円安の加速 物価目標優先で良いか

朝日新聞 2014年12月06日

円安の加速 物価目標優先で良いか

1ドル=120円台まで円安が進んだ。07年7月以来、約7年4カ月ぶりの水準だ。円安はこの夏から加速した。

景気と金融政策で日米の方向性が対照的になったことが一因だ。景気回復が続く米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げの時期を探っている。一方、日本経済は4~6月期、7~9月期とマイナス成長が続く。日本銀行が10月末に追加の金融緩和を決めると、円安の動きがさらに強まった。

追加緩和の理由を日銀は「原油価格の下落は物価を下げる要因となり、デフレマインドの転換を遅らせる恐れがある。デフレ脱却に向けた日銀の決意を示す必要がある」と説明する。

本来、原油価格の下落は、エネルギーの多くを輸入に頼る日本にとってプラスであることは、日銀も認めている。しかし、日銀は「2年で物価上昇率を2%に上げる」ことに目標を置いている。円安が進めば、輸入品の価格を押し上げ、物価全体の上昇にもつながるため、日銀の目標にはかなう。

円安にはマイナスの副作用も伴う。追加緩和に反対した佐藤健裕・日銀審議委員は最近の講演で「円安が輸出の回復を後押しするかどうかは不透明感がある」「円安は今回の景気回復の牽引(けんいん)役である非製造業にとりマイナス要因」と指摘している。

内閣府の景気ウォッチャー調査からも円安への警戒が読み取れる。

「円安の影響から燃料費や原材料の高騰を原因とする値上げの話が出始め、消費の冷え込みが懸念される」(北関東のスーパー)「価格改定できない一方、原材料価格の上昇は加速しており、このままでは減益になる」(中国地方の食品製造業)

海外からの旅行客の増加など明るい面も指摘されているが、そうした声は多くはない。

日本では歴史的に、円安より円高に対する警戒感が強い。民主党政権時代に1ドル=70円台の円高となり、産業界から悲鳴が上がった。

そのことを指摘しながら、安倍首相は現在の選挙戦で「(円安で)環境は大きく変わった。日本で投資をして、雇用をつくっていこうと変わってきた」と、円安の恩恵を強調している。マイナスの側面については、「副作用が出て来ている」と触れる程度だ。

日銀の物価目標は、原油安のメリットを打ち消し、円安のマイナスものみ込むことまで正当化できるのだろうか。経済の実態に即して対応する柔軟さを政府と日銀に求めたい。

読売新聞 2014年12月07日

1ドル=120円台 差益還元で痛みを和らげたい

円安は日本経済全体にはプラスだが、痛みを感じる中小企業や消費者も多いのが現状だ。

相場動向に一段と注意を払うとともに、メリットを幅広い層に浸透させていく努力が欠かせない。

円相場が、7年4か月ぶりに1ドル=120円台をつけた。

日銀が10月末に電撃的な追加金融緩和に踏み切った後、1か月あまりで円安が10円も進むという、急ピッチな展開である。

米国の景気が明るさを増し、来年には利上げに転じるとの観測もある。市場では、「強いドル」を背景とした円安局面は当面、続くとする見方が少なくない。

東京市場の平均株価は、1万8000円に迫る水準に上昇している。輸出の持ち直しや、海外で稼いだドルを円換算した利益が膨らむ「円安差益」が、企業業績を押し上げるとの期待は大きい。

例えば大手自動車8社は、1円の円安で合計800億円の増益が見込まれるという。

円安の効果もあって、今年度の上場企業の利益は過去最高の水準に迫る勢いだ。原油価格が大幅に下落していることも、企業業績の追い風となっている。

企業の内部留保にあたる利益剰余金は増加が続き、すでに総額300兆円を超えた。余裕のある企業は、賃金や設備投資などの形で国内に還元し、日本経済の底上げに貢献してもらいたい。

政府は、民間の努力を後押しする政策支援を検討すべきだ。

一方、輸出や海外での事業に直接関わらない中小企業などは、円安の恩恵を受けにくい。円安で輸入原材料などの価格が上がり、利益が圧迫されている中小メーカーは増えている。

トヨタはこれまで、半年ごとに納入価格の引き下げを部品メーカーなどに求めてきたが、今年10月は慣例を破り、値下げ要求を見送った。適切な配慮だろう。

オンリーワンの技術を持つ多様な中小企業は、日本のもの作りを支える貴重な財産だ。日本産業の発展を担う基盤として、官民を挙げて守っていきたい。

円安が家計に与える影響も心配だ。輸入原材料を多く使う冷凍食品などの値上げが相次いでいる。消費者の財布のヒモがさらに固くなり、低迷する消費の回復が一段と遅れる懸念は拭えない。

政府は年明けにも、円安で窮地に立つ中小企業や低所得者への支援策を柱とした経済対策を打ち出す。妥当な対応だが、効果的な施策に絞り込むことが重要だ。

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