関係会社にハッカー攻撃をかける。テロ攻撃を示唆して脅し、社内文書や個人情報を盗む−−。それは許されない行為であり、まして国家によるサイバーテロであれば、その責任は厳しく追及されるべきである。

読売新聞 2014年12月21日

米映画中止 看過できぬ北のサイバー攻撃

サイバー攻撃や、テロの予告によって、映画の公開を妨害する。「表現の自由」に対する重大な挑戦であり、看過することはできない。

ソニー傘下の米映画会社が、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画の上映の中止に追い込まれた。大規模なサイバー攻撃を受けたうえ、上映館へのテロ予告があったためだ。

米連邦捜査局(FBI)は、サイバー攻撃について、使用されたプログラムなどから、北朝鮮当局が関与したと断定した。「安全保障上の重大な脅威」と呼び、「国家の行為として許容範囲を超えている」と強く非難している。

オバマ大統領は記者会見で「犯罪の性質に相応な措置について決断する」と述べ、北朝鮮に対抗措置を取る方針を表明した。

対抗措置の内容は不明だが、米側が北朝鮮にサイバー攻撃を行うとの見方もある。議会では、制裁強化を求める声が出ている。

11月下旬のサイバー攻撃では、映画会社のコンピューターシステムが故障し、会社の機密情報や、社員の電子メールなどの個人情報がネットに流出した。

映画会社の経済的損害は莫大ばくだいなうえ、米国社会が重視する「表現の自由」という理念が脅かされたことは深刻な問題である。

公開中止について、米マスコミから「脅迫に屈した」との批判が相次ぎ、オバマ氏も「誤りだった」と評した。映画会社は別の形での映画の公開を検討するという。

米政府が対抗措置を取ることは理解できる。

映画には、金第1書記を揶揄やゆする内容が含まれている。北朝鮮外務省は6月、「絶対に許せない」との声明を出していた。

映画の内容に抗議することは自由だ。だが、サイバー攻撃という暴力的な違法行為や、観客の安全を人質にとる卑劣なテロ予告が容認できないのは当然である。

北朝鮮は近年、サイバー司令部を創設し、ハッカー部隊を増強するなど、ネット空間での攻撃能力の向上に努めてきたとされる。

昨年3月、韓国で金融機関やテレビ局がサイバー攻撃を受けた事件で、韓国政府は、北朝鮮の対外工作機関の犯行と結論づけた。

今回の事件は、日本に波及してもおかしくない脅威である。

政府の「情報セキュリティ政策会議」を中心に、サイバー攻撃に対する防護能力を高めることが急務だ。サイバー先進国の米国や、韓国、欧州諸国との情報交換や連携も強化する必要がある。

産経新聞 2014年12月24日

北のサイバー攻撃 直ちにテロ国家再指定を

ソニーの米映画子会社へのサイバー攻撃を、米連邦捜査局(FBI)が北朝鮮の犯行と断定し、オバマ米大統領は相応に対応すると表明した。

大統領は北のテロ支援国家への再指定を検討していることを明らかにした。北への警告として有効な選択肢といえる。

テロ支援国家の指定解除は、北が2008年、「すべての核計画申告」の口約束で、ブッシュ前米政権から引き出した。

産経新聞は、履行の保証がないと強く反対し、その後も北の核実験などに際し、解除の撤回を求めてきた。サイバー攻撃は歴然たるテロである。今こそ、再指定を決断してもらいたい。

日本人拉致事件が未解決であることも忘れてはならない。

テロ支援国家は米政府が独自に指定し、世界銀行などによる融資禁止や武器禁輸などを科す。北は大韓航空機爆破事件を受け、1988年から指定されていた。

米政府は北がテロ支援国家リストにあった05年、関連口座のあるマカオの銀行と米金融機関との取引を禁じ、北に打撃を与え、譲歩を引き出した。

核・ミサイル開発を含め北の脅威は増大している。対北圧力を強めるため、米国は同種の金融制裁にも踏み込むべきだ。

ソニー子会社は、北の金正恩第1書記の暗殺を描いたコメディー映画を製作し、標的になった。

映画は米国を代表する産業であり、文化である。劇場がテロ予告の脅迫を受け、身近な庶民の娯楽が奪われた。

映画に限らず、他の民間企業や政治、軍事の中枢、主要インフラ施設も標的となりうる。国家安全保障上の脅威だ。

ケリー米国務長官は中国の王毅外相との電話協議で、北のサイバー攻撃阻止への協力を求めた。中国は影響力を行使すべきだ。

日本や日本企業が標的となる可能性もある。専門の人材を集め、各国との連携を強化し、防御能力を高める必要がある。

23日にかけて原因は不明だが、北の主要ウェブサイトが接続できなくなる事態も起きている。

国連安保理が北の核・ミサイル開発に加え、人権侵害を議題化したことの意味も大きい。総会決議は安保理に、この問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう促している。拉致を含む北の人権侵害も厳しく追及すべきだ。

産経新聞 2014年12月20日

米ソニー映画中止 表現封じる脅迫を許すな

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記暗殺計画を描いた、コメディー映画「ザ・インタビュー」の米国公開がテロ予告を受けて中止に追い込まれた。

米政府当局は、犯行に北朝鮮が関わったことを強く示唆している。映画の内容にどんな不満があれ、脅迫によって上映を阻止するような行為は許されない。

映画は、米国のテレビプロデューサーらが金第1書記にインタビューすることになったが、米中央情報局(CIA)から暗殺を依頼されるというストーリーだ。公開が発表された6月ごろから、北朝鮮は猛反発していた。

映画を製作したソニーの映画子会社、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)は11月、ハッカー攻撃を受けてコンピューターシステムがダウンし、従業員の個人情報や未公開の映画5本がネット上に流出した。同社幹部の人種差別的発言や、映画プロデューサーによる女優の悪口を含むメールも公表された。

公開日が近づくと、ハッカーはネット上の掲示板に「9・11(米中枢同時テロ)を思いだせ」「上映時間に映画館から離れるよう忠告する」などと書き込んだ。これを受けて上映中止を決めた映画館が相次いだため、SPEは全米での公開中止を発表した。

コメディー映画の中とはいえ、一国の指導者が揶揄(やゆ)され、暗殺の標的とされている。当事国や関係者が憤るのは無理もない。

堂々と抗議すればいい。内容に異を唱えるのも自由だ。だが、ハッカー攻撃やテロ予告による脅迫で公開中止に追い込むような犯罪行為は断じて容認できない。

米国家安全保障会議(NSC)のミーハン報道官は「政府は言論・表現の自由を脅かし制限する企てを極めて深刻に受け止めている」とし、「犯人を処罰する」と述べた。捜査を徹底し、国家の関与の有無など、犯行の全容を明らかにしてほしい。

米国では、脅しに屈して上映を中止したとして、SPEにも批判が集まっている。中止は観客の安全を人質に取られた映画館側の申し出によるものでもあり、ソニー側には同情すべき点もある。

ただ、脅迫が要求達成に有効であるとの悪(あ)しき前例となることを危惧する。ハッカー攻撃を許したセキュリティー面にも不備がなかったか、検証を徹底すべきだ。

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