政労使合意 賃上げは社会的な責務だ

朝日新聞 2014年12月17日

賃金引き上げ 生活水準向上を目標に

政府、労働界、経済界の代表による「政労使会議」がきのう開かれ、来春闘をにらんで「賃金引き上げに向けた最大限の努力」を経済界に促すことで合意した。昨年に続いて三者が賃上げで合意したことは成果だ。

しかし、賃金水準は本来、労使で決める事柄だ。政府に催促されなくとも、経済界は働く人に成果を賃上げの形で還元しなければ、経済の好循環は生まれない。ましてや、アベノミクスの恩恵が行き渡らないまま円安による物価上昇が進みそうな雲行きの昨今である。賃上げが暮らしに与える影響は大きい。

労働組合の中央組織である連合は、来春闘で賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)を「2%以上」要求する方針を決めた。この方針をもとに傘下の産業別組織や各企業の労働組合が要求方針を決めつつある。まず、労働組合は、働く人の生活を向上させる水準の要求、最低でも物価上昇分は賃金に反映させることは要求するべきだ。

「2%以上」という要求水準は今年(1%以上)を上回る。それでも物足りないという意見が組織内にはある。確かに、ここ最近、消費者物価指数は前年比で3%前後上昇しており、実質賃金も16カ月連続でマイナスを記録している。物足りないとする見方は理解できる。

大手製造業とサービス業や中小企業の働き手には所得格差がある。多くが労働組合の外にいる非正規労働者の低い処遇も改善しなければいけない。労働組合に入っている働き手の賃上げを非正規にも広げ、さらに最低賃金を引き上げて、格差を解消していくことが日本経済全体の課題にもなっている。

幸い、有効求人倍率は1倍を超える状況が続き、失業率も低い水準が続いている。各労組が、高い要求を掲げて賃上げを実現させれば、人手不足となっている労働市場を通じて非正規の賃金にも上昇圧力をかけることができる。労組の組織率が2割を下回っているとはいえ、労働市場全体を視野に入れた要求が求められている。

春闘は1955年に始まり、経済成長の果実を国民全体に広げる役割を果たしてきた。ところが、バブル崩壊で右肩上がりの成長が終わると、春闘の役割も後退。特にリーマン・ショック以降は、年齢や勤続年数に合わせて賃金が増える定期昇給(定昇)を守ることに必死になる状況が続いていた。

春闘が始まって来年で60年。国民経済に果たす役割が高まる中で、来春闘は真価が問われることになる。

読売新聞 2014年12月18日

政労使合意 「人への投資」は企業の役割だ

デフレからの脱却を実現するには、賃上げをはじめとした雇用の改善が急務である。

こうした認識で政府、経済界、労働界が改めて一致した意義は大きい。

3者の代表からなる政労使会議が「経済界は、賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図る」とする合意文書をまとめた。

春闘に向けた政労使合意は2年連続で、昨年の「企業収益の拡大を賃金上昇につなげる」という表現より、さらに踏み込んだ。

今年の春闘では、賃上げ率が15年ぶりに2%台に乗った。それでも消費増税と物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず、消費が低迷し景気が冷え込んでいる。

このままでは安倍政権の経済政策「アベノミクス」による日本経済再生が遠のきかねない。政府が昨年に続いて民間に賃上げを促す異例の対応を取った背景には、そうした危機感があるのだろう。

むろん賃金水準は、各企業の経営判断で決まるものだ。

だが、日本企業の内部留保(利益剰余金)は300兆円を超える。政府から要請されるまでもなく、賃上げによって利益を「人への投資」に回し、成長を図るのは、企業本来の役割と言えよう。

好業績の企業は、従業員の持続的な処遇アップに前向きに取り組んでもらいたい。

労組の中央組織である連合は、春闘で2%以上のベースアップを求める方針を掲げている。

経営側は1月中旬に春闘方針を決定するが、人件費の底上げにつながるベアには慎重だ。企業の多くは、従業員への利益還元を、業績に応じて増減しやすい一時金で行う傾向が強い。

非正規労働者も置き去りにせず、労使は処遇改善について真剣に話し合う必要がある。

アベノミクスによる円安は、輸出関連企業に追い風となる反面、原材料価格の上昇が、多くの中小企業を苦境に追い込んでいる。

多額の円安差益を上げた大企業は、下請けからの仕入れ価格の引き上げ要請に応じるなど、中小企業が賃上げに踏み切りやすい環境作りに協力すべきだろう。

こうした民間の取り組みを促すためにも、政府は、法人税の実効税率引き下げや、新規事業を後押しする規制改革を断行しなければならない。

政労使合意は、長時間労働の是正や、女性が活躍できる環境の整備に、官民を挙げて取り組む方針なども明記した。着実な実行が求められる。

産経新聞 2014年12月17日

政労使合意 賃上げは社会的な責務だ

政府と経済界、労働界の3者が参加する政労使会議が開かれ、来年の春闘で「賃上げに最大限努力する」との合意文書をまとめた。

円安を背景に大手輸出企業などは好決算に沸いている。従業員の賃金引き上げなどで還元するよう求めたのは妥当だ。

経済の好循環を実現しデフレ脱却を確かなものにする。安倍晋三首相が衆院選で強調してきたアベノミクスの狙いだ。好循環を促す個人消費の拡大には継続的な賃上げが欠かせない。経済界は自らの役割を認識し、着実に実行してほしい。

賃上げの原資となる企業収益を安定的に伸ばすためには、政府も法人税減税や規制緩和など成長戦略の具体化を急ぐ必要がある。

政労使会議は昨年末も賃上げ方針で合意し、今年の春闘で大手企業を中心に賃上げが図られる契機となった。ただ、4月の消費税増税で物価が上がり、物価変動の影響を除いた実質賃金は減少が続いている。これがアベノミクス批判にもつながった。

安倍首相は会議で「賃上げの流れを来年、再来年と続け、全国にアベノミクスの効果を浸透させていきたい」と経済界に要請した。地方の中小企業に賃上げを促すには、まずは大手が率先して賃上げを進めなければならない。

これに対し、経団連の榊原定征会長も「賞与や手当を含めた賃上げに努力する」と応じた。だが、定期昇給やボーナス増には前向きな大手の中でも、賃金水準を引き上げるベースアップ(ベア)には慎重な声も根強いという。

連合は来年の春闘で2%のベアを求める方針だ。具体的な配分方法は個別企業の労使で決めるべきだが、それでも史上最高益を計上するような企業には、ベアを含めた積極的な賃上げを求めたい。

合意では円安に苦しむ中小企業に配慮し、大手に対して原材料などの値上がり分の適正な価格転嫁を認めるように求めた。これも中小の賃上げには有効だ。

下請けへの不当な買いたたきは法律で禁じられている。政府も監視を強めるべきだろう。

合意は、サービス・小売業などで多い非正規労働者の処遇改善も促した。パートや派遣など非正規は労働者全体の3割以上を占める。正社員への転換などを含め、働く人すべての待遇向上への取り組みが求められている。

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