夢の万能細胞とされたSTAP細胞は、幻だったということだろう。
理化学研究所は、小保方晴子研究員が実施した検証実験で、期限の11月までにSTAP細胞を作製できなかったと発表した。小保方氏とは別に検証を行った理研のチームも同様の結果だった。
理研は検証実験の打ち切りを決めた。論文で示された細胞を再現するめどが全く立たない以上、打ち切りは当然の判断だ。
データ改竄などの不正が認定されたSTAP論文は、7月に撤回されている。それでも理研は、「細胞の有無を明らかにするため」として、実験を続行してきた。
今回の発表により、小保方氏が「200回以上、作製に成功した」と強調したSTAP細胞の真偽をめぐる騒動は、大きな区切りを迎えたと言えよう。小保方氏は理研を退職する。
今年1月、理研が大々的に発表したSTAP細胞の正体は、何だったのだろうか。既に知られた万能細胞のES細胞(胚性幹細胞)ではないかとの指摘もある。
小保方氏の未熟さゆえの誤りだったのか、意図的な不正だったのか。著名研究者が論文の共著者に名を連ねながら、なぜ見抜けなかったのか。なお疑問は残る。
理研は第三者による調査委員会を設け、論文作成の経緯を調べている。再発防止に役立てることが求められる。
チェック機能が働かなかったことを教訓に、ガバナンス(組織統治)を立て直し、日本トップの研究機関としての信頼回復を急がねばならない。
STAP細胞問題は、日本の科学界の懸案を浮き彫りにした。
小保方氏の博士論文に盗用があったことが明らかになると、博士号を授与した早稲田大に対する批判が強まった。早稲田大は小保方氏の学位審査の不備を認めた。
各大学は、審査体制を点検し、研究の基本ルールを教える重要性を再認識する必要がある。
文部科学省は今夏、倫理教育の充実を盛り込んだ研究不正防止の新指針を策定した。若者が、真摯な姿勢で研究に取り組み、柔軟な発想力を伸ばしていくために、有効に機能させたい。
STAP論文は、権威ある英科学誌に掲載されたため、世界のメディアが、常識を覆す発見として大きく取り上げた。
だが、論文発表の時点では、仮説の域を出ないことに留意せねばならない。自戒を込め、冷静な科学報道を心がけたい。
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