デフレからの脱却を実現するには、賃上げをはじめとした雇用の改善が急務である。
こうした認識で政府、経済界、労働界が改めて一致した意義は大きい。
3者の代表からなる政労使会議が「経済界は、賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図る」とする合意文書をまとめた。
春闘に向けた政労使合意は2年連続で、昨年の「企業収益の拡大を賃金上昇につなげる」という表現より、さらに踏み込んだ。
今年の春闘では、賃上げ率が15年ぶりに2%台に乗った。それでも消費増税と物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず、消費が低迷し景気が冷え込んでいる。
このままでは安倍政権の経済政策「アベノミクス」による日本経済再生が遠のきかねない。政府が昨年に続いて民間に賃上げを促す異例の対応を取った背景には、そうした危機感があるのだろう。
むろん賃金水準は、各企業の経営判断で決まるものだ。
だが、日本企業の内部留保(利益剰余金)は300兆円を超える。政府から要請されるまでもなく、賃上げによって利益を「人への投資」に回し、成長を図るのは、企業本来の役割と言えよう。
好業績の企業は、従業員の持続的な処遇アップに前向きに取り組んでもらいたい。
労組の中央組織である連合は、春闘で2%以上のベースアップを求める方針を掲げている。
経営側は1月中旬に春闘方針を決定するが、人件費の底上げにつながるベアには慎重だ。企業の多くは、従業員への利益還元を、業績に応じて増減しやすい一時金で行う傾向が強い。
非正規労働者も置き去りにせず、労使は処遇改善について真剣に話し合う必要がある。
アベノミクスによる円安は、輸出関連企業に追い風となる反面、原材料価格の上昇が、多くの中小企業を苦境に追い込んでいる。
多額の円安差益を上げた大企業は、下請けからの仕入れ価格の引き上げ要請に応じるなど、中小企業が賃上げに踏み切りやすい環境作りに協力すべきだろう。
こうした民間の取り組みを促すためにも、政府は、法人税の実効税率引き下げや、新規事業を後押しする規制改革を断行しなければならない。
政労使合意は、長時間労働の是正や、女性が活躍できる環境の整備に、官民を挙げて取り組む方針なども明記した。着実な実行が求められる。
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