円安は日本経済全体にはプラスだが、痛みを感じる中小企業や消費者も多いのが現状だ。
相場動向に一段と注意を払うとともに、メリットを幅広い層に浸透させていく努力が欠かせない。
円相場が、7年4か月ぶりに1ドル=120円台をつけた。
日銀が10月末に電撃的な追加金融緩和に踏み切った後、1か月あまりで円安が10円も進むという、急ピッチな展開である。
米国の景気が明るさを増し、来年には利上げに転じるとの観測もある。市場では、「強いドル」を背景とした円安局面は当面、続くとする見方が少なくない。
東京市場の平均株価は、1万8000円に迫る水準に上昇している。輸出の持ち直しや、海外で稼いだドルを円換算した利益が膨らむ「円安差益」が、企業業績を押し上げるとの期待は大きい。
例えば大手自動車8社は、1円の円安で合計800億円の増益が見込まれるという。
円安の効果もあって、今年度の上場企業の利益は過去最高の水準に迫る勢いだ。原油価格が大幅に下落していることも、企業業績の追い風となっている。
企業の内部留保にあたる利益剰余金は増加が続き、すでに総額300兆円を超えた。余裕のある企業は、賃金や設備投資などの形で国内に還元し、日本経済の底上げに貢献してもらいたい。
政府は、民間の努力を後押しする政策支援を検討すべきだ。
一方、輸出や海外での事業に直接関わらない中小企業などは、円安の恩恵を受けにくい。円安で輸入原材料などの価格が上がり、利益が圧迫されている中小メーカーは増えている。
トヨタはこれまで、半年ごとに納入価格の引き下げを部品メーカーなどに求めてきたが、今年10月は慣例を破り、値下げ要求を見送った。適切な配慮だろう。
オンリーワンの技術を持つ多様な中小企業は、日本のもの作りを支える貴重な財産だ。日本産業の発展を担う基盤として、官民を挙げて守っていきたい。
円安が家計に与える影響も心配だ。輸入原材料を多く使う冷凍食品などの値上げが相次いでいる。消費者の財布のヒモがさらに固くなり、低迷する消費の回復が一段と遅れる懸念は拭えない。
政府は年明けにも、円安で窮地に立つ中小企業や低所得者への支援策を柱とした経済対策を打ち出す。妥当な対応だが、効果的な施策に絞り込むことが重要だ。
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