秘密保護法施行 息苦しい社会にするな

朝日新聞 2014年12月10日

(衆院選)秘密法施行 「不特定」の危うさ

特定秘密保護法が施行された。

何が秘密か、わからない。「特定秘密」は特定できず、行政の恣意的(しいてき)な判断の余地を残している。それを監視すること自体、難しい。危うさを抱えたままの施行である。

衆院解散の直前、安倍首相はテレビ番組でこう語った。

「特定秘密(保護)法は、工作員とかテロリスト、スパイを相手にしていますから、国民は全く基本的に関係ないんですよ。報道が抑圧される例があったら、私は辞めますよ」

安倍首相がそう思ったとしても、そもそも国民が全く関係ないとは言えない。

政府内の情報を求めて動く報道機関や市民運動などの関係者は対象となり得る。乱用を許せば、時の政権の意に染まないメディアや団体への牽制(けんせい)に使われないとも限らない。

安倍首相が辞めるかどうかも問題ではない。問われるのは、どんな政権であっても法を乱用できないようにするための措置であり、その実効性だ。現行法のままでは、それが担保されているとも言えない。

多くの国民の懸念や反対を押しきって施行にこぎ着けた安倍政権が言いたいのは、要するに「政権を信用してほしい」ということだろう。

その言い分を、うのみにするわけにはいかない。

政府内に監視機能が設けられるが、権限は強くない。衆参両院の「情報監視審査会」はまだできていないが、いずれ発足して秘密の提出を求めても政府は拒否できる。指定期間は最長60年で、例外も認める。何が秘密かわからないまま、半永久的に公開されない可能性もある。

行政情報は本来、国民のものであり、「原則公開」と考えるべきだ。それを裏打ちする情報公開法や公文書管理法の改正は置き去りにされている。

安全保障上、守らなければならない秘密はある。しかし、それは不断の検証と将来の公表が前提だ。制度的な保証がなければ、乱用を防ぐための歯止めにはならない。

民主党政権下で秘密保全法制を検討した有識者会議の報告書に、こんな一節があった。

「ひとたび運用を誤れば、国民の重要な権利利益を侵害するおそれがないとは言えない」

懸念は払拭(ふっしょく)されていない。

ちょうど1年前、安倍政権は数を頼みに特定秘密保護法を成立させた。そして衆院選さなかの施行となった。世論を二分したこの法律がいま、改めて問われるべきだ。

毎日新聞 2014年12月10日

秘密保護法施行 息苦しい社会にするな

ウォーターゲート事件でニクソン米大統領を辞任に追い込んだ記者を支え、10月に亡くなった米ワシントン・ポスト紙の元編集主幹、ベンジャミン・ブラドリー氏は「政権と政府はうそをつくものだ」という言葉を残している。

読売新聞 2014年12月10日

秘密保護法施行 他国との情報共有に不可欠だ

日本の平和と安全を維持し、国益を守るには、米国などとの機密情報の共有が欠かせない。その大前提として、政府の本格的な情報保全法制が動き出す意義は大きい。

昨年12月に成立した特定秘密保護法が10日、施行される。

内閣官房、外務、防衛両省など19行政機関が特定秘密の指定を開始し、秘密保護の措置を取る。秘密を漏洩ろうえいした国家公務員らには10年以下の懲役が科される。

日米相互防衛援助協定に基づいて提供された装備品の性能など特別防衛秘密と、国家公務員法上の秘密と合わせて、三重の情報保全体制がようやく始動する。

こうした他の先進国並みの政府全体の統一的な情報漏洩防止策を講じることは、他国と信頼関係を築き、貴重な情報の提供を受けるために不可欠である。

他方で、秘密保護法への国民の懸念が根強いことは否めない。政府が不都合な情報を隠す手段に使われないか。官僚が萎縮し、情報公開や報道機関の取材対応に過度に消極的にならないか。

10月に閣議決定された運用基準には、国民の「知る権利」の尊重、報道の自由への配慮、違法行為の秘密指定や法律の拡張解釈の禁止が盛り込まれた。各行政機関は、この基準をしっかりと踏まえ、安易な秘密指定を避けるべきだ。

不適切な秘密指定に関する内部通報の窓口が内閣府や関係省庁に設置される。窓口を機能させるには、通報者が不利益を被らないように保証せねばならない。

内閣府には、20人規模の情報保全監察室が新設され、審議官級の独立公文書管理監がトップを務める。秘密の漏洩防止と国民の「知る権利」を両立させるため、各機関をきちんと監視してほしい。

法律の運用状況の透明性を確保することも大切だ。無論、秘密の内容は明らかにできないが、可能な範囲でどんな種類の秘密が指定されたのかを国民に知らせることが、無用な誤解を減らし、過剰な反対論を和らげるだろう。

安倍首相や関係閣僚は、国民に丁寧に説明する必要がある。

国会の責任も重い。

今年6月に成立した改正国会法で、衆参両院に委員各8人の情報監視審査会を設置し、政府の法律の運用を監視することになった。審査会は、必要に応じて、政府に秘密の提供を求め、運用の改善を勧告することができる。

国会は衆院選後、審査会のメンバーの人選を急ぎ、その役割をきちんと果たしてもらいたい。

産経新聞 2014年12月12日

秘密保護法施行 機密と知る権利の両立を

安全保障関連の機密の漏洩(ろうえい)を防ぐための特定秘密保護法が、運用基準の策定を経て施行された。「独立公文書管理監」など運用上の監視体制も動き出した。

法律は日本や日本国民の平和と安全を守るために必要なものとして、昨年12月に成立した。予定通りの施行は妥当だが、何よりも適切な運用が重要であることを改めて指摘したい。

国民の「知る権利」や報道の自由を損なう恐れがないか、との懸念が示されてきたからだ。

安倍晋三首相をはじめ政府は法律の必要性を繰り返し、丁寧に国民に説明すべきである。

なぜ特定秘密保護法が必要なのか。厳しさを増すアジア太平洋地域の安全保障環境に目を向けるべきだ。中国の急激な軍拡や国際ルールを尊重しない形での海洋進出、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発などだ。

日本が機密情報をしっかりと管理できなければ、アメリカや友好国は防衛や重大テロ関連の情報の提供を見送るかもしれない。日米共同の作戦計画や最先端の防衛装備の情報が流出すれば、日米同盟の抑止力は損なわれる。他の友好国にも迷惑をかける。

法律が「息苦しい社会」「戦争する国」をもたらすといった批判は的外れだ。

関係者の不注意やスパイの暗躍による機密漏れを防ぐことは、国や国民の利益になる。法律の趣旨を忘れてはなるまい。

政府の運用基準は報道や取材の自由について「国民の知る権利を保障するものとして十分に配慮する」と定める。当然だが、「十分な配慮」には曖昧さが残る。取材行為に関する「著しく不当な方法によるものと認められないかぎり」という条件も不明確だ。

恣意(しい)的運用を厳に慎むよう、知る権利や報道の自由の重視を求め続けねばならない。

施行を受け、約40万件に及ぶ特定秘密の指定や、特定秘密を扱う公務員や防衛産業の社員らを対象とした「適性評価」と呼ばれる身辺調査が行われる。秘密を守る態勢の本格運用に向け、粛々と作業を進めてほしい。

5年後の見直し規定もある。国民の権利が侵されないよう絶えざる検証が必要だ。宇宙開発にかかわる文部科学省が、特定秘密の指定19機関から外れている点については、再検討の余地がないか。

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