重要閣僚が不適切な発言を繰り返している。
麻生副総理兼財務相が7日、札幌市での衆院選の応援演説で、少子高齢化に関し、「高齢者が悪いというイメージを作る人はいっぱいいるが、子どもを産まないのが問題だ」と語った。
社会保障費が増大し、その財源確保が困難になる中、高齢者を支える現役世代の比率低下の深刻さを指摘したかったのだろう。だが、様々な理由で、子どもを産みたくても産めない女性に対する配慮を欠いた発言なのは否めない。
日本の出生率が1・4前後で低迷していることが、人口減少の要因だ。一方、夫婦が理想とする子どもの数は平均2・4人とされ、出生率と開きがある。経済的事情などで結婚・出産に踏み切れない人が多いことの表れと言える。
そうした厳しい現実への目配りが、麻生氏の発言からはうかがうことができない。他の閣僚からも、「ライフスタイルにまで踏み込んだような発言はいかがか」との苦言が出ている。
麻生氏は9日、不適切な発言だったと認め、「安心して子どもを産める環境を作ることが大事だ。時間に追われて説明を省き、誤解を招いた」と釈明した。
それなら、その環境を作る道筋や方策を示すのが、政権を担う政治家の役割ではないか。
麻生氏は6日の演説では、経済政策に関連し、多くの企業が利益を上げる状況を踏まえ、「(利益を)出してないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないからだ」などと述べた。
安倍政権の経済政策「アベノミクス」による株高や円高是正の実績を訴える中での発言だ。
だが、アベノミクスの恩恵は一部にとどまっており、中小企業や地方には行き渡っていない。円安による原材料の高騰などに苦しむ企業も少なくない。
業績が上がらない会社経営者を、「運が悪い」「能力がない」と切り捨てるのはやや乱暴だ。
麻生氏は「経営者は、環境の変化に合わせた努力をするものだ」と弁明しているが、政策効果を広く浸透させる努力が求められる自らの立場を忘れていないか。
少子化対策や格差の是正は安倍政権の優先課題である。今回の一連の不用意な発言は、政策遂行にマイナスとなろう。
発言の背景には、自民党が優位とされる衆院選の情勢もあるのではないか。麻生氏の言動には、気の緩みや慢心が潜んでいる、と見られても仕方あるまい。
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