貴乃花当選 新布陣で相撲界を立て直せ

朝日新聞 2010年02月02日

貴乃花当選 角界への重い重い一石

「平成の大横綱」が、徳俵から押し返した。

日本相撲協会の理事選に初めて立候補した元横綱の貴乃花親方が、当選を果たした。苦戦の予想が覆ったのは、角界への危機感と「若い世代に相撲をもっと認知してもらいたい」という改革姿勢が支持されたためだろう。

落選した現職の大島親方は、候補者中最高齢の62歳。年功序列の「番付社会」に37歳が風穴を開けた。

理事選は1968年から立候補制となり、外部理事を除いて2年に1度改選される。ただ出羽海、二所ノ関など五つある「一門」が候補者を事前に調整するのが慣例で、このところも3期連続で無投票だった。

貴乃花親方はそこに、所属していた二所ノ関一門を離脱して挑戦した。

「土俵の鬼」初代若乃花や32回の史上最多優勝を誇る大鵬ら、大横綱が輩出した名門である。角界改革はまったなし、という切迫した思いがあったからに違いない。

貴乃花親方は当選後、具体的な改革案を述べてはいない。これまで明らかにしてきたことから見ると、力士学校の設立や普及、集客策の強化、行司・呼び出しら相撲を支える人々の待遇改善などに力を入れたいようだ。土俵の品格を重んじ、相撲界を盛り上げようという考えが根底にある。

理事になった以上、遠慮をせず積極的な提案をしてほしい。協会も若手の言うことと軽視せず、真剣な議論の出発点ととらえるべきだ。

力士への暴行死事件や大麻問題など、近年の大相撲は不祥事続きだった。客足は遠のき、力士志望者も激減している。有効な手だてを打てない執行部に対して、若手親方を中心に不満が広がっていた。

横綱朝青龍が初場所中に泥酔して、知人にけがを負わせた疑いが浮上している。品位の模範を示すべき立場であるにもかかわらず、また問題が起きた。これも理事選で変化を求めた人々の背中を押したに違いない。

今回、当選した他の理事は60歳代が4人、50歳代が5人、40歳代はおらず、態勢的には旧態依然だ。朝青龍の騒動に象徴されるように、協会は問題への対応も遅く、身内に甘い。力士暴行死事件を発端に2年前から加わった外部理事2人と監事の厳しい助言を受けているのが現状だ。

大相撲を「興行」と割り切ってしまう考え方もあるかもしれない。しかし、これは日本古来の奉納相撲を起源とし、国技を名乗る公共財的な存在だ。何より、協会は税制面の優遇を受ける公益法人である。

角界は土俵際だ、と言われて久しい。貴乃花親方が投じた一石の意味を協会全体で受け止め、大相撲を磨き直す契機としてほしい。

読売新聞 2010年02月02日

貴乃花当選 新布陣で相撲界を立て直せ

不祥事続きの相撲界は待ったなしの改革を求められている。日本相撲協会の理事選挙で新たに選ばれた貴乃花親方らは、横綱朝青龍の暴行問題などで迅速な対応を迫られよう。

理事選では、候補だった11人の親方の中から、10人の理事を選任した。37歳の若さで立候補した貴乃花親方も、下馬評を覆して初当選した。

協会の現状に不満を抱く親方たちの票が、貴乃花親方に流れたということだろう。

理事会は、協会の意思決定機関だ。理事選は、角界の派閥といえる五つの一門の中で、立候補者を調整し、無投票で決着することが多かった。理事を擁し、各一門が協会内で発言権を確保する狙いなどがある。

これに対し、貴乃花親方は、所属した二所ノ関一門を離脱して出馬し、当選した。年功序列、一門への貢献度で候補者を決めてきた慣例に一石を投じたといえる。

ただ、貴乃花親方は、角界の改革に意欲的とされるが、その具体策は明確ではない。当選後も、「与えられた職責を全うしたい」と述べるにとどまった。

現役時代は「平成の大横綱」と称賛されながら、親方になってからは関取を送り出しておらず、実績不足も指摘される。

若手理事として、どう協会を変えていくのか、注視したい。

大相撲の伝統を守っていく。それが相撲協会の大切な役割であることは言うまでもない。しかし、旧弊を改めるのも、協会に与えられた重要な責務である。

時津風部屋での序ノ口力士の暴行死事件の背景には、角界に染みついた暴力体質があった。大麻汚染問題では、力士教育のあり方が問われた。

新理事たちに期待したいのは、不祥事の連鎖を断ち切り、負のイメージを払拭(ふっしょく)することだ。今のままでは、大相撲を目指す若者たちは減るばかりだろう。

ファンは、強い日本人力士の登場を待ちわびている。力士養成のあり方を、各部屋任せにせず、協会が一体となって検討していく必要もあるのではないか。

新布陣の理事会が直面するのは朝青龍問題だ。大相撲を担う看板力士でありながら、横綱としての自覚、品位に欠け、幾度も厳重注意処分を受けている。

泥酔して、一般人を負傷させたとされる今回の問題に、どう対処するのか。ファンは厳しい目で理事会の対応を見ていることを忘れてはならない。

産経新聞 2010年02月04日

相撲協会の改革 「古い体質」脱却が急務だ

貴乃花親方の理事当選などで新しいスタートを切ったはずの日本相撲協会が古い体質から抜け出せないでいる。

「一門」の申し合わせにそむいて貴乃花理事に投票した親方は、一時は協会からの退職を表明した。横綱朝青龍の暴力問題に対処するため設置された委員会の調査も全く進展していない。

日本相撲協会は単なる私的団体ではなく、税制上優遇されている公益法人である。しかし、実態は「一門」といわれる派閥の連合体そのものだ。特に執行部を構成する理事の選挙では、各一門が事前に候補を調整し無投票で決まるのが通例だった。

今回の理事選では貴乃花親方がこうした調整を拒否、6人の親方とともに一門を離脱して立候補した。当初は各一門の締め付けが厳しく、当選は無理とみられていたが、他の一門から、造反する形での票が集まり、理事に選ばれた。このことは一門の壁を破り、閉鎖的な体質に風穴を開けるものと期待を抱かせた。

ところが、貴乃花親方の当選により前理事が落選した一門は、反省するどころか、造反者捜しにヤッキとなり、名乗り出た親方が糾弾される結果となった。

大相撲は日本の伝統文化の一つと言ってもいい。ところが近年は横綱朝青龍の度重なる不祥事や、大麻汚染事件などでファンに見捨てられつつある。特に初場所最中に朝青龍が酔って一般人を殴りケガをさせたとされる事件は、大相撲史に前代未聞の汚点を落としかねない深刻な問題だ。

ファンの信頼を回復するため、外部理事の増加など不祥事に対応できる体制づくりや、親方任せだった力士教育の改革といった協会がやらねばならぬことは多い。

だが理事選をめぐり一門の権益確保に汲々(きゅうきゅう)としている姿からは、そうした危機感が全く感じられない。朝青龍問題の調査委員会もいまだに横綱自身に事情を聴くこともせず、「臭いものにはフタ」の体質をさらけ出している。

4日には相撲協会の諮問機関である横綱審議委員会が、協会の対応の鈍さにシビレを切らしたように臨時の委員会を開く。

そうした声にも十分耳を傾け、古い体質から脱却をはかるべきである。その上で、朝青龍問題には厳しく対処、改革を大胆に進めてほしい。そうしなければ相撲界に明日はない。

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