STAP否定 論文不正の全容解明を

朝日新聞 2014年12月20日

STAP問題 多方面への教訓生かせ

むなしさを漂わせながらの幕引き記者会見だった。

理化学研究所がきのう、STAP(スタップ)細胞の検証実験打ち切りを発表した。

理研は今年1月、「まったく新しい万能細胞の作製に成功した」と華々しく発表したが、ネット上で不正が発覚し、やがて論文は撤回された。

理研は、論文に書かれた現象が再現できるかどうかの実験を続けたが、万能性を示す細胞は確認されなかった。「世界的な大発見」は幻と消えた。

論文の筆頭著者だった研究者は、理研を退職することになった。上司で主要著者の一人だったベテラン研究者の自死を含め、悲痛な1年だった。

しかし、この騒動をただ無為に終わらせてはならない。重大な失敗から学ぶべきことが多面的に残されている。

何より、どの研究者も、基本的なルールや倫理を身につけなくてはならない。

STAP問題の研究者の未熟さを指摘する声は多い。だが、不正が見つかったのは何もこの研究者だけでも、理研だけでもない。東京大の著名な教授など多くの別の不正も近年相次いでいる。個別の人物や研究機関ではなく、研究社会全体の問題として改善を図るべきだ。

今回の騒動で「研究者をめざす大学院生への指導が変質している」との声が現場からあがった。指導者も院生も成果を急ぐあまり、基本の教育がおろそかになっているという。

これは政府や研究機関が短期的な論文ばかりで評価し、研究費や処遇を競わせる手法をとってきた副作用だ。行き過ぎを正すべきではないか。

さらに、科学界と社会とのいびつな関係も照らし出した。

ゆがみは当初からあった。理研が割烹着(かっぽうぎ)姿の研究者の取材機会を用意するなど、過剰とも思える広報活動を展開した。社会にわかりやすく成果を伝えることが、予算獲得にもつながるからである。

多くのメディアも若い女性科学者が主役という物語に飛びついた。だが「わかりやすさ」に媒介されて増幅された報道は、不正発覚とともに逆に大きく振れた。朝日新聞を含むメディアにとっても自戒が必要だ。

第三者が再現できず、論文が撤回された時点で、科学的にはほぼ決着している。世界ではもうほとんど話題にも上らない。

科学界と社会の間には、科学的な意味合いや冷静さを置き去りにしない、健全なコミュニケーションを築く努力が必要だ。

各方面で教訓を生かしたい。

毎日新聞 2014年12月20日

STAP否定 論文不正の全容解明を

小保方晴子氏が実施した検証実験でSTAP細胞は作製できなかったと理化学研究所が発表した。これとは別に理研のチームが進めていた検証実験でも作製できず、実験は打ち切られた。小保方氏自身が論文通りの方法でSTAP細胞を再現できなかった以上、当然の判断だろう。

読売新聞 2014年12月20日

STAP作れず 細胞の正体は何だったのか

夢の万能細胞とされたSTAP細胞は、幻だったということだろう。

理化学研究所は、小保方晴子研究員が実施した検証実験で、期限の11月までにSTAP細胞を作製できなかったと発表した。小保方氏とは別に検証を行った理研のチームも同様の結果だった。

理研は検証実験の打ち切りを決めた。論文で示された細胞を再現するめどが全く立たない以上、打ち切りは当然の判断だ。

データ改竄かいざんなどの不正が認定されたSTAP論文は、7月に撤回されている。それでも理研は、「細胞の有無を明らかにするため」として、実験を続行してきた。

今回の発表により、小保方氏が「200回以上、作製に成功した」と強調したSTAP細胞の真偽をめぐる騒動は、大きな区切りを迎えたと言えよう。小保方氏は理研を退職する。

今年1月、理研が大々的に発表したSTAP細胞の正体は、何だったのだろうか。既に知られた万能細胞のES細胞(胚性幹細胞)ではないかとの指摘もある。

小保方氏の未熟さゆえの誤りだったのか、意図的な不正だったのか。著名研究者が論文の共著者に名を連ねながら、なぜ見抜けなかったのか。なお疑問は残る。

理研は第三者による調査委員会を設け、論文作成の経緯を調べている。再発防止に役立てることが求められる。

チェック機能が働かなかったことを教訓に、ガバナンス(組織統治)を立て直し、日本トップの研究機関としての信頼回復を急がねばならない。

STAP細胞問題は、日本の科学界の懸案を浮き彫りにした。

小保方氏の博士論文に盗用があったことが明らかになると、博士号を授与した早稲田大に対する批判が強まった。早稲田大は小保方氏の学位審査の不備を認めた。

各大学は、審査体制を点検し、研究の基本ルールを教える重要性を再認識する必要がある。

文部科学省は今夏、倫理教育の充実を盛り込んだ研究不正防止の新指針を策定した。若者が、真摯しんしな姿勢で研究に取り組み、柔軟な発想力を伸ばしていくために、有効に機能させたい。

STAP論文は、権威ある英科学誌に掲載されたため、世界のメディアが、常識を覆す発見として大きく取り上げた。

だが、論文発表の時点では、仮説の域を出ないことに留意せねばならない。自戒を込め、冷静な科学報道を心がけたい。

産経新聞 2014年12月20日

STAP検証 理研はなお核心の究明を

理化学研究所は、STAP細胞の検証実験の結果を発表した。

小保方晴子研究員と理研チームがそれぞれ実施した実験では「STAP現象の再現には至らなかった」という。来年3月までの予定だった検証実験は打ち切る。また、小保方氏から提出された退職願を理研が認めたことも明らかにした。

小保方氏らが英科学誌「ネイチャー」に発表したSTAP論文は7月に撤回された。科学の世界ではすでに存在しないSTAP細胞の有無を、1500万円の研究費を投じて調べたことになる。しかし、STAP細胞が「ある」か「ない」かの答えは完全には出せなかった。検証を続ける意味はないと判断したのは当然だ。

理研は、これでSTAP問題を幕引きにしてはならない。

STAP問題が、日本の科学研究全体に及ぼした負の影響はあまりにも大きい。その研究と論文には、小保方氏をサポートする形で、経験と実績のある複数の研究者がかかわった。理研にとって最も重要な課題は、客観性が極めて乏しい研究成果を、世界を驚かせる論文として発表してしまった経緯をきちんと解明し、再発防止への教訓とすることだ。

その点で、小保方氏の退職を認めたことには疑問もある。小保方氏の心身や将来への配慮はもちろん必要だが、問題の核心が究明できなくなる恐れはないか。日本を代表する研究機関である理研には、論文不正や多くの疑惑を生んだ原因や背景を徹底解明する責務がある。

STAP問題の大きな背景として「成果主義の負の側面」が挙げられる。競争原理は科学の発展の原動力になるが、短期的な成果にとらわれると研究不正や研究倫理の退廃を生む引き金になる恐れがある。博士課程を終えた若い研究者が安定した職に就けない現状にも問題がある。

今の若手研究者の多くは小中学校のころ競争の少ない環境で育った世代だろう。大学を経て研究の道に進むと一転して、過剰な競争にさらされる。

教育にも研究にも適度な競争は不可欠だ。しかし、日本の現状はあまりに両極端であるために、さまざまなひずみが生じているのではないか。そのひずみを正し、健全な教育と研究風土を確立しなければならない。

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