混迷ロシア経済 危機回避へ協調探れ

朝日新聞 2014年12月20日

ルーブル急落 強硬策が経済を壊す

ロシア通貨であるルーブルの為替相場が急落し、国の経済が激しく揺れている。

プーチン大統領は、欧米からの制裁を招いて経済を深く傷つけた、これまでの強硬政策の転換に早急に踏み切るべきだ。

主要輸出品である原油の安値も受け、インフレが悪化している。来年は経済のマイナス成長も見込まれている。

資源の輸出に頼る他の新興国もおしなべて通貨安に悩んでいる。だが、そのなかでもルーブルの急落は突出している。

ロシア経済は新興国の中で規模が大きく、景気後退が深刻な欧州経済と密接な関係を持つ。その変調が世界経済の新たな懸念材料となるゆえんである。

この苦境から脱する道のりはきびしい。いま直面している事態は、プーチン氏による長年の政策のつけだからだ。

まず、今週の記者会見で自ら認めたように、資源依存を抜け出して、国際競争力を持つ製造業を育て、経済を多角化する必要に迫られていたのに、長らくその努力を怠ってきた。

経済の腐敗・汚職体質も依然深刻である。中でもプーチン氏の側近が資源や国防などの基幹産業を牛耳る不透明な国家主導型の経済運営は、外資導入の重大な障害になっている。

なのに、改革を求める野党勢力をプーチン氏は力で抑えてきた。一方で、米欧と真っ向から対立する強硬策で国民の愛国心を刺激し、自分への高い支持を保とうと努めている。

隣国ウクライナの領土であるクリミア半島を併合し、さらにウクライナ東部の分離派武装勢力を支援していることも、国民の大国意識をあおり、政権の求心力につながっている。

しかし、その代償として、欧米から発動された経済制裁の重みが、原油安とともにロシア経済にのしかかった。

会見でプーチン氏は「世界経済の成長で資源価格は再び上昇し、ロシア経済も早期に回復に向かう」と強気だった。

だが、資源依存の構造を残したまま、不利益を省みない冒険的な対外政策を続ける限り、経済の脆弱(ぜいじゃく)さはこの国を揺さぶり続けるだろう。

必要な行動は明らかだ。ウクライナの領土保全を約束した9月の停戦合意に従い、紛争の平和的解決に真剣に努め、制裁の解除につなげる。そして、抜本的な経済改革に今度こそ本腰を入れねばならない。

国際社会との協力関係の回復と地道な改革以外に経済の再生はないことを、プーチン氏は心にきざむ必要がある。

毎日新聞 2014年12月20日

混迷ロシア経済 危機回避へ協調探れ

プーチン大統領にも想定外の事態だろう。ロシア経済を支えてきた原油価格が低迷し、通貨ルーブルの対米ドル交換レートはこの4カ月で約35ルーブルから60ルーブル台に急落した。ウクライナ問題をめぐる欧米の対露制裁との「三重苦」が、ロシア国民の生活をじわじわと締め付けている。

読売新聞 2014年12月21日

国際市場の波乱 「逆石油ショック」を警戒せよ

原油価格急落を引き金に、国際金融市場の動きが不安定化している。

3か月前は1バレル=100ドル前後で推移していた原油相場が、60ドルを割り込み、産油国ロシアの通貨ルーブルは、対ドルで半値以下に売り込まれた。

ロシア中央銀行は通貨防衛のために、大幅な緊急利上げに踏み切ったが、効果は乏しく、通貨安と高金利で経済の悪化に拍車がかかる恐れも指摘されている。

原油安は本来、世界経済全体にとってはプラスだが、原油需要の低迷を世界経済減速のサインと受け止める向きも多い。先行き不透明感から、ロシアだけでなく、他の新興国や日米欧の株価が乱高下を繰り返している。

市場の動揺が増幅すれば、実体経済に大きな打撃を与える「逆石油ショック」に発展する可能性も否定できまい。

各国の金融当局は、投機的な動きへの監視を強め、市場の安定に協調して臨む必要がある。

最近の市場変動の背景には、2008年のリーマン・ショック後に日米欧が進めた大規模な金融緩和による「カネ余り」がある。

原油市場や新興国に流入した大量の資金が、投資先を求めて動き回り、混乱が加速している。

当面の焦点は、今年10月に量的金融緩和策を終え、来年にも利上げに転じるとされる米国の金融政策の行方である。

利上げを機に米国へ資金が一気に還流し、新興国の通貨急落や経済危機を誘発するのではないか。そうした懸念が強まっている。

米連邦準備制度理事会(FRB)は17日に公表した声明で、04年の利上げ前に使った「忍耐強く待つ」との文言を新たに盛り込んだ。その一方で、ゼロ金利政策を「相当の期間」続けるという従来の方針は維持した。

FRBは、利上げに向かう方向性は示しつつ、前例を意識して早期利上げ観測が強まることを抑えるため、表現のバランスを取ったのだろう。声明後、日米の株価は大きく上昇した。FRBの対応が奏功したと言えよう。

無用の混乱を招かぬよう、FRBは今後も丁寧な「市場との対話」に努め、慎重にゼロ金利政策の出口戦略を進めてもらいたい。

世界経済を牽引けんいんしていた中国やブラジルなど新興国の景気は、停滞が続いている。

新興国が、社会インフラの不足や貿易・投資の過剰規制といった成長を妨げている課題を、自ら解決することも急務だ。

産経新聞 2014年12月22日

ルーブル暴落 「プーチン主義」転換せよ

ロシア経済が通貨ルーブルの暴落で苦境に陥っている。自身のウクライナ侵略で招いた経済制裁に、収入源の柱である原油の価格急落が追い打ちをかけたためである。

プーチン露大統領は、ウクライナ南部、クリミア半島の武力併合と東部への軍事介入を撤回・停止するとともに、資源依存、利権独占型の経済運営を改める以外に難局を脱する道はない。市場が求めているのは万事に強硬路線を取る「プーチン主義」の全面転換である。

原油安に伴う通貨下落は多くの資源国に共通する。その中でもルーブルの下落は、対ドルで年初の半分ほどと際立っている。

1998年のルーブル危機時とは違って外貨準備も十分で、直ちにその再来になるとの見方は少ないとはいえ、新興5カ国(BRICS)の一角、ロシアの不振が長引けば、世界経済の大きなリスクとなろう。それを回避する責任がプーチン政権にはある。

まずは、軍事支援するウクライナ東部の親露派武装勢力に、停戦の順守に続いて、分離独立運動の断念とウクライナ国民との平和的共存を促すことだ。最終的には、併合したクリミアを同国の主権下に戻さなければならない。

方針変更に応じて米欧主導の経済制裁は緩和・解除され、通貨安要因の1つも解消されていこう。さもなければ、プーチン政権は制裁で首が絞まり続けよう。

実際、オバマ米大統領は19日、クリミアへの禁輸措置などを発表し、ロシアにクリミア占拠と併合の試み、東部親露勢力への支援をやめるよう求めた。ウクライナへの武器支援を定めた対露制裁強化法案にも署名している。

プーチン氏は資源輸出頼みの経済構造も改革せず放置してきた。通貨安はそのツケでもある。

より大きな問題は、資源、軍需分野などの基幹企業を腹心に任せる「縁故資本主義」にある。そうした経済体質に、市場が資本逃避の形で「ノー」を突き付けた。

プーチン氏は自らまいたこれらの種を自ら刈り取れるか。

これには悲観論もある。氏はソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的災厄」とするなど失地回復主義に傾き、その行動はクリミア併合のように予測不能だ。国際社会は、経済的に追い詰められたプーチン氏が新たな暴挙に出ることへの警戒も怠ってはならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2043/