自公圧勝 安倍路線継続への支持だ 規制緩和と再稼働で成長促せ

朝日新聞 2014年12月15日

自公大勝で政権継続 分断を埋める「この道」に

安倍首相にとっては思い通りの、いや、それ以上の勝利だったに違いない。

突然の解散で始まった師走の衆院選は、自民、公明の与党の大勝に終わった。

自公両党が過半数を制する参院とあわせ、安倍政権は極めて強い権力基盤を再び手にしたことになる。

ただし、それは決して「何でもできる」力を得たことにはならない。憲法に基づく民主主義は、選挙の勝利によって生まれた政権に全権を委任するものではない。

「この道しかない」

安倍首相が繰り返したこのフレーズは、様々な意味で今回の選挙を象徴していた。

この言葉は、新自由主義を進めたサッチャー元英首相が好んで使った「ゼア・イズ・ノー・オルタナティブ」(ほかに選択肢はない)に由来する。

消費税率再引き上げを先送りしての解散・総選挙。「社会保障と税の一体改革」3党合意の当事者だった民主党も、首相の表明前からこの判断を受け入れ、争点にはならなかった。

アベノミクスに対して民主党が掲げた「柔軟な金融政策」や「人への投資」は、少子高齢化という日本が直面する難題の前では有権者に違いがわかりにくく、代わり得る選択肢としての力に欠けた。

この選挙を考える上でさらに重要だったのは、野党第1党の民主党が定数の半分も候補者を立てられなかったことだ。

かわりに共産党を除く野党と候補者調整を進めたが、一本化できたのは295選挙区のうち200に満たない。この点でも、与党に代わる選択肢にはなり得なかった。

争点を巧みにぼかし、野党の準備不足を突いた電撃解散。安倍氏の選挙戦略は、有権者を自民勝利への「この道」に導く極めて周到なものだった。

そうした条件のもとで勝利を得た安倍首相は何をすべきか。過去2年の政策がみな信任され、いっそうのフリーハンドで政策を進められると考えたとしたら、間違いだ。

「人」や「政党」を選ぶ選挙では、1票には多様な意味が込められる。党首や候補者が掲げる政策や政治家としての信頼感。ほかの候補者がいやだからという理由もあるだろう。

今回、首相は自ら「アベノミクス解散」と掲げた。有権者の期待も景気回復にあるのは、世論調査を見ても明らかだ。

安倍政権は、まずは首相が約束した景気回復を確かにし、その果実を国民に適切に分配して格差是正に努めるべきだ。

この2年の経済政策で株価は上がり、求人倍率も賃金も上がったとのデータはある。ただし、首相自身認めるように、その恩恵が国民にあまねく行き渡っているとは言えない。

OECD(経済協力開発機構)は昨年、日本の相対的貧困率が加盟34カ国中6番目に高い原因として、税と給付制度を通じた再分配効果が小さく、二極化した労働市場が賃金格差を拡大させているなどと指摘した。

これらの弊害は将来を担う若者や子どもに重くのしかかる。富はやがて社会全体に滴り落ちるという「トリクルダウン」を悠長に待つのではなく、抜本的な底上げ策が急務だ。

次に取り組むべきは、分断された国民の統合である。

特定秘密保護法や集団的自衛権、原発再稼働などをめぐり、安倍政権はいくつもの分断線を社会に引いた。特にねじれを解消した昨夏の参院選後、その動きはペースを上げた。

自民党が得た議席数は死票の多い小選挙区制の特性も一因だ。その自覚を欠いたまま、憲法改正のような国民の意見が割れる政策を強引に進めれば、溝は深くなるばかりだ。

この選挙で際立ったのは戦後最低レベルの低投票率だ。意義がつかみにくい解散、野党が選択肢を示せなかったことに対する有権者の冷めた感情があったことは想像に難くない。

だが、政治と有権者との間のこうした距離を放置することは、日本の将来にプラスになることは決してない。

株価を上げ、円安誘導を図る安倍政権への政治献金が、その恩恵を受ける大企業からを中心に去年は4割も増えた事実を思い起こそう。ここで市井の有権者が声を上げなければ、格差はますます拡大し、社会の分断線はさらに増えかねない。

自分の立場を嘆き、分断線の内側にこもって不満を言い募るだけでは、社会も政治も変わることはない。

日本より大きな格差社会である米国のありように警鐘を鳴らす元米労働長官のロバート・ライシュ・カリフォルニア大教授は、近著「格差と民主主義」で次のように説いている。

政治を中間層に振り返らせ、格差を減らしていく。その具体的政策に取り組むよう、一人ひとりが当選した政治家に働きかけていくべきだと。そしてこう呼びかけるのだ。

「投票日の翌日こそが、本当の始まりである」

読売新聞 2014年12月15日

衆院選自公圧勝 重い信任を政策遂行に生かせ

◆謙虚で丁寧な政権運営が必要だ◆

経済政策「アベノミクス」を継続し、デフレ脱却を確実に実現してもらいたい。そんな国民の意思が明確に示された。

第47回衆院選は、与党の自民、公明両党が、定数の3分の2を上回る計320超の議席を獲得し、圧勝した。安倍政権にとっては、昨年の参院選に続く勝利である。

今回示された民意を、新しい安全保障法制の整備、原発の再稼働など、世論の分かれる様々な重要政策の推進力として活用し、政治を前に進めることが肝要だ。

◆奏功した「電撃解散」

2006年から12年まで毎年、首相が交代する異常事態が続き、日本の政治は停滞、迷走した。その後の2年間の第2次安倍内閣に及第点を与え、当面は、首相に安定した体制で国政運営を託そう。これが有権者の判断だろう。

来年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを1年半先送りする方針も、支持された。

どの党にも追い風はなかった。その中で、安倍首相が、「この道しかない」と強調し、政権の実績と、円高などに無策だった民主党政権との比較を有権者に問う戦略を取ったことが、一定の成果を上げたのは間違いない。

アベノミクスは、円安を実現し、株価を高騰させた。雇用情勢は改善し、賃金も上昇傾向にある。

大企業と中小企業、都市部と地方の格差や、輸入品の価格上昇などの弊害も指摘されるが、アベノミクスの恩恵が全国に広がることへの期待は依然、根強い。

政策の基本的な方向は維持し、成長戦略など一部を補強することが、今の日本にとって、現実的かつ効果的な経済運営と言える。

首相の電撃的な衆院解散に対して、選挙準備が遅れた民主党は、過去最少の候補者擁立となり、無党派層などの受け皿になれなかった。「常在戦場」の構えを怠った海江田執行部の責任は大きい。

維新の党などとの候補者調整の効果も限定的にとどまった。

一方、首相は、自民党が突出する「1強多弱」体制を維持しても手放しで喜べる状況ではない。野党の失策に加え、戦後最低に落ち込んだ投票率が、固い組織票を持つ与党に有利に働いたからだ。

与党に対する国民の支持は、積極的ではなく、「野党よりまし」という消極的な面が強いことを、きちんと自覚する必要がある。

◆野党は受け皿となれず

安倍首相は24日に第3次内閣を発足させる。経済再生を最優先する方針を維持すべきだ。

首相は、衆院選の大勢判明後、「慢心することなく、丁寧に国民に説明しながら政策を進めたい」と語った。その言葉通り、強引な政権運営は慎むことが大切だ。

民主党は、歴史的大敗だった前回よりは議席を増やしたが、目標の100議席には遠く及ばず、伸び悩んだ。海江田代表が落選したのが象徴的だ。海江田氏の辞任を受けて、代表選が行われるが、衆院選の総括が求められる。

民主党は今回、安倍政権を批判し、「豊かな中間層の復活」「人への投資」など、有権者に心地よいスローガンは掲げた。だが、アベノミクスに対抗する政策ビジョンとしては説得力に欠けた。

安全保障政策でも、集団的自衛権の行使の是非に関して、党内に賛否両論を抱え、党見解さえまとめられない実情を有権者に見透かされたのではないか。

政権時代の失政で低下した国民の信頼の回復は依然、険しい。

「第3極」の政党は苦戦した。前回は、自民、民主両党に飽き足らない有権者の期待を集めたものの、離合集散を繰り返し、目に見える実績を残せなかった。

維新の党は今回、「身を切る改革」を唱えたが、説得力ある改革の道筋を示せたとは言い難い。解散前から意欲を見せる野党再編の展望も開けていない。

◆1票の格差是正が急務

次世代の党は議席を大幅に減らし、生活の党も不振だった。

代わって躍進したのが共産党だ。行き場を失った政権批判票の取り込みに成功した。ただ、「安倍政権の暴走をストップさせる」と訴え続けるだけでは、更なる勢力拡大を図るのは難しかろう。

今回の衆院選は、「1票の格差」の是正が小選挙区の「0増5減」にとどまり、抜本的な格差是正は実現しないまま実施された。再び「違憲状態」などの厳しい司法判断が下される可能性が高い。

衆院選挙制度の抜本改革は、選出された議員の正統性にも関わる待ったなしの課題だ。有識者による第三者機関の検討を加速し、抜本改革を早期に実現すべきだ。

産経新聞 2014年12月15日

自公圧勝 安倍路線継続への支持だ 規制緩和と再稼働で成長促せ

「強い日本」を取り戻す路線を継続、加速することに国民は強い支持を与えた。

第47回衆院選は与党の自民、公明両党が3分の2の議席を維持する圧勝を収めた。野党側は民主党の海江田万里代表が落選するなど存在感を示せず、「1強多弱」の状況を打開できなかった。

内政・外交にわたり、第2次安倍晋三内閣の2年間の実績が信任を得たことに加え、デフレ脱却や安全保障体制の強化など諸懸案の解決が、現政権の枠組みの下で強力に推進されることへの期待感が示されたといえよう。

≪野党は受け皿再構築を≫

政権基盤を安定的なものとした安倍首相に求められるのは、内外の危機克服に果敢に挑み、改革を推し進め、日本の立て直しに向けて着実に結果を導き出すことにほかならない。

首相が「この道しかない」と訴えたアベノミクスについて、今度こそ具体的成果を上げることが必要だ。延期した消費税再増税を平成29年4月に確実に実施する環境を整えられるかが焦点となる。

首相が強調した「経済の好循環」を実現するためには、デフレ脱却を確かなものとし、賃上げや雇用拡大を通じて消費を活性化させることが欠かせない。継続的な賃上げを行うにも、その原資となる企業収益を安定的に伸ばすことが必要となる。

法人税減税や規制緩和を具体化し、企業活動を後押ししてもらいたい。とくに「岩盤規制」と呼ばれる抵抗の強い分野の規制緩和こそ、強い政権基盤を生かして取り組むべき課題だろう。

選挙戦を通じて「地方にはまだアベノミクスの恩恵が及んでいない」との批判も強かった。与党側もまだ道半ばであることを認めている。円安に悩む中小企業に対する経営支援はもとより、最低賃金の引き上げにつながる事業環境の整備も急ぐ必要がある。

経済再生には、低廉で安定した電力の供給が不可欠だ。首相はその責任を果たすと選挙中に語った。安全性が確認された原発の再稼働を円滑に進めるべきだ。

成長戦略の柱の一つと位置付けている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉についても、膠着(こうちゃく)状態の打開へ首相の強い指導力が求められる。

前回衆院選では、自民党と日本維新の会、みんなの党など第三極を合わせた憲法改正勢力が4分の3以上を占めた。今回はみんなの解党など第三極の低迷で数は減った。今後は、自公両党が憲法改正にどう臨むかが問われよう。

首相は「リーダーシップを発揮しながら憲法改正の議論を進めていきたい」との主張を実行に移し、国民的議論を盛り上げてほしい。改正案発議には参院でも3分の2が必要だ。憲法改正をめぐる与党協議にも着手すべきだ。

≪与党で憲法協議進めよ≫

尖閣諸島をねらい、国際ルールを無視した海洋進出を図る中国の台頭など、厳しさを増す安全保障環境に備えることが急務だ。

それには日米同盟の抑止力強化が欠かせない。集団的自衛権の限定行使を実際に可能にする安全保障関連法制を来年の通常国会で確実に成立させてほしい。

今回の解散総選挙を野党側は大義がないと批判した。だが、有権者の関心度が高まらず低投票率を招いたのは野党側の要因も大きい。とくに政権交代を掲げず、過半数に届かぬ候補者しか擁立できなかった民主党の責任は重い。

維新も第三極勢力として踏みとどまったものの、存在感の低下は否めない。

野党側は巨大与党の「暴走」にストップをかけると唱え、アベノミクスの副作用を強調したが、具体的な代替案を示して有権者の心をつかむことができなかった。これでは自公連立政権の受け皿と認知されるのは難しい。

4月の消費税増税後の消費落ち込みは、低所得者層に顕著に表れ、これにどう対応するかは与野党共通の課題だったはずだ。

民主党は「分厚い中間層の再生」を掲げたものの、政策の肉付けを図れなかった。生活者重視の看板を掲げても、現実的な道筋を示さずに戦う限界を露呈した。

国益を守る現実的な外交・安全保障政策を持ちながら、与党とは異なる日本の再生策をまとめられる勢力の存在が不可欠だ。健全な民主主義のため、国家像を論じあえる受け皿の構築が急務だ。

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